ゴールド級冒険者の待遇格差と原作通り腐った王都
……本当に治安は終わっていた。
たった3日間の移動なのに、2度野盗による襲撃を受けた。……まぁ、俺が出るまでもなくみんなが返り討ちにしていたけれど。
そんなわけで、些細な問題のみで無事に王都アフタンダークへ到着した。
「凄いな、雰囲気が独特なんだけど」
「ですね。わたしは初めてではないのですが、少し怖いです」
話し方が普段と違い、スイッチが入っているアオランレイアの様子を見て、既に身構えている感じがする。ただ街を歩いているだけなのに緊張するのは正直息苦しい。
周囲の店は商品が何らかの障壁により保護されているみたいで触れないようになっているし、値段も驚く程に高い。歩いている人達も人類の終焉を感じさせるような人相の悪い連中や物騒な冒険者等で溢れていた。
「思っていた以上にガラが悪い王都だ……」
「そうですね。厄介な事件に巻き込まれる前に目的地へ急ぎましょう」
街の中央にある黒城『スヴァルキュリテ』。『竜騎幻想』の設定では人の皮を被った魑魅魍魎の巣と言われている。その設定も宰相が代わった事で色々変わっているかもしれない。
「城の敷地内でも武装は認められています。ですが、サクリさんは城の中に入る事はできません。護衛でも敷地内までとなっています。送って頂くのもそこまでで大丈夫。……安全ではないですが、襲う動機のある低俗な輩も城内には居ませんから」
……まぁ、彼女達にとって危ないのは城までの道の方だろう。人身売買が盛んな国だから。
クリスターク王国的には、奴隷は己を守る事のできなかった弱者の証。自業自得の烙印でもある。例外は未成年奴隷。奴隷を扱う商人も奴隷商に売りつけた人も総じて罪人。極刑レベルの極悪人扱いである。……ただし、他所の国であれば。クリスターク国内であれば犯罪ではあるが金と力さえあれば何とでもなる。……そういう国だ。
「さて、ここまでだね。気を付けて」
「いってきます」
アオランレイアを筆頭に全員が俺に手を振って中に入って行く。……随分仲良くなったものだと我ながら思う。
さて、帰ろうか……と、城門へ向けて来た道を戻っていたタイミングで白いワンピースを着た如何にもお嬢様っぽい女性が庭園の中で盛大に転びそうなところが視界に入った。
……〈テレポート〉。
うっかり癖で移動して彼女が転ぶ前に受け止めて支えてしまった。
「えっ?!」
「あっ!」
癖である。ある特徴のある女性はよく転ぶ。転ばないまでも躓く。胸が一定サイズより大きいと足元が見えなくなるらしい。それが転ぶ原因と言われている。……で、今はもちろん前世でも身近にそういった人がいて、つい転びそうになると支えてしまう。
ただ、今回に限ってはその判断は明らかにミスだった。
……遠目から誰か判らなかったけど、失敗した……仕方ない、速やかに去るのみ。
「大丈夫?」
「ありがとう」
見た目に反する幼い声。彼女は低身長だけど、明らかに成人だと判る。
「それじゃ……」
「えっ?」
多分、ここは王族専用の庭園。そんなシーンをクエスト内で見た記憶がうろ覚えながらある。そして、目の前にいるのは間違いなくアイシアだった。
アイシア=M=クロノワール。多分今年で17歳。股上まであるクラウンハーフアップにされた明るい黒髪、童顔に大きな二重で深い黒瞳の目、綺麗な白い肌に152センチという低身長に対する推定Kカップの胸……見た感じでは公式資料通りだろう。そして、一番の特徴は重度シスコンの異母兄を持つ男嫌いの国王の娘……お姫様の1人である。
そんな子なので、助けられても迷惑と思う可能性は高く、速やかに去るに限るのである。だがしかし……。
ガシッ!
「待って」
「はい?」
……拙い。何か怒らせたか?
「貴方、名前は? 城の兵士じゃないよね?」
「あ~、俺はサクリウス=サイファリオ。冒険者です」
尋ねられてしまったので最小限の情報を仕方なく出す。黙ったら怪しまれるし、偽名を名乗ればバレた時に怖い。まだ暫くはクリスタークにいる予定だし。
……厄介事に絡まれる前に撤収したい。
「わたし、迷子なの。お願い、お城の入り口まで案内して?」
……いやいやいや。この城に暮らす姫様がそんなわけ……。
「もし、わたしを見捨てるなら悲しみのあまり悲鳴をあげてしまうかも?」
「……」
……はぁ。俺は男ですぜ? 逃がして下さいよ……。
「畏まりました」
「ありがとう。助かります……いこ?」
そう言って手を差し出す。……握手ではないよな? 手を引け?
彼女の意図に迷っていたら、彼女から俺の腕にしがみ付いてきた。
アイシアは無事、城の入り口に置いてきた。目的を達成した時点で死角を利用し、〈テレポート〉を使用して逃げた。
正直、彼女が何を目的としていたか判らない。俺の知っている彼女は男嫌いで自ら男を引き留めるようなキャラじゃない。だからこそ、何故捕まったのか? 考えても判らないし、何か考え事しながら歩くにはこの街は危険過ぎるので思考を中断して周囲を警戒いながら歩く。
マップは頭に入っている。問題は『竜騎幻想』のモノという事くらい。多少の違いは臨機応変に対応するとして、目的の店を探す。店の場所は大雑把にシーナッツから聞いていた。
「見つけた」
酒場や娼館、賭博場が並ぶ怪しい通りにある店。見た目は普通のお店だ。ただ、何を売っている店かは外からでは判断できなかった。
扉を開く。カランカランとドアについていたベルが鳴る。
「いらっしゃいませ、お客様。ここは『マックローム商会』。高価な品を扱う店でございます」
灰色の髪の中年男性が深々と頭を下げる。年齢は50前後だろうか? 品のある人で、見た目で奴隷商とは誰も判らないだろう。
「私はこの店の主で、ケンタグラス=マックロームと申します。以後お見知りおきを」
彼は頭をあげるとそう告げる。表情は穏やかで好印象だからこそ、次の言葉に耳を疑った。
「しかし、若きお客様。冒険者とお見受けします。年齢は……まだ20歳前。そうなると、この店の品は少々高すぎて購入する事が難しいと思われます。今後、お客様が大金を稼げるような英雄になった時に、再びのご来店をして頂けると嬉しく思います」
丁寧な言い回しではあるが、要は「貧乏人は帰れ」と言われたわけで。
「確かに俺はまだ17歳で若いんですけどね……」
そう言いながら、金色に輝く冒険者カードを提示する。
「ほぅ……これは……珍しい」
「ゴールド級冒険者チームのリーダー、サクリウス。金はあります」
「それは大変失礼いたしました、お客様」
そう言って彼は再び深々と頭を下げた。
「それで、どのような商品をお求めでしょう?」
「女の奴隷を何人か探している。ある目的のために必要でしっかり自分で品定めをしたい」
「畏まりました。お客様にお見せするには見苦しいかもしれませんが、品質は保証致します。どうぞ、こちらへ」
ケンタグラスと名乗った店主の案内で、店の奥へと向かった。
「こちらが、当店自慢の商品でございます」
店主の話では、商品は本来希望の品を商談室へ連れて行くシステムだという。しかし、稀に俺みたいな客も居ない事はないという。
……なるほど。見苦しいと言ったのはこういう意味か。確かに人によっては嫌悪するかもしれないな。
かなり広い部屋だった。そこにライオンなんかを入れるような大きさの檻に全裸のヒューム族女性が入っていた。そんな檻が沢山部屋中に詰まれている。
よく見ると両手首と両足首、それと首に枷が付けられている。動くのには不自由しないだろうけど、多分逃げ出さないための仕掛けなのだろう。
……相手の反応で助けるべき人は判る……だっけ?
ジロジロと見るのは失礼だと思いつつも、反応を見るために見て回る。多くの反応とは違う反応を探す。普通の奴隷は自分の身体を隠す事無く買って欲しそうに俺を見る。媚びるような感じではなく、助けを求めるような泣きそうな表情で。
髪や瞳の色はもちろん、身長や年齢もバラバラの女性達。情に訴えるような表情で俺を見ている連中ばかりの中、俗に言う体育座りで顔を膝で隠す人が1人だけ居た。長い黒髪の女性で買って欲しそうには見えなかった。
「この人は?」
「申し訳ありません。ほら、お客様に顔を見せなさい」
店主の指示にその女性は顔をあげて俺を見る。
……あっ、この人はアヤカシアだ!
彼女はグアンリヒト王国兵士で【剣の乙女】が初期で仲間にできるメンバーの1人。黒髪黒瞳の美少女。天職は【戦士】で、最初は盾と片手剣を装備していて、主要キャラの1人なんだよな。ただ、俺の知る彼女は顎のあたりで切り揃えられたショートボブなんだけど、どう見ても座高より長いんだ、髪。そんな彼女は瞳に涙を溜めていた。
「ありがとう。……あの、これで全部ですか?」
「ご希望の品は無かったですか? ……うーん、無くはないですが……お勧めしませんよ?」
そう言うと、彼は更に奥へと案内し始めた。
連れて来られたのは、先程の部屋に比べると凄く狭い。普通に8畳程度の部屋だ。違うのは広さだけではない。部屋は薄暗く、汚い。衛生状態が悪いのか匂いも獣臭くキツイ。
男女が混ざって檻が積まれていた。全部で20人分くらいだろうか?
「先にお伝えします。こちらは訳あり品……いえ、非売品というのが正しい表現かもしれません。訳ありで陳列することができないのです。どうしてもご希望でしたら仕入れ値でお売りしても構いませんが、返品は認めませんし、苦情も受け付けません」
……なるほど、見れば判るか……。
「この金髪金眼の娘は?」
「念のためお話しますが、商品ではない理由は未成年なのですよ」
……何となく判った。ここは成人するまでストックする場所。もちろん、売り物にならない商人が好んで買い取ったとは思えない。事情により買い取らされた娘って事かな。
「……あれ?」
見覚えのある顔だった。彼女は俺を見て気づいたのか、人差し指を自分の口元に立てる。
「決めました。金髪の子、緑髪の子、銀髪の子、黒髪の子、白髪の子の5人と先程の黒髪の女性、計6人を買いたいんだけど、全員で幾らになる?」
「そうですね。成人女性は60万ナンス。金髪の子供は50万ナンス。黒髪の子供は40万ナンス。残りは成人しても販売は難しいでしょうし、引き取ってくれるなら割り引いて……全員で200万ナンスになります。如何ですか?」
「判りました。買います」
「畏まりました。それでは、手続きを行いますので商談室へ」
俺は購入を決めた子達に手を振って、部屋を出た。
「サクリウス様、大変お待たせしました」
俺は霊銀貨2枚を取り出す。かなりの大出費だけど仕方ない。
「確かに丁度頂きます。それではお買い上げの品です。気付かれぬようにお気をつけ下さい」
現れた6人は身体が綺麗に洗われ、粗末ながらも洋服を着せられていた。
「それでは奴隷譲渡の契約を致します」
どういう仕組みか俺の親指に針を刺し、血を枷の5カ所に擦り付けた後に用紙に血判をすると、枷がパリンと音を立てて外れる。
「枷は無くなりましたが、彼女達は既に貴方の奴隷。逆らう事も逃げ出す事も不可能でございます。……ご利用、ありがとうございました」
とりあえず店を出た俺達は、彼女達の安全のためにアフタンダークを最短で出た。
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