偽る姫【風水士】アヤネルヴァ=S=ブラヴィットン
「落ち着いて。さぁ、あなたが賜った新たな天職は?」
……今回に限っては待っていた!
明日から王都オムパイタツィーに向けて出発する。このタイミングで見る予知夢は間違いなく俺が会いたかった推しに会えるというお告げ以外の何物でもないだろう。
「えっとぉ……【風水士】……ですっ! 妖精さんとぉっ……お喋りしたいなっ♪」
この頭のネジが数本緩んでいそうな返事をするアホの子はアヤネルヴァ=S=ブラヴィットン。膝まである淡い茶髪に深い茶色の瞳。157センチというヒューム族女性の平均的な身長なのに可愛らしい童顔。手足がスラッとしていて腰も細い。だが、一番目をひくのは大きすぎる胸。公式にはドワーフ並みの奇形な胸と言われているが、非公式であれば推定Wカップとも言われている超乳の持ち主。
これだけ特徴的だと男性に愛されているユニットだと思われそうではあるが、そうでもない。好きな人はとても好き……だが、苦手な人もそれなりに居るという感じだろうか。
「……できると良いですね」
「えへへ」
そう【職審官】に答えてスキップしながら出ていく。……絶対足元見えなくて危ないと思うんだけどね……慣れだろうか?
そんな彼女はアスパラオウム王国の第二王女。彼女の外見と名前くらいしか知らない王城勤めの者からは「頭に行くべき栄養を胸に奪われたアホ王女」と陰で悪口を言われている。
……そう、アヤネルヴァの思惑通りに。
『天職進化の儀』を終えた彼女は自分の部屋へと戻る。
「アヤネル」
「お姉様ぁ」
その途中、廊下で姉とすれ違う。
「成人おめでとう。天職は何を賜ったの?」
「えっとぉ……【風水士】ですぅ」
「……そう」
それだけ聞くと姉は行ってしまう。ただ、その顔には笑みがこぼれていた。
補足するなら、姉は安堵していた。
ここでは紹介されないが、第一王女である彼女の天職は【修道士】。普段から大聖堂とお城を往復している。タイミングが良ければ大聖堂でも彼女の姿を確認できたりする。……尚、ユニットの1人なのだが、彼女を仲間にするとアヤネルヴァが仲間にできないので、俺は仲間にした事がない。
再び彼女は鼻歌を歌いながらスキップで廊下を進む。
特に彼女は城内勤務の女性には嫌われていた為、彼女の味方は数少ない男性と彼女の近くにいる女性だけだった。
視界が暗転して、アヤネルヴァ関連クエストのイベントアニメーションが流れ始める。
「アスパラオウム王国のブラヴィットン女王には3人の夫君がいる」
アヤネルヴァによるナレーションが流れる。
場面は女王の部屋。
ブラヴィットン女王は魔女である。天職の【魔女】とは違って、ただの異名ではあるけれど。
その異名の理由はその美貌。20代後半くらいの容姿をキープしているのだから美魔女と言って過言じゃない。回想シーンの彼女の姿と現在の彼女の姿が一緒だったりするから、そう言われているんだけどね。
「第一夫君との間には5歳年上の姉が生まれ、第三夫君との間には5歳下の妹が生まれた」
姉の方は中性的で父似のクールビューティーな【修道士】のユニット。妹は5歳下で今はまだ【学鍛童】のはずだが早熟で【魔術士】に天職進化するはず。父親似で現在はショートカットの似合う元気溌剌で好奇心旺盛なお転婆娘だ。
先程も触れたけれど、三姉妹はどれも強力なユニットに成長する。でも、仲間にできるのは1人だけ。
実際に攻略動画をあげている配信者は、彼女達を仲間にしない人も多い。誰も選んだとしても攻略にあまり影響がない以上、育てるにはキャラ愛が必要だろう。
視界が暗転してアヤネルヴァが9歳になり、誕生日を祝われていた。……この当時の彼女は何処にでもいる普通の少女で性格も胸も年齢相応な王女だった。
「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
パーティが開かれて多くの女性が彼女にプレゼントを持って来る。沢山のプレゼントは嬉しいだろうけど、行列ができる程の人達を相手するのは9歳児には結構な苦行だろう。
「アヤネルヴァ姫、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「こちら、プレゼントです」
プレゼントした人の詳しい描写は無い。もしかしたら、誰かの陰謀だったのかもしれないけれど、その証拠もない。
「わぁ、綺麗……ありがとうございます」
そのプレゼントは魔器のネックレス。何の疑いもなく彼女はそれを身に付ける。その瞬間。
「えっ?」
アヤネルヴァの髪がフワッと浮く。
「……これは『反重力のネックレス』。大した力は無いので気持ち身体が軽く感じる程度ですけど、楽しい品ですよ」
「本当にありがとうございます」
彼女が軽く飛ぶと軽く1メートルくらい跳び、着地音も静かだった。
……危険性は何も無い……そう思うよな。
視界が再び暗転し、アヤネルヴァが13歳になった頃。彼女の胸がGカップまで成長していた。……あっ、イヴァルスフィアにブラジャーは無いので、実際に周囲は具体的なサイズを認識していないが……。
「……ねぇ、姫様の胸……」
「下品よね」
廊下でメイド達が話をしている。その死角でアヤネルヴァは聞いていた。
彼女は思春期もあったのかもしれないけど、間もなくしてアホの子として振る舞い始めた。
視界が暗転し、今度は城の正門。
「フフフフフ~ン♪」
鼻歌を歌いながら、アヤネルヴァが城の外へとスキップしていく。
「……」
「……」
城の門番達は何も言わない。……普通、姫様が護衛も連れずに出て行けば止めるもの。だが、彼女達は何もする事は無く、スキップにより大きく跳ねる髪と胸を見守っているだけ。
理由は1つ。止めても聞かない。女王も放置を指示していた。
「おはよう、アヤネル姫」
「おっはよ~!」
城下で暮らす人達もアヤネルヴァの事は認識している。無防備極まりない事だが彼女が襲われたという話は無い。
「お姉さん、だいじょうぶ?」
「あらあら。姫様、ありがとう」
お姉さんと呼ぶには無理のある女性が重い荷物を自分で運んでいる。その姿を見かけて運ぶのを手伝ってあげる。
「お家まで一緒に行こうね~!」
「悪いわね、ありがとう」
軽々と重い荷物を持って、女性と共に歩く。
彼女への女性からのリアクションは二極化している。……凄く友好的か、嫌悪から無視するか。
嫌悪の理由はスタイルのコンプレックスや苦労知らずの雰囲気。逆に友好的な理由は困った人を手助けする優しさや王家の人間とは思えない気さくさだった。
そんな彼女の向かう先は街の外。街を守る衛兵すら彼女の出入りをスルーしていた。
街から離れた野生動物がいるエリアまで移動する。
「……」
アヤネルヴァは周囲を見回して、武器を構える。
「えいっ!」
ドスッ!
先端に糸のようなモノに繋がれた錘を投げつける。岩を砕くと糸のようなモノを引いて錘を手元に引き寄せる。
彼女の手にしている武器は一応鎖鎌に分類されるモノ。ただ、デザイナーの方がお洒落にしようと縄跳び用の縄くらいの細さにされていて、鎖なんだろうけど、ワイヤー? 糸っぽい物に見えていた。
彼女の戦闘能力は高くて、本人は秘密にしているつもり。でも、その実力はバレていた。
ここまで夢を見ていて違和を感じていた。
アヤネルヴァの物語の本質がここまで語られていない。今まで見ていた内容が城の中で味方がほぼ居ない事、保身のためにアホになっている事、武術の鍛錬を怠っていない事くらいか……どれもアヤネルヴァの物語の本質に触れているものではない。
……いや、むしろ不自然なくらいにカットされている?
視界が暗転すると再び城の中に戻っていた。ただし、アニメーションではなく、ゲーム画面。
中心で動いているのは【剣の乙女】。彼女はアヤネルヴァの隣に移動し話しかける。
「こんにちは、お客様。わたしはアヤネルヴァ。よろしくね」
「初めまして。※※※※です」
「お城は初めて? どうぞ、ごゆっくり♪」
これで会話は終わる。
周囲が早送りになり、食料品店に移動する。
早送りではあったが、【剣の乙女】の行動は判る。このシーンが毎回通りにアヤネルヴァを仲間に加えるシーンだとするならば、城を出た後に大聖堂へ行き、姉に声を掛けて仲間入りを断ってから食料品店に来たはず。
それ以前に連れ歩く仲間は男性を含まない事が条件だったはず。
「あら、※※※※ちゃんもお買い物?」
「アヤネルヴァ姫をお探ししていました」
話しかけると、選択肢が現れる。「仲間になって」と「何か作るの?」の二択。もちろん、ここでは「仲間になって」が選ばれる。
「え~?! アヤネルが?」
「お願いします」
驚くアヤネルヴァ。
「お姉ちゃんと間違えているんじゃ……?」
「いいえ」
彼女は右往左往しながら慌てているように動き出す。
「後悔しない?」
「はい」
……ここまで省略されているけれど、全部返事は二択。全部正解する事でピタっと止まる。
「何を考えているの?」
アホっぽいホンワカした話し方から一転、彼女は普通のトーンで尋ねた。
視界が暗転する。
「えっ、ここで?」とは内心思った。俺の記憶では、この後【剣の乙女】が『邪竜討伐軍』について説明して、一緒に戦ってほしいとお願いする。その後に「わかりました」と言って仲間になるはずなんだよな。
……なんて考えていたら、次のシーンはエンディングのようだ。
「お母様。もう性別に関係なく天職による差別もない国を国民は望んでいます。現に反乱が起きている今、長く続いた王制の時代は終了したのです」
「……認めぬ。断じて認めぬ! こうなったら、反乱分子を全て超広域殲滅級魔法で一掃してくれる!」
ボシュッ!
独特な銃の発射音。同時に女王の眉間は弾に打ち抜かれていた。
「お母様!」
銃を撃った犯人は誰か判らず、女王は亡くなり、反乱が沈静化……アヤネルヴァによって王制は終了し、議会による民主政治による統治が始まる。
……これがグッドエンドだ。
ちなみにノーマルエンドは国を捨て、身分を偽って、【剣の乙女】と共に平民生活をエンジョイする。
ただ、バッドエンドだけは絶対避けたい。何故なら死亡エンドだから。
邪竜王を討伐しても国の混乱は収まらず、女王派と学院派の争いは激しさを増していた。国に戻ってきたアヤネルヴァは、学院派の人達に捕まって人質にされ……見殺しにされる運命になっている。
「おはようございます、主人」
……目が覚めた。
予知夢を見たからなのか、目覚めは良かった。
「おはよう、ユカリッサ」
ユカリッサの外見のモデルと同じ人格ならば誰かを起こすなんてありえない……内面のモデルの人は優しい人なのだろう。
着替えながら考える。
実は俺がアヤネルヴァを誘いたいのには理由がある。……『竜騎幻想』においてアヤネルヴァを誘わなかった場合、エンディングでは死亡する。仲間に加えてノーマルエンド以上で救える命であるなら、絶対仲間に誘うべきだ。
……夢に見たって事は、当然ムッチミラは彼女を仲間に加えなかったのだろうし。
「さて、行くか……」
割と誘った事で不幸にしたのではないかと悩むが、今回は逆に絶対誘うと心に誓っていた。
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