シーナッツに聞く『竜滅隊』の運命と【勇者】の存在
「もうこんな時間。そろそろ戻ります」
時計の表示は15時を少し過ぎていた。
アヤサフェールはそう言いながら席を立つ。
「じゃあ、あたし達も」
「両親に説明した後、荷物を整理してきます」
そう言って、3人が船を折り、シーナッツ1人が残る。
「……で?」
彼女はずっと静かに俺達の様子を伺っていた。でも、何の目的もなく長い時間一緒にいるとは思えなかった。
「話し損ねていた事があるの。2人で話がしたいのだけど……」
「じゃあ、あそこに」
空き店舗の2階を指し示す。2人でそこへ移動すると直ぐに彼女から話し始めた。
「うっかりしていたわ。実は助けてあげて欲しい人がいて。サクリウスさんの推しではないけれど、きっと力になるわ……というか、なる。本来は『邪竜討伐軍』や『竜滅隊』に入れたかった人だから」
……女神ナンス様にとっての想定外が発生したって事か。
「アフタンダークにマックローム商会という店があるの。その商会が扱っているのは奴隷。……普通にサクリウスさんがイメージするタイプの奴隷よ。そこに行って「女の奴隷を何人か探している」、「自分で品定めしたい」と言って。あとは相手を見れば助けるべき人は判るから」
「それは、相手の方が俺に関心を示すから?」
その問いにシーナッツは首を傾げる。……多分、そうとは限らないんだろうな。
「ナンス様のお言葉だと、彼女を引き受ける事で必要な仲間が加わると……」
……あ~、勧誘フラグか。
『竜騎幻想』に限らず、戦略シミュレーションゲームではよくあるんだ。『○○を仲間にするためには××で説得しなければならない』的な奴。
「『竜滅隊』に入れたいって、今からでも間に合うんじゃ?」
現在絶賛大活躍中で、クリスターク王国から支持されている邪竜王討伐部隊。人数には難ありのような気もするけれど、不可能ではない。
「いえ、間に合わなかった」
「何で?」
「彼等は既に全滅しているから」
「はい?」
いや、正直他人事だから『邪竜討伐軍』がもう出国した事に比べれば大した衝撃はないけれど、それでも国をあげての一大プロジェクトだったんじゃないの?
「全滅。正確に言うと、1アライアンスで向かった『竜滅隊』を含むチームは、『竜滅隊』を含むほとんどの人が死んで、帰って来た者は現在1名」
「何故……」
いや、推測はできる。単純に相手が強かったからだ。せめて、18人のほとんどがウルトラレア職であれば互角の戦いができたかもしれない。でも、俺が言いたい事はそういう事ではなくて。
「いくらレベル差があったとしても、無茶せず撤退すれば負傷者は出ても全滅は免れたはず」
……結論は撤退しなかったという事なのだけど、その理由が解らない。
「判らない」
シーナッツは短く答える。
「ナンス様はそこまでは教えてくれない。それはきっと意味がある。……多分ですけど」
「ちなみにシーナッツは『竜滅隊』達の戦力は把握している?」
「お世辞にも強いとは言えないかな。彼等の一番の判断ミスはユニーク職がまるで無敵かのように錯覚していた事だと思う」
……ですよね?
「クリスターク王国の方針的に、レベル上げのために近隣で戦って戻って来るという判断はできたと思う?」
「……多分、難しい……」
……多分、それだ。
「それじゃ、死にに行ったも同然……でも、そんな事は誰もが気付いたんでは?」
「そこまでは……」
……俺の考えが飛躍しすぎているのか? 正直判らない。
「ただ、『竜滅隊』の編成は想定されていなかったんだって」
「うん?」
……知ってるよ。『竜騎幻想』に『竜滅隊』なんて出て来ない。
「そもそも、『竜滅隊』にいた4人の転生者は本来、【勇者】の仲間になる予定だった」
「……はい?」
……それを言うなら【勇者】も『竜騎幻想』に出てこんよ。
「その、【勇者】って? ……ユニーク……転生者?」
「ううん。彼はナンス様によって連れて来られた転移者よ」
「転移者?!」
「声が大きい。……わたしは本来、彼の担当なの」
……あ~、使徒にはそれぞれ担当があるのね。そんな事より、このイヴァルスフィアに地球人がいると言う事だろ?
そんなの混乱するなと言う方が無理だ。そもそもイヴァルスフィアというのは日本人が作った『竜騎幻想』の世界だ。つまり、プログラムされた仮想空間だ。
……女神ナンス様は人の身体をデータ化してゲーム世界に転移させたって事なのか?!
「どういう経緯でその転移者さんは来たわけ?」
「それは……ごめんなさい。サクリウスさんには言えないかなぁ」
「禁則事項っすか」
……俺が知ることで都合が悪くなるとかかなぁ?
「話せる部分を話すと、【勇者】は今回、魔王討伐のために仲間を連れて修行の旅に出るはずだったの。でもね、彼がなかなか出発しないものだから、宰相に利用されちゃったってわけ」
……ダメじゃんって言いたいところだけど、こっちの世界の常識が下地にない状態で魔王討伐なんてゲーム以外では考えられないよな……自殺行為だし。
「わたしから言わせれば、1人だけでも生き残ってくれた事は僥倖なのよ」
彼女は彼女で苦労が多そうで、話す彼女は若干疲れているように見えた。
「そういえば何故、【勇者】は『竜滅隊』に参加しなかったんだろう? 転移者云々は置いといたとしても、ユニーク持ちなんだから参加要請あったんじゃ?」
素朴な疑問。グアンリヒト王国だって『天職進化の儀』でうっかりユニーク職だと自白すれば国王に情報が伝達されてしまう。力が全てのクリスターク王国であれば、【勇者】なんてわかりやすい天職を賜った者を把握していないわけがない。
「国は知らないの」
「え?」
「【勇者】はね、『天職進化の儀』を行っていないの。そもそもする必要がない」
「どういう事?」
「彼は、この世界に来た時点で【勇者】なんですよ。女神ナンス様と直接会って恩恵を色々貰っているんです」
……あ~、アレだ。王道の異世界召喚されてチート能力で無双できるタイプの奴か。
「尚更、自ら『竜滅隊』に志願しても変じゃないと思うんだけど」
「彼は、この世界に来た時は既に20歳。そして【勇者】レベル1を賜った。……異世界人はね、【学鍛童】の天職が無いの」
……何を当たり前な事を……なんて一瞬思ってハッとする。
ヒューム族は生まれた時に【学鍛童】レベル1を賜っている。レベルが上がる度に各種ステータスが上がる可能性を有する。そして、【学鍛童】レベルクラウンに達する頃には本人の努力次第では全てのステータスが9ずつ増えている可能性がある。
……【勇者】にはそれが無い。しかも仮に今【勇者】レベル1だったとしたら?
「現段階において本当に弱すぎる事を本人が一番自覚していて。……後は解るよね?」
……つまり、現在の【勇者】のステータスは生まれたての赤ちゃんと同等って事か。
現状、【勇者】は戦う事ができず、育成手段も超難易度。……どうするんだ?
「課題は沢山あるけれど、【勇者】には頑張って貰わなきゃ、少なくとも大陸は滅んじゃう」
「はい?」
……俺はシーナッツの話で何度自分の耳を疑えば良いのか?
「今回、邪竜王を復活させた真犯人を倒すためには成長した【勇者】の力が必要なの」
「……邪竜王を倒すには【剣の乙女】、邪竜王を復活させた奴を倒すには【勇者】それぞれの力が必要って事?」
「……そうなんですよね……はぁ……」
自分で言っていて無茶な事はシーナッツも自覚があるようだ。……無理ゲーだろうよ。
「でも、レベル1つ上がればステータス成長率が異世界人倍率になっているし、何とか強くなって『勇者の剣』を入手して貰わないと……」
……頭抱えているし、大丈夫かなぁ?
「まぁ、俺とは無縁な感じがするんですけど、もしかして【勇者】と会う機会ってあったります?」
「無い世界線もあるんだけど、会うとしたら……多分邪竜王討伐寸前辺りかな」
……あと5年以内ってところかなぁ? 倒せるくらいに成長できていればだけど。……【剣の乙女】も天職進化したって噂を聞かないからなぁ。
「俺の運命を考慮するなら、会わないのは拙いんじゃ?」
「そうなの! でもね、もう色々拗らせているのよ。早いって言ったのにゴブリン相手に戦闘をして負けて……最弱と言われるスライムと戦っても負けて……」
……マジか……スライムって、7歳の時には倒せたような……?
スキルが無くとも、それなりのステータスがあれば力技で倒せるのがスライムだ。……ゴブリンは平地でも厳しいと思う。
「それで、現在はとある孤島で家畜を飼って、畑を耕して、自炊して生活してるの」
「……それは……」
……別ゲーですねって言葉を辛うじて呑み込む。シーナッツもこの世界の住人だし。
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