面倒な罠がある遺跡『魔女ティリーベルのアトリエ』
エスパフの寝相は良い。……いや、普通か。ダクネスが悪すぎただけだよな。
「ほら、起きろ。王都行くぞ」
「ん~……まだ眠いよぉ……」
寝ぼけるエスパフをズボンから強制排出して出発の準備を始める。寒さで震える彼女も渋々身支度を開始し、部屋を出る。
甲板に出ると既に一緒に向かうメンバーが食事の準備をしていた。
一緒に向かうのはカエディステラ、シャワール、ミボット、リナイセム、マナティルカ、サヤカレット、ニチリカの俺を含めた計8名。考えた末の少人数行動だ。
実は最初、1人で戻ろうと思った。……だがウッカリしていた。ここがアスパラオウム王国だという事をうっかり失念していた。
クリスタークじゃないから道中が危険とかは無いので1人で問題ない。けれど、街中を歩くのに男1人は目立つ。そもそも王都にも冒険者の店は存在するのに男が1人で出歩いている様子が見られない。……つまり、冒険者であっても男1人で歩く事が推奨されない理由があるという事だ。……とはいえ、例の地下には俺1人で向かう必要はあるだろうけど。
この時点で誰かを連れて行く事が決まっているわけだが、前回の反省として女性の術者はモテる。この国出身の女性であればそれがステータスだと思うのだろうけど、ウチ等国外出身者は別。よって、別にマウントに興味のないメンバーは術者が向かうより非魔法使いが良いだろうという結論に至った、
該当者を考えて、どうせなら……と道中の戦闘で経験値を得る可能性のあるレイアール出身者と俺の居場所を把握できるニチリカに頼んだ。ただし、ユミリアはドワーフ……亜人種で差別対象なので変身ベルトを着用の上で留守番して貰っている。
……そりゃ、クリスタークやアスパラオウムのような差別国を知れば好んでヒューム族と関わろうとは思わんだろうよ。
早めの朝食を食べ終えてベタパイコーロスを出発する。人数が少ないので馬車1台。8人なので、ゆったりとした空間を快適に思いながらも王都に向かう。
移動期間は2泊3日。とても安全で夜間移動も可能なのではないかと思う程に何も無い移動時間だった。
「早かったですね」
「それ、前回俺もそう思った」
隣を歩くリナイセムに同意する。ちなみにエスパフはフードの中に格納されている。見た目と質量が合ってないので重さは感じない。ただ、後頭部に触れているので存在は確認できていた。
「じゃあ、行ってくるよ」
みんなと別れて1人で例のカフェレストランへ入る。しかし、前回と違い店内に入って直ぐにウェイトレスが行き先を遮って引き留めた。
「いらっしゃいませ。お客様、人数は?」
「あー……えっと……」
正直、これは想定外なパターンだった。いや、ここはカフェレストランなのだからウェイトレスが案内に来ても変ではない。ただ、来た場合の対応方法を俺は知らなかった。
……地下の事を聞いて良いのか? 絶対秘密のパターンだと思うから口にしたらダメだと思うんだが?
「変わるわ……この方はいいの」
「はい、店長」
そう言って若いウェイトレスは厨房の方へ向かい、代わりに見た目的に30代後半と思われる女性が現れる。
「お話は姫様から聞いているわ。さぁ、こちらへ」
そう言ってバックヤードの入り口を案内してくれる。
「行き方は判るわね? 姫様はまだいらしてないけれど、もう直ぐ来ると思うわ」
「ありがとう」
頭を軽く下げて扉を開く。中に入って近くの扉を開けると階段が現れる。階段を降りて記憶を頼りに地下を歩いて行くと見覚えのある男性がこちらに来た。
「真っ直ぐ来られていたか。迎えに来た……こっちだ」
……ゆっくり見て回ろうと思ったんだけど……都合が悪いのか? それとも、俺が余所者だからだろうか?
彼は確か部屋を貸してくれた雑貨屋の店主だ。彼は誘導するように先を歩き、この前入った部屋へと案内される。
「戻った。客人を紹介する」
……客人。単純に余所者って事で良いのかな?
部屋に入ると、上は今俺を連れてきた40歳前後と思われる強面の男性。下はどう見ても未成年と思われる女性。総勢8人いた。
「姫様が連れてきた客人で、ゴールド級冒険者だそうだ」
「どうも。“サクリウスファミリア”のリーダーやっているサクリウス=サイファリオです。それで、皆さんは?」
常識として、普通は「名を尋ねるなら、自分から名乗る」というものがある。だが、この男は敢えて俺から名乗らせた。つまるところ、何か疑っているといったところだろうか?
「こちらは全員、改革派の主要メンバーです。本来はあと2名いまして、会長の姫様とリーダーの……上でカフェレストランを経営している女性です。それで、わたしは一般メンバーのミカルコア=チューンデッタです。貴方を歓迎します」
……あら、可愛い。
見た目が年齢通りであるなら、俺と歳は変わらないだろう。身長は多分160センチくらい。レア色である桃色の瞳に腰まである灰色の髪。綺麗な顔立ちなのだが声は幼く可愛かった。
「ありがとう」
「私はサブリーダー兼、この雑貨屋の主でトールテリシュ=アルトシュタインだ」
ミカルコアの反応を見たからなのか、俺をここまで案内してくれた大男がやっと名乗った。
男性2名、女性6名が自己紹介してくれたけれど、女性は未成年もいる事が気になった。
「それで単刀直入にお伺いしますが、サクリウスさんはわたし達に協力して頂けるのでしょうか?」
俺は彼女の問いに「その方向で考えています」と答えた。
「良かった。実は冒険者と見込んでお願いしたい事が……」
「おいおい!」
ミカルコアの言葉にトールテリシュが割り込む。
「何ですか?」
「まだ奴の背景が判らないだろう?」
……やっぱり何かを疑われていたのか。ただ、何を……あっ、スパイか!
アヤネルヴァの話から察すると、確かにそう考えるよな。
「大丈夫ですよ。わたし、どちらにせよ冒険者を雇わないとダメだったんです。それに、一緒に過ごせば人となりは判ると思いますし」
彼女は淡々と話す。割と表情の起伏も無い訳ではないが少ない方なのだろう。強面のトールテリシュに対して怯む様子が無い。
「だが……」
「あの、その前に受けるとは言っていないので、まずは何を依頼したいのか教えてほしい」
「そうですね。確かに」
何か言いたそうなトールテリシュを手で制する。どう見ても彼女の方が年下なのだが、彼女は平然としていたし、彼もそれに従っていた。
「サクリウスさんは遺跡『魔女ティリーベルのアトリエ』をご存知ですか?
「もちろん」
その遺跡は『竜騎幻想』でも攻略を必須とされる遺跡で、魔剣が手に入る場所だ。
「今から2週間くらい前に『邪竜討伐軍』という多国籍軍が中に入ったんです。その際に王族のスピカレン家から借りた『ティリーベルの懐中時計』を壊してしまったんです。それを修理したので動作確認をしたいのですが、その護衛をお願いしたいのです」
……遺跡の護衛か。
『邪竜討伐軍』が遺跡に入ったのが2週間くらい前だというのなら、まだ遺跡内には敵の発生は少ないはず。少々厄介な罠はあるけれど、道は頭に入っているし、もしかしたら罠に囚われているユニットもいるかもしれない。
「なるほど。それを俺達が受けるとして、人数と報酬はどのくらいを考えていますか?」
「難易度的にそんなに高くないと思っています。シャドウ級1パーティくらいかなと」
「なるほど」
……相場は払うつもりではあるが、想定していた冒険者はシャドウ級と。それで俺等も試されている……どうするかな。
「即決はできないですね。少しだけ考える時間をくれませんか? せめてアヤネルヴァ様が来るくらいまで」
「構わないですよ」
……保留にはさせて貰ったが、俺達も行こうとは考えていたんだよな。
バンッ!
「行きた~い!」
勢いよく扉が開かれるとアヤネルヴァが立っている。……聞いてたんかい!
「姫様、居たんですか?」
「ふふんっ、もちのろんだよ! 面白そうだし、行こうよ!」
……おや? 何故、アヤネルヴァは『アホの子』モードなんだ? ここには改革派の人達しか居ないのに。
いや、一国の姫様に『アホの子』は充分に失礼ではあるけれど、彼女の素を知る者として、今の彼女を端的に表現するのなら我ながら適切な表現だった。
ふと、アヤネルヴァと視線が合うとバチコンとウィンクをされる。意味があるのだとしたら、今の自分にツッコミを入れるなって意味なのだろう。……違ったらスマン。
きっと、素を見せないのは意味がある行動なのだろう。
「お願い、ダメ~?」
俺の元まで来ると、背後に回り込んで抱き着いて来る。背中の感触的に彼女の胸が凄い事になっているに違いない。……見えんけど。
「……大丈夫、受けて」
ボソッと彼女が耳元で囁く。
「い~き~た~い~!」
直ぐに『アホの子』モードに戻って俺の身体を揺すり、頭部が前後に揺すられる。思わず、彼女の腕を2度叩きタップする……あっ、ギブアップの概念無かったっけ。
「ケホッ……解りました。依頼、受けますから」
「やったー♪ イェ~イ!」
俺の身体は解放され、ミカルコアの元へ行きハイタッチをしている。
「じゃあ、報酬はシャドウ級の依頼を6人分という事で、30万ナンスという事で良い?」
「うっ、高い……じゃあ、護衛依頼を遺跡経由で依頼主の居るプラストーロスまでという事なら……で、どうですか?」
……高いか? オマケで平均レベル5って事にしてあげたんだけどな……。
「いいよ。それで」
「宜しくお願いします、サクリウスさん」
席を立って深々と頭を下げるミカルコアをトールテリシュは見ている。ただ、付き合いが無いので、その表情が何を思っているのかまでは読みとれなかった。
「それで何時行くの? 遺跡行くの楽しみ~!」
「ちょ、姫様。一緒に行く気か?」
アヤネルヴァの発言にトールテリシュは露骨に動揺する。
「……ダメ?」
「ダメに決まってますよ。女王様が許すわけが無い」
別のメンバーも引き留める。しかし、彼女は気にする事なく。
「やーだー! アヤネルも行くのっ!」
再び俺の元へ戻ってくると、また背後から抱き着いてきた。ただし、今回は首をちゃんと守っている。
「だから、一緒に付いて行くとミカルコアが女王様に処罰されますよ?」
「大丈夫だもん! 彼はわたしとずっと一緒にいるんだもん。お母様公認だもん!!」
……えっ? 本当に?!
どういう意図か判らないけれど、一応公式の場で女王様本人から求婚された事があるんだが?
「事実だよ~。あたしも聞いたよっ!」
「まぁ、ミクリムゲルテが言うのなら……」
何故か、彼女の言葉に俺を除く全員が納得する。
「んーとね、ミックはアヤネル専属のメイドさんなの」
「……なるほど」
困惑する俺に気付いたのか、アヤネルヴァが補足する。
「ふふ~ん♪ 凄いでしょ?」
「ソウデスネ」
何故かふんぞり返るミクリムゲルテに俺は苦笑した。
真相は判らないけれど、どうやらアヤネルヴァが同行する事は女王様の同意を得ているらしい。事実、同行する準備としてミクリムゲルテは城に戻り荷物を取って来るという。
遺跡『魔女ティリーベルのアトリエ』もユニット犠牲が必須となる罠が存在していて、しかも、『邪竜討伐軍』的には魔剣を入手できるストーリー上迂回不可避の必須ルート。故に過去の経験から察してユニットは犠牲にしている。
……2週間くらい前なら、生存している可能性は充分にある。何故なら非常食くらい持ち歩いているだろうから。簡単に死ねるほど強い敵も不在だし……まぁ、衰弱はしているかもしれないけれど。
「もしかして……いや、考えすぎか?」
女王は、それも見越して……彼女を事故死させるために同行を許可したとか? だとするならば、女王はかなり怖い人だ……と、可能性ではあるけれど認識を改めた。
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