女王が治める女尊男卑な魔法至上王家アスパラオウム
今回の船旅は長い。それは目的地を決めた時点で覚悟していたし、備えてもいた。
天候は晴れてはいるものの雲が多く、北へ向かえば向かう程に天気が悪くなっている気がする。……きっと、たまたまだ。
船の中は人が増え続けているが故に賑やかで落ち着く事を知らず、俺とは関係ないところで楽しそうな声が聞こえてくる。……これで俺が完全に無関係であれば雰囲気を楽しむだけなのだが、俺の行動次第で不可抗力により何らかに巻き込まれる。もちろん、俺が良い思いをするだけならば俺得なので問題ないが、そうとは限らないのがミソである。
「ねぇねぇ、アスパラオウム王国って、どんな国?」
甲板で食事中、ハルチェルカが俺に聞いてきた。
普段、ハルチェルカは一緒に食事する機会が少ないけれど、今日は俺が座った瞬間に隣へ腰かけていた。
鈍感ではないので一緒に食事をするために俺の利用するテーブルの席を確保しようとする連中が数名いて、椅子取り合戦のような状況になっている事は知っている。多分、今回はハルチェルカも勝利できたのだろう。
「アスパラオウムか……簡単に言うと魔法至上主義な女尊男卑の国って感じかな」
正しく言うなら「魔法至上主義だから女尊男卑の国」なんだけどね。
人の身体は男女で構造が違う。科学的な話では当然ないけれど、一般的に男性は筋力に優れ、女性は魔力に優れると言われている。もちろん、筋力を鍛えた女性の方が一般男性より優れているし、逆に魔力を鍛えた男性は一般女性より優れる。あくまで得手不得手の話だ。
そして、アスパラオウム王国は魔法至上主義。努力している女性が優遇されるのが当たり前であり、結果として男性は不遇になる。もちろん、男性の中でも魔法使いはそこまででは無いが、魔法を使えない天職だった日には厳しい国かもしれない。
……あくまで、俺が知る範囲の話。
「ですから、サクリさんは天職を聞かれたら【妖精操士】と名乗って下さいね」
アオランレイアが会話に加わる。
「あ~、【念動士】だと魔法系天職だと思われないから?」
「もちろんですよ。サクリさんにとってはクリスタークより厳しい環境になりますからね?」
「そんなに?」
頷く彼女に不安を覚える。……俺の想定はもしかして甘いのか?
「それにしても今回は移動期間が長いね?」
話が一段落したと察したハルチェルカが再び話しかけてきた。
「それはそう。ポーンブラはクリスタークの南西。レイアールとの国境近くにある。一方、現在目指している港はアスパラオウムの北にあるからさ。大陸の北側の海に出て少し進まなきゃならないから、結構な距離があるよ」
「じゃあ、もう暫く海上生活が続くのね」
「まぁ、そうだね……ご馳走様っと」
食事を終えて席を立つ。自室に向かう途中に呼び止められた。
「サクリさ~ん!」
「おぅ……酒くさっ!」
「別にいいでしょ? どうせ何もする事なくて暇なんだもの……そんな事より、あたし【澄青騎士】になったから!」
ソラナディアがサラッとそんな報告をする。……まぁ、彼女なら当然進化するのは判っていたけれど……戦闘時の凛々しさが微塵も無く、相変わらず同一人物とは思えない。
「もう、ソラちゃん。サクリさんが困っているよ? あ、わたしも一応【天馬騎士】になりました……天馬、無いですけど……」
「ソラもアイピもおめでとう! けど、天馬か……売っていれば良いけれど……」
どちらにせよクリスタークで買い物は難しかったのだから、入手は厳しいか。
「そういえばイックンは?」
普段はアイミトンと一緒に行動しているイクミタンだが、姿が見えない。
「多分、獣魔術の練習ですね。彼女は【獣魔術士】に進化したので」
獣魔術は、獣の魔法使い。獣の使う技を魔法で再現する。特徴はペットを連れ歩かなくても戦闘力がある事。弱点は……MP切れがあったり、手数が足りなかったり……まぁ色々。それでも、【魔獣操士】のスキルも残しておけば強力なユニットに変わりない。
アイミトンに関しては進化した事でアスパラオウムは快適になるだろう。
「あとね~、アオルッティは【剣豪】、アサミラージュは【水駆機手】、人魚ちゃんは【アークマーマン】に進化してたよ~」
上機嫌にソラナディアが教えてくれた。……コイツ、飲み食いしているか、風呂入っているか、寝ているかなんだよな……航海中。
「ち、な、み、に~! あたしは【氣功闘士】だよ、サクリ君!」
不意に現れたナオリンが背後だから背に乗り、オンブ状態になった。
「おめでとう。ますます近接戦のスペシャリストになりそうだな」
「……だねぇ。だから、アスパラオウムじゃ肩身が狭いかも~」
……それはそうかもだけど、黙っていれば男のような扱いはされないだろうさ。
大陸北西に位置するアスパラオウム王国の北に港町がある。ちなみに北西には大陸最大規模の『王立賢王学院』を擁する学院都市グラヴィアスパシオがあり、中央には王都オムパイタツィーがある。グラヴィアスパシオの東、オムパイタツィーの北にある港町ベタパイコーロスに無事入港した。
「サクリさん、船から降りないでね」
「ん? どういう事?」
アオランレイアからの注意に足を止める。
「ここはアスパラオウム王国ですから……」
「そんなに?」
頷く彼女を見て複雑な気分になった。
「あっ、ワカナディアさん達も『変身の腰紐』で変身しておいて下さいね。アスパラオウム王国はヒューム族以外の人達に人権ないですから」
ワカナディアの姿を見かけたアオランレイアは彼女にも注意を飛ばす。
……そんなだったか?
でも、思い返してみれば確かに『竜騎幻想』で主人公は【剣の乙女】。性別選択はできず、問答無用で女性。女性キャラであれば、アスパラオウム王国で不便は感じないのか。
「うーん……解りました。サクリさん、わたしと町長の所に伺いましょう。わたしだけでは不安なので、マオさんとリリアさん、クレアさんにも来て貰いましょう」
その提案を了承して、予定メンバーが揃うと一緒に船を降りる。
「あら、思ったより……」
「男性がいるね」
アオランレイアの言いかけた言葉をマオルクスが継ぐ。
ただ、俺には違和を感じさせる光景だった。
「船を降りる事、止めて貰って正解だったのかもな」
「そうみたいです」
リリアンナも気付いたようだ。
……町をざっと見回して、子供であっても男性が1人で外を歩いている姿が存在しない。
庭等や店の従業員として男性が1人でいるのは確認できる。しかし、町で見かける男性は女性と共に歩いている人だけだった。
町に着いてから3日目。港での営業許可が下りて翌日から営業開始できる事になった。
メンバーは自由に街を出歩いているものの、俺だけは工夫が必要で……。
「サクリ、一緒に行こう?」
「わたしも一緒するよ」
同行に立候補してくれたのはサキマイールとマオルクス。
「ミサキチはどうする?」
「部屋にいる」
ミサキオレは自室に移動して変身ベルトでヒューム族に変身したらしいのだが、それから部屋の外に出て来ない。アレからずっと俺の部屋で寝泊まりしていたのに、今は自室に籠っている。……まぁ、健全だから良いんだけど。
そんなわけで、たまたま傍に居たと主張する2人と共に船を降りて情報収集へと向かう。
町は男性が単独行動していない事を除けば、一般的な町と変わらなかった。施設も充実していて、ナッツリブア冒険者支援組合やアイアン、カッパー、シャドウ級の冒険者の店が1軒ずつ。鍛冶屋は規模が小さく、革工屋や裁縫屋は町にしては大きいかも知れない。
男性用の物も扱っており問題なく見える……多分、俺が考えている以上に男性がこの町で暮らしているのだろう。
俺の『竜騎幻想』の記憶でもベタパイコーロスは比較的男性人口が多い町だったはず。
……だからこそ、見かける男性の数が少ない事が異常なんだけどね。
「サクリが居なかったら気付かなかったかも」
「だよね……」
サキマイールとマオルクスは俺が指摘した事で町の異常さを理解していた。
「レイアールは男尊女卑だったけれど、別に女子だけで歩いていても問題無かったのに……」
「何でこんな風になったんだろう?」
2人はとても不思議そうに言っているけれど、何となく俺は理解していた。
……男女で異性への考え方と教育が違うからなんだよな……。
あれから、3つの冒険者の店に入って噂話を聞いたり、ナッツリブア冒険者支援組合で『邪竜討伐軍』について話を聞いたりしていた。
「この3人で回っているとトゥーベントのヴィエトゥールを思い出すね」
「あ~、言われてみれば」
マオルクスの指摘で既視感の正体に思い至る。
……あそこはあそこで居心地が悪かったけれども。
「わたしも一緒したかった~」
「また今度ね。そんな事よりサッチン、気付いた?」
ヒカルピナの戯言を流して、サチカーラに尋ねる。
「プラストーロスの事だよね?」
「そう」
今は町での情報収集を終えて、一般的な情報をみんなで共有した後、転生者だけで部屋に集まっていた。
サチカーラも気付いていたプラストーロスとはアスパラオウム王国南東に位置する街の名前。
「どういう事?」
「少なくとも『竜騎幻想』では街ではなく村なんだよね」
そう、これは転生者……『竜騎幻想』のプレイヤーしか気付けない変化。
「プラストーロスって、議会派の人達の街で独立自治区を目指しているって所だよね?」
確かにそんな話を聞いているけれど……そもそも独立自治区なんて設定無いんだよな。
翌日。
「サクリさん。お願いがあるんですけど、王都まで護衛のお願いできませんか?」
「……あぁ、オッケー」
数秒遅れて返事をする。
色々考えた。王都はここより男性の扱いが厳しいかも知れないという可能性と、推しに会えるのではないかという可能性。でも、トゥーベントのようにユニットの配置が変わっている可能性とか。……考えても判らないから行ってみるという結論に至るまでが数秒。
「ここから馬車で2泊3日らしいの。明日の早朝出発ね」
「了解」
アオランレイアに返事をしつつ、城じゃないと会えない推しに会える事を願っていた。
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