特殊な妖魔との戦闘に本来苦戦していたはずだった
「敵影を発見。目標1、普通のレベル1アンテグラよ」
「コトリス」
どうせならば経験値稼ぎを兼ねて。戦闘力的に1対1が難しければ、援護を付ければ良いと戦う様子を見守る。
コトリスティナは鉄扇を構えて間合いを詰めるために駆け出す。
アンテグラは魔法による石弾を飛ばしてくるが、コトリスティナをすり抜ける。
「えっ?」
彼女はただ真っ直ぐにアンテグラに駆け寄ると、近接戦の間合いに入る。その瞬間、アンテグラの拳が彼女の顔面を捕らえ……すり抜けた。
その異常さに味方である俺達も驚くが、驚いている間に彼女は鉄扇を開いて斬りつけ、一撃も貰わずして倒しきってしまった。
「凄く硬いね、アンテグラ族って……」
「いやいやいや、どういう事?」
アンテグラ族は目が悪い。その分聴覚が発達していて敵を捕らえる。……仮にコトリスティナの位置を誤認したとして、どうやって?
「あっ、幻影のわたしを攻撃していた件?」
「そうだよ。アイツ等の目って……」
「ほぼ見えないのよね? 知ってる。でも、その分耳が良いから幻聴を聞かせて位置を誤認させたの」
小さな声で俺にだけ事情を説明する。
……うん、やっぱりそうか。まぁ、それしかないよな。ただ言うのは簡単だけれどさ……。
詳しくないけれど、多分『立体音響』。それを魔法でやっているのではないだろうか? それで位置を誤認したのなら納得する。
「よく判らないけれど、凄いね……」
俺はただ、語彙力消失した賛辞しか言えなかった。
最初の1匹で心配ないと判断した俺は、ただのアンテグラであれば経験値稼ぎのためにコトリスティナに任せた。〈遺跡の加護〉で強化されたアンテグラは通常より多くの経験値を得られる。その分強い訳なんだけど、ユニーク職を賜った彼女にとっては問題ないレベルのようだ。
とはいえ、俺自身で知っている。ユニーク職が無双できないよう、しっかりと不便さを残すようにしている事。それを工夫して誤魔化す必要がある事も。
……まぁ、仲間とはいえ他人様に弱点をペラペラと話すとは思えないけれど。それでもユニーク職は万能ではない事は確定している。
「おめでとう、コトリスさん。レベルクラウンですよ」
「わぁ、早い」
サヤカレットの報告でコトリスティナも喜ぶ。……だけど。
「大丈夫? 暗すぎじゃない?」
「正直、よく見えません」
俺自身はダクネスのおかげで視界に影響は無い。でも、壁すらも近づかないと見えない程視界が悪いと言っている人も居る。それでも、視界が無くなるよりは良いんだけど。
予め階層が下がれば視界がどんどん悪くなるとは聞いていたけれど、ここまでとは。
「あの、サクリさん」
不意にニチリカさんが声を掛けてきた。声を掛けられる瞬間は毎回いきなりだとは思うが、話しかけられるとは思っていなかった。
「うん?」
「その、ドワーフのユミリアさんには暗視能力がありますよね? なので、その情報を限定的に共有しても宜しいでしょうか?」
「そんな事できるの?」
「視覚情報なら……」
ニチリカにゴーサインを出すと、周囲の反応から明るくなったのだと判った。
「その、実はこのスキルには人数上限がありまして。闇耐性のある6名は外しました。ごめんなさい」
……闇に耐性があるのは、非戦闘要員のアカリフィカとミューディア、アイシアくらいじゃないのか? 残り3名は? あっ、物理攻撃が不要なフローティラス姉妹とメグルーナか。
「ありがとう、助かるよ」
「もっと早くやれば良かったですね。ごめんなさい」
謝る彼女だったが、気にしなくて良いと感謝の言葉だけを伝えた。
「……ねぇ、ニチリカ。念のために聞くけれど、この視界って全員共通?」
こんな質問を投げるのにも当然理由がある。
「いえ。人によって見易さというのは違うモノ。こちらは情報を送るだけ。どの様に表示されるかは、その人が見易いように表示されているはずです。わたしからは、皆さんがどう見えているのかは判りかねますが、表示されるべき情報は同じモノが表示されているはずです」
……うん、何となく理屈は判る。
【見術官】が扱っているのはデータだけ。それを視覚情報として出力されるフォーマットは出力端末である個人次第という事なのだろう。
「なるほど。理解した」
つまり、俺の視界が『竜騎幻想』のゲーム画面みたいに見えているのは、そういう事情なのだろう。……こういうのって、転生モノあるあるだとフィクションなら思うところだけど、残念ながら現実は標準装備じゃなくてオプションのようだ。
視界には、縮尺マップ、情報共有しているメンバー一覧が表示されていて、誰かを見れば頭上に名前、天職、レベル、HP、MPが表示される。……多分敵も〈アナライズ〉後は表示されるのだろう。
「凄く便利だ……」
……むしろ便利過ぎる。悪い事ではないけれどね。
「アンテグラが来ている。戦闘準備を」
全員からの返事が聞こえる。……そう、遠く離れていて怒鳴らないと聞こえない距離でも普通に聞こえた。
「コトリスはもうレベルカンストしているから護衛ね」
情報を共有された事で指示がスムーズになったけれど、誰に指示したか判るように名前を毎回呼ばないと混乱するかもしれない。……まぁ、一長一短か。人数上限が18人というのも難しいところ。
そんな中、情報共有外でアカリフィカが戦っている事にたまたま気付いてしまった。
「何故、戦闘を?」
そんな言葉をアカリフィカに投げる。
彼女はノーマル職の中でも世間的には「当たり」と認識される官職だ。~官というノーマル職は公務員として城勤めが可能な優遇された天職だ。他の職業であれば天職に関係なく就けるのだが、兵士を除く公務員職はどの国も実質官職のみが採用されている。例外があるとしたら、誰1人として官職を賜った人物が公務員を希望しなかった場合くらいか。
……稀にあるんだ。田舎の村で官職を賜ったけれど、村から出たくないために違う職に就くパターンが。
つまり、無理に戦闘をしようと思わなくても何処でも食べていける。どの国でも公務員になれる優遇された天職だ。それなのに、何故戦闘をしたのか? 彼女は戦闘に不向きな【書写官】だというのに。
「わ、わたしは……みんなと共に居たいんです」
よく見ると彼女は震えていた。
彼女が臆病で引っ込み思案な事はこれまでの生活で理解している。彼女なりにチームに尽くそうとする理由は、実質城勤めをクビになり、働く事に対し臆病になっているからと思っている。……でも、彼女の仕事ぶりを見ているとコミュニケーション能力が低いだけで有能だと思うんだけどね。こういうのは、実は他人からの評価より自己評価の方が大事だったりするんだよな。……他人からの評価なんて、気を使われている可能性が大きいと考えてしまうから。
「ここは、とても心地良いんです……だ、だから……クビになりたくない」
「しないよ?」
「……で、でも、サクリさんが言ったんですよ? そ、そのぉ……ノーマル職でも冒険者……戦えないとダメって……」
……うん、言ったね。なるほどな……。
アカリフィカには、「無理はしないでね。死なれたら悲しくて辛い」とだけ伝えた。彼女みたいなタイプには「頑張って」は禁句だと思うから。
そんな話をしている間に地下10階層に到達。ダクネス曰く、次が最下層だそうで……距離が短くて助かる。
最近、距離が長いダンジョンが多すぎるんだよな。
「なるほど、最後くらいはハイアンテグラがいるのか。……それでも簡単だよな」
俺が指示を出すまでもなく、ナツキヨノやアヤカシア、ミューディアが勢い任せに駆逐していく。あまりに一方的過ぎて戦闘というよりは蹂躙だった。
……これが本来の強さに対する評価だよな。
これまでが変だった。難易度爆上がりで……いや、そういう事は正直ちょくちょくある。でも、【剣の乙女】が向かうメインシナリオ外の内容は難易度が壊れている気がする。少しでもレベル上げに手を抜いていたら死人でても変じゃない難易度だ。
「おっ、レベルカンストおめでとう」
見るとニチリカがレベルクラウンになっていた。
「……早い……これがサクリウスさんの力……」
「いやいや、みんなの力ね」
……なんか、『竜騎幻想』通りの難易度だと本当に安心する。
「最後の階段を発見。今絡んでいる相手を倒したら下に降りるよ」
コトリスティナの声。
居場所を確認し、全員を階段まで先導する。
階段がある場所で待機し、全員が集まるのを待っていると最後にミューディアが来て全員の集合を確認した。
「ありがとう、ニチリカ。嫌じゃなければ毎回サポートしてほしい」
正直、彼女のスキル使用のおかげで指示が出しやすく戦闘が格段に簡単になった。
「喜んで。……皆さん、降りましょう」
ニチリカのスキルの偉大さに感謝しつつ、俺達は最下層へと辿り着いた。
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