闇の上位精霊クラウディは額に角の生えた大きな豹
「あっ、明るい……」
アイナッツの一言で暗視能力が無くとも周囲が判るくらいには明るいと知った。
ニチリカに頼んで暗視能力の共有を切って貰う。
「……オゥ……」
……いや、明るいよ? 明るいけれど……前世を含めて人生で2度目の経験。もちろん、ナッツリブア大陸には無い技術だと思われる。……転生者が持ち込んで無ければ。
「これ、ブラックライトだよね?」
「そうですね」
コトリスティナにサチカーラも同意する。2人も暗視能力の共有が解除されたようだ。
ちなみに俺がこれを経験したのは前世でボーリング場が一時的に演出としてブラックライトの照明になった事がある。……アレ、苦手なんだよな……色識別がおかしくなる……。
「何これ? すっごく明るい」
……ん?
ダクネスの一言で、普段と違うと理解する。
「ん~、『邪竜討伐軍』が来たから? ……とは考えられないか」
自分で言って否定する。
クラウディがそうだとは言わないが、これまでの上位精霊達の反応を見る限り、彼女達が歓迎されているとは思えない。そして、最近歓迎されない理由に心当たりが生まれた。
……『邪竜討伐軍』って依頼をこなさないから大陸に関する問題について放置だからな。
「えっと、それで俺達は何処に向かえば良い?」
「あっ、案内する~」
ダクネスはそう言うと、クラウディの元へ案内を始めた。
ブラックライトで照らされているとはいえ、視界に困らない程度であって暗い事に変わりはない。むしろ怪しい雰囲気で俺以外もソワソワしているように見えた。
何処に案内するとは言われていないが、他の古祠と間取りは変わっていない。だから最初に進んだ方向でクラウディのところに向かう事は直ぐに判った。……余程のひねくれ具合じゃない限り間違いないだろう。
「もしかして、この照明は俺達のため?」
「うん、絶対そうだと思う」
……そう考えると、やっぱりここでも『邪竜討伐軍』の行動は残念なものだったのだろう。
「ここでの滞在時間は今回長そうかな?」
「うーん……そうでもないかも? 詳しくはクラウディ様に聞いた方が良いかも」
一度は話を聞く時間も無く、慌ただしく帰った事もある。
「念のため、優先度の高い話からにするか……」
全部聞くのは難しいと思った方が良いかも知れない……念のため。
そんな事を考えている内に広い部屋へ辿り着いた。
「いらっしゃいませぇ~。皆さんご無事ですかぁ? 痛いところはありませんかぁ?」
間延びしているが、艶っぽい声。だが、その声の主はそんな雰囲気ではなかった。
第一印象は他の上位精霊同様な大きさの黒い豹。ただし、額に大きな鋭い角が生えていて、彼女がクラウディだと理解させられる。
「皆様、初めましてぇ。闇の上位精霊にして、この古祠の主でクラウディって名前なのぉ。仲良くしてくれたら、嬉しいですぅ」
そして「フフフ」と笑う。上品というより妖艶。同じ種族だったらセクシーなお姉さんだったのだろうと思われる……いや、豹だけどね。
「初めまして。サクリウス=サイファリオです」
「話はいろいろ伺っているわぁ」
「えっと、よい話だったら良いのですが……」
「フフフッ……素敵な方って聞いてますよぉ」
「恐縮です」
……なんだろう、何か話し難い……見た目と中身のギャップが激しいからか?
言い回しは違うけれど、毎度の定型台詞を言われた後。
「何か聞きたい事はあるかしらぁ?」
「俺達はとりあえず、クリスタークを離れてアスパラオウムへ向かおうと思いますが、行く前にやっておいた方が良い事……的な助言はありますか?」
最近、色々判ってきた。
精霊というのは人の細かい営みに関心が無い。あるのは大陸の環境保全的な事。あと生態系管理的な何か。例えるなら、街運営シミュレーションのプレイヤーポジション。プレイヤーキャラクターというものが存在せず、管理するだけ。
一方、フェアリークイーンは上位精霊に未来を教えて貰っている代わりに人社会に人員を派遣して情報を取って来る役割。だから、人の細かい営みにも詳しい。
だから、ここで気になる事を尋ねても期待する答えは得られない。それよりも未来を視た上で何をするのが最適解か聞く方が利口だと判断した。
「絶対して欲しい事があるのぉ」
顔の位置を下げて俺に近づける。
「えーっと、古祠の入り口のかなり北に町があるでしょ? 何て名前だったかしら?」
「ナイルナット?」
「そう、それよぉ。教えてくれてありがとぉ」
アイシアが自信無さげに伝えると、嬉しそうに彼女は礼を言う。
「そこの革を扱うヒューム族の雌の頼みを聞いて欲しいの。その過程で、力が得られるわ。ただ、その力が目覚めるのは、ずっと先。それまで大切にしてねぇ」
「その力って、神器の類ですか?」
彼女は首を横に振る。……どうやら違うようだ。
「じゃあ、ナイルナットに行って革を扱うヒューム族の女性に声をかけるようにします」
「違うの。向こうから話しかけてくれるみたいよ?」
……あ~、探さなくても良いパターンか。
「あっ、伝え忘れるところだった」
前報酬を貰っているから報告の義務はあるだろう。……うっかり毎回の流れでフェアリークイーンのところに向かう所だった。
「知っているとは思うんだけど、女神の使徒と会いました」
「どんな話をしたのぉ?」
「女神ナンス様は皆さんが『古の精霊』を探している事を知っていました。その上で、導くという形で協力すると話していましたよ」
「あらあら……素敵な報告、ありがとぉ」
声から察するに、多分喜んでいる……表情からでは判らんけど。
「良かったですね」
「えぇ、素敵な未来に近づいているわぁ」
「素敵な未来?」
……いや、まぁ、精霊達の想定通りに事が運んでいるのだから素敵な未来と言えなくもない。
「まだ確定された未来じゃないのだけれどぉ、新しき友との出会いがある可能性があるのぉ」
「新しき友?」
……それって、新しい精霊?
詳細を尋ねると、「まだ判らない」と言葉を濁されてしまった。
これで本当に話は終わった。今度こそフェアリークイーンの所に……そう思っていたら、黒い塊が箱を持って現れた。
近くに来て判った。黒い塊の正体は犬。毛の長い種類のそれだった。
「これが私からの前報酬ですぅ。遠慮せず受け取ってねぇ」
語尾にハートマークが飛びそうな感じで毎回色っぽく話すけれど、豹なんだよな……。
「ありがたく頂きます。ミナ、お願い」
「こちらで箱を開けても宜しいですか?」
クラウディの了承を得て中身を確認しながら収納して貰う。
「あのぉ、改めまして。わたしは闇の中位精霊でグリムと申します。ご挨拶させて頂くのは、お察しかと思いますが、アイシアと契約したいと思い、お願いに来ました」
……やっぱり。
「久しぶり。貴女、話せたのね」
「もちろん。契約をして頂ければ外でも話ができるようになりますよ」
……なるほど。アイシアもグリムと名乗る犬を見たことがあったんだ。
「契約って?」
「あ~、精霊と契約すると天職進化を導いてくれるんだよ」
「つまり、強くなるのね?」
彼女に頷いて答える。
「その、グリムさん。何時からアイちゃんの事を?」
「彼女が幼い頃から素質ある者として彼女を見守ってまいりました。見つかってしまったのは、彼女が命を狙われたタイミングで助けた事がキッカケでした。……是非、わたしと契約を……」
「強くなるんでしょ? いいわよ」
乗り気な彼女に安堵しつつ、ついでにクラウディからみんなに依頼の経緯を説明して貰った。
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