『竜騎幻想』と同じ設定だったアヤネルヴァに惚れる
正門から城を出る。……何故か先にみんなの方が出ていた。
「やっぱり遠回りしましたね」
「え?」
……いや、確かにアヤネルヴァに気を取られていた事は否定できないけれど。
「アヤネル様はお城の中を決まった順路で移動するのです。城の外へ向かっている事は判っていたので、こちらは最短ルートで移動して待っていたのです」
サユリシアの説明で、理解はしたけれど実感が無かった。
「不思議そうですね? 無理ないですよ。他国の方ですし、姫様のおっぱいは凶器ですから」
……やっぱり凶器だよな。
「アヤネル様は人の集まる所を嫌うので、比較的人通りの少ない通路を選ぶんですよ。もちろん、人通りの多い道は最短ルートです。ちなみにわたし達は魔法によるショートカットをしています。遠回りした自覚がないのにわたし達が早いと感じた理由はその辺もあるでしょう」
詳しく説明こそされないが、アヤネルヴァが人通りの多い通路を通らない理由は周囲の悪意から身を守るため……そう考えると『竜騎幻想』の設定そのままなのだと安心できた。
「それでは宿にご案内します」
「宿ですか?」
「えぇ。まだ宿屋を決めていませんよね? 安全な宿に泊まって頂きたいので」
そう言ってサユリシアを先頭にみんなが歩き出す。途中まで一緒だったが故意にアヤネルヴァによって、こっそりと離脱させられた。
みんなと逸れる形で勝手な別行動。本来なら問題行動ではあるのだが、今回は多分大丈夫だろう。……多分、アヤネルヴァが悪いって事に落ち着きそうだから。
半ば強引に連れ出され、何処に連れていかれるのかと思ったらカフェレストランだった。ガラス張りの壁。木造建築でウッドデッキもあり、そこでも食事が可能になっている。
前世にもありそうな白を基調とした建物で、店員も客もお洒落な女性が多かった。
「食事?」
「ううん」
彼女の足取りは軽い。その理由も心当たりがある。その存在を確認できないけれど、ペンダントが原因だろう。
魔器『ラビットウォーク』。この名は『竜騎幻想』でのモノで、実際もこの名である保証は無いけれど、そのままの効果であるならば、身体への重力が4分の1になるというモノ。前世での月よりは重いと思うのだが、もしかしたらイヴァルスフィアの月は4分の1なのかもしれない。……それこそ、確かめようは無いが。
その足取りのまま、彼女はバックヤードへと入っていく。
「ちょっ、入って宜しいのですか?」
「大丈夫」
流石に抵抗があって、その場で留まろうとするも思いの外強い彼女の力によってバックヤードに入ると、扉を閉め、別の扉を開けると地下へ向かう階段があり、先に進む。
「流石に階段は危ないから腕を話した方が……」
「大丈夫」
数秒後に意味を理解する。……そう、俺の身体も軽くなっていた。バランスさえとっていれば転ぶ心配はない。
地下は沢山の人が生活していた。男女共にいて、それこそ他国で普通に見られる景色だった。
少なくとも、生まれて初めて見た光景だった。しかし、前世であれば似たような場所を知っている。……東京駅地下街。それも、かなり薄暗くした感じ。
上の階の煌びやかな世界とは全然違う、危険な臭いが漂う犯罪者の溜まり場だと言われても信じてしまうような場所だった。
ただ、犯罪者の巣でないというのは明らかで、中にいる人達の表情は陰湿な感じではなかった。
俺の腕は引き続き解放される事なく、雑貨屋に案内される。……そう店だ。ある意味、店の中に店があった。
「いらっしゃい」
大柄で強面の男が店番をしていた。売られている商品は短剣や弾丸等の戦闘関係の消耗品。
「奥の部屋借りるね」
アヤネルヴァの言葉に彼は黙って頷く。
再び奥へ連れ込まれそうになるので、流石に尋ねる。
「何処へ連れて行くのさ?」
「直ぐそこ」
そう言って、バックヤードに入っていく。
「ここは何処?」
「うーん……地下?」
求めていない事実を言われつつ、彼女は扉を開けた。
扉の奥は小さな部屋だった。広さは6畳程度。応接室と呼ぶには調度品が安っぽく、薄暗い。
2人で部屋に入ると彼女は扉を閉めて……やっと俺の腕を解放してくれた。
「強引にお招きしてごめんなさい」
開口一番。彼女は普通に話した。
「あぁ、大丈夫」
「え? ……驚かないんですか?」
……「普通に喋れるんかい!」ってツッコミ待ちだったのか?
「いえ、あのア……ゆっくり話していたのはワザとだと気付いていましたので」
……危うく「アホっぽい」と言うところだった……。
「それは失礼しました。改めまして、わたしはアヤネルヴァ=S=ブラヴィットン。先程までの非礼、お詫び致します」
そう言って、深く頭を下げる。
ゲームと一緒なら身長157センチ、膝まで届く淡い茶髪に深い茶色の瞳。童顔と呼ぶほど幼くはないがロリ声の美少女。何より、この世界にブラジャーは無いが推定Wカップと呼ばれる胸は事実のようで、ドワーフ並みは言い過ぎでもかなりの大きさを主張していた。
「実は、国外のゴールド級冒険者である貴方に依頼したい事がありまして、お連れしました」
アホっぽい雰囲気は鳴りを潜め、本来の可愛らしくも凛々しい姫様がそこに居た。
「ここだけの話ですが、この地下施設は改革派の拠点です。ですが、この場所は裏切り者の手によって既に知られているのです。恐らくそう遠くない日に粛清が始まるでしょう。どうか、お力添えして欲しいのです」
そう言って、彼女は俺の手を両手で包むようにとって懇願する。
「その、改革派というのは?」
「女王派でも学院派でも議会派でもない、第四の派閥。武術も魔法も優劣無し。男女は平等では無いし、優劣も無い。その優位性は前提や条件によって変わってくるし、自分に無いモノを持つ者を尊重しましょうという考え方です」
「俺に声をかけた理由は?」
「亜人種を差別しないチームのリーダーだったから」
ふと、視界に二頭身の妖精が見えた。全体的に茶色……プルームの女性だった。
彼女が天井付近で旋回しているのを目で追うが、彼女は何もリアクションを取る事なく俺のフードへ入った。
「依頼というからには報酬は用意している?」
「誠に申し訳ありません。お金を用意できる程、改革派は余裕がありません。ですので、成功報酬にはなりますが、わたしの全てを差し上げます」
そう言うと、彼女は手を離すと抱き着いてきた。
「解りました。とはいえ、俺の一存では決められないので仲間と相談させて下さい」
最初こそ断ろうと思ったのだが……抱き着かれた際の暴力的な感触に抗う事ができなかった。
本来であれば、アヤネルヴァ本人から話して貰うのが理想ではある。けれど、一国の姫君が城から離れたら大問題。……というわけで、彼女と別れた後にみんなと合流。翌日の朝には出発して、3日後にはベタパイコーロスに戻ってきた。
「お帰りなさい。早かったね」
「ただいま。先に紹介するけれど、一緒にいる新顔は新たな同行者でサユリシアさん。みんなには夕飯時にでも紹介しようと思うけれど、彼女の部屋の用意を指示してくれると助かる」
「わかった」
迎えてくれたクレアカリンに告げて、一度自分の部屋へと向かう。
帰って来るまで二泊三日かけたわけだけど、その二泊中にプルームは話しかけてくる事は無かった。こちらから声を掛けもしたが、頷く等のジェスチャーはしてくれるが、会話をしてくれなかった。それどころか、口元に指を立てて静かにするように伝えてきた。
しかし、部屋に入ると彼女は自ら俺の前に姿を現した。
他のプルーム同様に身長は40センチくらい。二頭身で深い茶色の瞳。髪は股上まであり、高い位置でのツインテールにしている。背の翅はトンボのようで、透明だが薄っすらと茶色い。
「ふぅ、ここがサクリッチの部屋?」
「さ、サクリッチ?」
17年の人生において、そう呼ばれたのは初めてだった。
「だって、サクリウス=サイファリオだよね?」
「いや、正しいけれどさ。そう呼ばれたのは初めてだよ」
「ヤバッ、初めてをゲット?」
そう言って、俺の視線の高さまで降りてくる。
「チッス。あたし、空のプルームでエスパフ。エッちゃんって呼んでね!」
バチコンとウィンクする彼女に苦笑してしまう。
「もう他の娘と契約しているっぽいから知っていると思うけれど、あたしは空の上位精霊アトモス様の使いとして来ているの。次期が来たら一緒に古祠まで来て欲しいの」
「うん、わかった」
……一応、上位精霊に対しては敬意をもっているのか。
「ところで、今まで口を開かなかったのって何で?」
「あたし、知っているよ? サクリッチの仲間って、誰もあたしのような妖精を見る事できないんでしょ? だったら、サクリッチがあたしと話したら独り言みたいになっちゃうじゃん」
最初は面喰ったけれど、案外気遣いできて明るい子なのだと理解した。
営業終了後の夕飯時にはサユリシアを紹介した。そのタイミングでアナウンスをして、本来なら風呂の準備ができるまでの休憩時間。地下3階にある会議室に可能な限りの人数が集合していた。
「……という依頼があった」
アヤネルヴァとの件を説明し、今後についてどうするかを相談していた。
「改革派ですか……要は普通の感覚よね?」
リリアンナの問いに頷く。
男の俺からは言い出し難い彼女の意見に心底安堵した。
簡単に言うと女王派とは、『可愛い(美しい)は正義』である。そのバロメーターはどれだけの男性に愛されているかが全て。選ぶのは常に女性側であり、連れている男性の容姿で女性の品位や趣向が表現されるという。優秀な女は優秀な男を連れ歩く……的な考え方だ。
学院派は性差別を是とせず、人の価値は魔法技術の高さだと言われている。結果論で女性の魔法使いは最優秀であり、男性の非魔法使いは最拙劣という扱い。ただし、魔法を使えない女性より、魔法を使える男性の方が優れているという考え方でもある。
議会派は『女性とはほぼ完成された個体である』という事が前提で、男性不要論を訴えている。ただし、子供を作る際にだけ必要で、生活には不要だと認識している。また富と権利の独占を否定し、男を保持しない女は皆賢く、対等であると訴えている。
……確かに改革派を味方にするべきと男の俺なら思うけれど、皆も一緒で安心していた。
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