連続クエスト【絵描師】アカネムの護衛依頼の目的地
翌日になり、森林へ伐採に向かう。どちらかというと、メインは伐採よりも森に現れるオーク達を狩る事だ。一方、坑道へはゴブリンを狩り尽くしたばかりということで、ミボットのみで掘っていくと言う。
「おめでとう、マナティ! レベルクラウン達成よ」
サヤカレットが声を掛ける。
「あとは……あとはアヤカシアさん、ミューディアさん、アイナッツさんとミハーナルさんもおめでとう!」
「レベルクラウンって言われた人は坑道で鉱石運びに行ってね」
「はーい」
指示を出すと返事が返って来て、人が減って行く。
流石国境を越えただけあってオークやハイオークが沢山現れ、少なくとも坑道よりは経験値が稼げていた。
「それにしても、〈森の加護〉を得ているハイオークも簡単に……」
もちろんタイマンで勝負して負かしているわけではない。この前のハイゴブと同じように仲間内で連携している。それでも、初めて上位種と戦った時に比べると簡単に倒せている。多分、慣れと数の暴力なんだろうな。
木を伐採しながらもレベルクラウンの報告を聞く。今回連れてきたメンバーはヒカルピナ以外全員がレベルクラウンに達しそうだ。
ハイオークまでならレア職でも数がいれば連携次第で討伐はできるだろう。そう考えると、『竜滅隊』はまともな連携もできなかったのだろうか?
ゆっくりペースで伐採していたが、結構な量の原木が集まった。魔法を駆使して運ぶから限界量は超えていないが、もう少ししたら戻る頃合いだろう。
「……そういえば、エルフ出て来ないな」
「この辺にエルフはいないです」
そう答えたのは先程レベルクラウンに達したエルフのワカナディア。現在は〈森の加護〉にて聴力がアップ状態だ。
「さっき町で話を聞いたけれど、この辺の森はオークの支配下でエルフは住んでいないらしいよ。もしエルフが住んでいるなら、もう少し森が手入れされているんじゃない?」
アイナッツに指摘されて、確かにそうかもしれないと思った。
日が沈む前に町へ帰る。やっぱり大陸の内側は魔境だよな。でも、収穫は俺達がそんな環境に対応できる程度には強くなっていると確認できた事。
コテージに戻った俺達は夕飯のため食卓を囲む。シオリエルの動きをコピーしているユーリンチェルのおかげで25人分の食事の支度もテキパキと進む。
1テーブルに6人分の椅子。テーブルには余裕があるもののフルで着席すればテーブル4つで1人分余る。……もちろん、余るなら俺。俺が男だからという消極的な理由ではなく、普段から俺の隣が一部の連中で奪い合いが発生しているから、俺が外れる事で席の奪い合いという不毛な時間を潰すためだった。
「サクリ君、1人で食べるくらいなら一緒に食べるよ?」
「いや、全員が席に着いた後で何処かのテーブルに混ぜて貰うから」
……言うと思ったよ、ヒカルピナ。
実は俺が座る席は決めている。全員が着席して残りの席がシオリエルと確定した段階で、俺の席を用意する。場所はサチカーラとマナティルカ、サヤカレットとミューディアが座るテーブルだ。何故なら4人に用事があったから。ちなみに残り2人はヒカルピナとワカナディア。
「みんなに聞きたい事があるんだ。森でアークオークやパラサイトギアって見かけた?」
食事を食べ始めながら尋ねるが全員が「見ていない」と返した。
……それはおかしい。
このスキアーオスクリタはクリスタークの南東に位置する国境に近い町。すぐ近くにレイアールとの国境があり、伐採していた場所は国境を越えた内陸の森。
襲撃してくるのが夜間だとしても、日中は森に潜んでいると思っていた。一応、それを想定して俺が同行していてレベルクラウンには遠いヒカルピナの同行も許可したのだが。
「つまり、何らかの意思でレイアールを狙っているということ?」
「そういう事になるな」
サヤカレットに同意する。
単に人を襲うだけならば、クリスターク側に来ていてもおかしくない。だが、実際は目撃すらない。森に入っても見かけない。……つまり、明確なレイアールへの敵意があるという事になる。
「被害が無いなら無いで、目的も全部終えたし明日にでも撤収しよっか?」
一番の目的である経験値稼ぎ。一応シオリエルとミナコール以外の全員がレベルクラウンに到達していた。
一応、スキアーオスクリタにも【職審官】は常駐していて『天職進化の儀』は受けられるけれど、避ける事が可能であれば極力利用しない方が良いとアヤサフェールから助言されている。
「そうだね。帰ろう」
サヤカレットの一言で俺の意思も固まって、明日の早朝に出発と決めた。
コンコン。
もう完全に日が沈んでいる状態だというのに、玄関の扉がノックされた。その瞬間賑やかだった広間が一瞬で静かになる。みんな武器に手を掛け万が一に備えながら扉に近づく。
「はい、どちら様?」
「すみません、依頼をお願いしたいんです」
聞き覚えのある女性の声。
「依頼?」
俺は念のため警戒しながら扉を開けると想像通りの人がいた。
「貴女はマリーベルさんの娘さん?」
何故知っているか? それは、そもそもポーンブラで受けた依頼のキャンバスの届け先が染め具屋“マリーベル”だったから。最初、店名から届け先の店主は可愛らしい女性かと思ったが、マリーベルってファミリーネームで、店主はおっちゃんだったんだよな。
「えーっと、とりあえず中に」
頷く彼女をとりあえず中に招き入れる。
「わたし、染め具屋の娘でアカネムといいます。実はお城から依頼がありまして。アフタンダークのスヴァルキュリテ城まで護衛して欲しいんです」
……護衛かぁ。俺抜きで行く事も考えて良いが……行かないと面倒な事になりそうだな。
「あのぉ、そもそもお城が染め具屋さんに依頼ですか? しかも、店主は呼ばずに娘さんを?」
「いえ、違うんですよ。染め具屋として呼ばれたわけではなく、【絵描師】として呼ばれています」
【絵描師】アカネム=マリーベル。一般的なヒューム族女性くらいの高さだから、身長は155センチくらいだろう。童顔で顔のつくりに対して大きめな目と桜色の瞳。三つ編みにされた白い髪は踝まであって、解いたらもう少し長いだろう。
【絵描師】とは希少なノーマル職の1つで色を塗る事に特化した天職。絵を描くだけなら【再現師】でも可能だが、水彩画や油絵はもちろん、器や布への色染めも優れていて、着色剤の製作も自分で行う色塗りのスペシャリストではあるが……需要は微妙といったところ。だから、滅多に見かける事がない天職とも言える。
「実は、皆さんに護衛を依頼する事に決めた理由が色々ありまして」
そう言うと、アカネムは自分の知っている話を語り始めた。
「この依頼、実は一週間以上前に来ていたんです」
「一週間以上前? そんなに放置していて大丈夫?」
俺の代わりにアイナッツが交渉してくれている。リリアンナに仕込まれたからなのか、個人的には助かる。
「大丈夫です。お城からお迎えが来る事になっていたのですが、来ないので」
この「来ない」というのは町に到達できなかったという事なのだろう。
「それにも心当たりがあって……皆さんで先日ゴブリン退治をして頂けたんですよね? 実はこの町は長い間ゴブリン達の襲撃を受けていたんです」
オーク族はどうも森から出てくる様子がない。オーク族は人と敵対しているけど、今は森の中で生活が安定しているのだろう。ただ人が森に入る事があれば襲ってくる事は間違いない。それに対し、ゴブリン族は基本的に人を含めた食料が目的で人里を襲う習性がある。ノーマル職であれば〈山の加護〉など無くとも数の暴力で殲滅できると思っているのかもしれないし、そこまで考えてもいない可能性もある。
「襲撃の割に町が荒れていなかったと思うんだけど?」
「それは2年くらい前からゴブリン達と協定を結んだからです」
……協定?
「ゴブリン達は町の住人を襲わない。その代わり町の住人がゴブリンに襲われない限り月に1度食料を。そして年に1度は若い女性をゴブリン達に貢ぐと。最初はそんな約束をしても反故にされて人まで生贄に差し出すような事にはならないだろうと思われていました」
「つまり、ゴブリン達は約束を守ったわけですね?」
「はい。しかし、身の安全のためとはいえ、国境を越えた坑道入り口まで毎月食料を運ぶのは命懸け。限界を感じていた時に現れたのが皆さんとは別の冒険者でした。彼等を坑道に向かわせ討伐してくれれば解決すると思っていたらしいですけど、返り討ちにあったと聞いています」
「なるほど。そうやって偶然を装って坑道に冒険者を送り続けて……あたし達も利用を?」
その問いかけにアカネムは申し訳なさそうに頷いた。
……まんまと利用されたわけか。まぁ、良いけど。
「町の方針としては、そのまま惚けるとは思いますが……わたしが依頼したいと思ったのは、皆さんのそんな強さを信頼できると思って。お願いします。スヴァルキュリテ城まで護衛して貰えませんか? 報酬は25万ナンスあります。ダメでしょうか?」
ゴールド級の依頼として考えるなら全然足りない金額だが、城までの護衛という意味では破格な価格。
「それは……」
「出し過ぎ。たかが王都にある城までの護衛ならカッパー……いや、シャドウ級冒険者でも可能だろう。そうだな、ポーンブラ経由で良いなら2万ナンスで良い」
アイナッツが依頼を受けそうになったので、横入りして適正価格を提示する。そもそも、親がお金を払ったとしても染め具屋が25万ナンスなんて高額を払ったら生活に困るだろう。
他の国ならカッパー級の内容だと思うがクリスターク王国内ならスーパーレア職の冒険者は必要だろう。
「えっ……そのアフタンダークに直行して欲しいのですが……実は今回の依頼者はアイシア姫で、彼女の肖像画を描かないといけないので……」
「悪いな。そもそも、俺達がスキアーオスクリタに来たのはお宅にキャンバスの納品に来たんだぞ? ちゃんと依頼達成の報告をしなきゃならない。どうしても急ぐなら他を当たって……」
アイシア姫か……また俺が来たら今度は帰してくれるかどうか……まぁ、城に入らなければどうという事はないはず……とにかく直行は不可能だと依頼を拒否した。
依頼の達成報告というのもあったが、俺達は鉱石や原木、魔石を大量に持っていた。そして、それを預かっているミナコールも同行している。そんな彼女を連れて王都アフタンダークへは行きたくなかった。
「ポーンブラ経由で良ければ2万ナンス。ダメなら他を当たる。どうします?」
それに確証は無いけれど、俺には2つ引っかかっている事があった。まぁ、直接受ける事に関係していないので言葉にはしないけど。
アカネムは即答できずに悩んでいた。しかし、俺が急かした事もあって苦渋の決断を下したように言う。
「他は頼めない……宜しくお願いします」
彼女の了承を得て、明日の日の出を合図に出発する旨を彼女に伝えた。
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