残念な事にクリスターク王国では法律より金が大事
無言。奴隷を連れ歩く事に罪悪感が酷く、また彼女達も奴隷として人々に晒されている辛さを考えると心が痛い。
前世での学習の結果、理屈は頭では解っている。奴隷になる者にとっても生活の保障が約束される上に奴隷になる前のあらゆる事が清算される都合の良さもある。ただ、それが扱いに釣り合っているのかと考えたら、絶対に違うと現実を見ると思う。……かといって、奴隷から解放されて「あなたは自由です」と放置された時、一番困るのが奴隷なのも忘れない。
……生活基盤を奪っておいて「今後は自由だ」と解放されても生きていく術が無いから。
そんな事を自分に言い聞かせながら急いでアフタンダークを出て、馬車でポーンブラへ向かうが、馬車の中は静かだった。……もう周囲の視線が無いのに。
御者台には当然俺が座っている。荷台には5人乗っているのだが会話は無い。そして、俺の隣には銀髪銀眼の娘が座っていた。……俺には彼女の心当たりがあった。
「あの、もしかしてエリーシラ?」
「やっぱり気付いていたんだ。あの場で名前を呼ばれたらどうしようかと思ったよ」
彼女は俺が6歳の時まで隣に住んでいた幼馴染みのエリーシラ本人だった。
「最初に聞きたいんだけど、この静かさって、奴隷だから主の命令が無いと話せないとかって感じなの?」
「ううん。単純にお互い顔を知っているだけで面識がないし会話もした事ないからだよ」
……あ~、そういう事情ね。
「答え難いなら答えなくても良い。何故、奴隷に?」
「遠い親戚がね、アスパラオウムに居るらしいの。イーベルロマを出た後、そこを目指して旅を続けて、強盗団に襲われて。……幼過ぎたから見逃されて、生きるために孤児院を尋ねたけど何度も拒否されて……少しして、殺されなかったのも孤児院に拒否されるのも銀髪銀眼のせいだって気付いたの」
「そっか」
はっきり言わないけれど、両親は殺害された上に苦労した事は容易に想像ができた。
会話をして、昔の記憶が結構鮮明になってきた。
彼女はエリーシラ=テイルナル。1歳年下の幼馴染み。銀髪銀眼で好き好んでなった訳じゃないけれど、箱入り娘にならざるをえなかった不幸な子。
多分、友達と呼べるのは俺だけだったんじゃないだろうか? それも、彼女の母と俺の実母が仲良かったため。俺の銀髪銀眼に対する差別意識がないのも、この幼少期の経験が大きいのかもしれない。
「孤児院で食べ物と水を恵んで貰って、別の孤児院の行き方を教えて貰って……そうやって生きてきたの。でもね、流石に限界で……そんなある日、一見親切そうな孤児院に出会ったの。その孤児院は一泊だけ許してくれた上に、引き取り手を紹介してくれた。……これで、長い孤独の旅も終わる……そう思っていたの。でも、その人はわたしの髪を全部切って坊主にして、包帯で目隠しをすると、長い旅の末に『マックローム商会』に売却した。……その人は人攫いだったの。『マックローム商会』に沢山の人を売却していたから、強引に引き取らせたみたい」
……もしかしたら、その孤児院って奴隷販売業者の拠点の1つだったのかもな。
「売られてから、読み書きとか色々教わったよ。最低限の教養が無いと売れないって。その過程で知ったの。未成年の奴隷は犯罪だとか奴隷には家畜奴隷と愛玩奴隷がいるとか」
家畜奴隷は肉体労働専用の奴隷。重機の無い世界だから重労働は家畜奴隷の仕事。それは一般教養として幼い頃から田舎でも学ぶ事。俺が自然とそれに嫌悪してしまうのも、無自覚ながらも前世の記憶が影響していたのかもしれない。
一方、愛玩奴隷はタリルマーヤの母のようにペット扱いの奴隷の事。扱いはまだマシのように思えなくもないが、人権がないのは一緒。人としての尊厳は間違いなく破壊されるだろう。
「あと銀髪銀眼は売れない事とか。でも変なの。大陸に存在する国では全て、『未成年は養われる義務がある』という法律があるの。でも、実際は銀髪銀眼だからという理由で拒否される」
……この言い分で、彼女はずっと大きな町や街に行かなかった事は想像できる。それと同時にこれまで田舎の村で受けて来た差別が、人を怖がらせる要因になっていることも。
「実は、もう生きる事に絶望していたの。このまま檻の中でお婆さんになって死んでゴミのように廃棄されるのかなって。そんな時にお客としてお兄ちゃんが来た」
……あっ、俺の事をまだ「お兄ちゃん」って呼んでくれるんだ……。
「それだけじゃなくて、こんなに大きくなってしまったわたしに気付いてくれた。それが嬉しくて……生きていて良かったって……」
彼女は大粒の涙を零し泣き出してしまった。馬車を制御していた俺は頭を撫でる事しかできなかった。
1回目の野営。一番大きな問題は成人が2人しか居ないという事。とはいえ、たった2回だし、多少寝不足だろうと2人で回せなくもない。最悪の場合、奥の手としてオートマタの誰かを呼んでも良い。
見張りを立てないという選択肢は無い。行きも帰りも既に襲撃を何度かされているから。……本当に治安が終わっている。
焚火を囲んでアヤカシアと2人で番をする。前半は俺が起きて、後半は彼女が起きる。お互い起こせるように焚火の前で見張りながら寝る感じ。1人あたり3時間は寝られる計算。3日間の我慢だ。
「わたしの名前はアヤカシア。買って頂きありがとうございました。幸いにも、店内に居た期間はとても短く、店員以外で裸を見られる機会が無く、生き恥は最低限で済みました」
「良かった。貴女の事は存じていました。俺はグアンリヒト王国出身ですので」
……半分嘘。国民だから知っていた訳でなくて、『竜騎幻想』の有能な初期ユニットだから。
「あっ……わたしと知って助けてくれたの?」
彼女の問いに頷く。
「王族の貴女があんな生き恥を晒し続けて良いわけがない。だから、助けた」
「そっか……ありがとう」
彼女自身は伏せているようだが、彼女はアヤカシア=A=オーロラン。グアンリヒト王国オーロラン家の娘にしてコネと実力によりエリートコースを進む若手期待の兵士だ。
それ故に『邪竜討伐軍』へ投入され、戦果を期待されていた……はず。
「実は『邪竜討伐軍』に所属していたのだけど、アックアイル王国を出国してレイアール王国へ向かう途中、妖魔に襲われて。わたしは情けない事に攫われてしまったの」
「いや、海上戦闘は大変ですし」
「それは判っているの。でも、わたしはグアンリヒト王国の兵士。また討ち倒されるなら仕方なくとも、か弱い女性のように攫われてしまうのでは話にならない」
フォローを入れたが、彼女が望むのはそんな言葉では無かったようだ。
「わたしもただ攫われているつもりは無くて。せめて妖魔が何を目的で襲って来たのかくらいは探ってから逃げようと思っていたの。……でも、肝心な事は結局最後まで判らなかった」
妖魔達は、邪竜王の復活により狂暴性は増している。それは間違いない。でも、結局邪竜王が暴れれば妖魔達も無事では済まないはずだ。
……まさか、邪竜王を討とうとする者を倒して保身を狙っているとか?
「唯一判った事は、わたしは人違いで攫われたって事。……邪魔だからって売られたの。しかも、あんな辱めを受けて……」
「他言しないよ。俺」
「……ありがとうございます。でも、これはわたし自身の問題なのです」
……まぁ、だよね。フィクションだったら自害も脳裏を過るのではないか?
「そういえば、俺の知る貴女は、髪がショートボブだったような……」
「そうですね。捕らえられる前はそうでした。武術の邪魔になるので、幼い頃から伸ばした事は無かったの。王族令嬢らしくないって陰で言われていたわ」
……そうなんだよな。このイヴァルスフィアでの王族や大商人の令嬢は、髪をだいたい尻に届くくらいまでは伸ばしている。短めで腰まで。確か「長い髪の美しさも未婚な王族女性のステータス」だと誰かが言っていたような?
「わたしの売値を上げようと、妖魔連中が【美粧師】を脅して魔法で髪を伸ばさせたの。こんな女性らしい髪型、わたしに似合わない。手入れも面倒だし、早く切りたい」
「そうなの? とても綺麗な髪だし、似合っているよ? 艶々な黒髪、今まで伸ばしていなかったのは勿体ないんじゃ?」
嘘にならない範囲で彼女を褒める。これ以上、彼女を自虐させたくなかった。
「そ、そう? ……その、ありがと」
……少しでも自害する気が失せてくれたら嬉しいんだけどな。
……眠い。結局、アヤカシアの話に付き合って寝る時間が1時間減ってしまった。
今日も御者台にはエリーシラが乗って来ると思ったのだが何故か金髪の子が乗っていた。
「ご主人様、わたしをお買い上げ頂き、ありがとうございました。名前はナナカンテリア。わたしともお話して頂けますか?」
「その呼び方は勘弁して。俺の名前はサクリウス。長ければサクリで良い」
「はい、サクリ様。昨日、エリーシラさんとアヤカシアさんのお話、実は少し聞こえていたので、わたしの身の上も聞いて知って頂こうと思いまして」
「攫われて身売りされたんじゃ?」
俺の問いに彼女は首を横にブンブン振った。
「他の子はどうか知らないけれど、わたしは自ら売りました。……わたしが暮らしていた村は貧しくて、その中でも両親は貧しかったんです。毎日食事を得る事もできなくて、このままだと家族全員飢え死にしちゃうから……だから、わたしを売ったお金で生き延びて欲しかった」
「なるほど。寂しくなかった?」
俺の問いは彼女にとって意外なようだった。
「寂しくはありました。家族と離れるのは辛い。でも、優しい家族が死んじゃうのはもっと悲しいから……そんなわけで、わたしには帰る家も無いですし、ずっと傍に置いて下さいね」
孤児院に行くという選択もあっただろうに……多分、これが自ら選んだ覚悟なのだろう。
「その、実際に檻に入って、買いに来る人を見て、怖くなかった?」
感じ取った彼女の覚悟が気のせいかを確認。彼女の中で孤児院という選択が有効ならば、そっちの方が長生きできる……けど、ナンス様の推薦である事を考えると無駄な気もする。
「怖さは……それなりに覚悟はしました。お父さんより年上の変態な小父様に買われて、エッチな事をされるんじゃないかって。でも、そういうお客様はもっと若い子を好むみたいで……その子の事を思うと申し訳ないのですが、正直助かりました。でも、わたしを求める人はそういった目的の可能性が高いと教えられました。だから……サクリ様に買われて嬉しいです。ずっと傍に置いて下さいね」
彼女は孤児院に行く気が無い。その覚悟を無碍にすると傷つけてしまうと都合良く解釈した。
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