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セイントゥス島も結局、長居するべき島じゃなかった

 シーナッツも帰り、明日の夕方に本土へ向けて出航が決まった。


 ……日が沈む寸前だったけれど、大丈夫だったのだろうか?


 まぁ、心配したところで彼女は一瞬にして姿が消えてしまうのだから仕方ない。多分スキルを使用しているのだと思う。


「どうかした?」


「いや、村での様子を思い出してて……」


 部屋で寝転がっていたらリナトーラが傍に腰を下ろした。


「どんな?」


「割と俺等の扱いって村では良くないんだ。理由は俺達が武器を携帯した余所者だから。それでも露骨な拒絶はされない。それは地元の人が一緒にいてくれるからだ。でも、俺達に向けられた視線が妙に懐かしくて……」


「ホームシック?」


「……かもしれない」


 そう言って苦笑する。でも、それは幸せだった記憶ではなく、むしろ辛かった記憶。


「この島はクリスターク王国領なのだから、仕方ないって言えば仕方ないんだけどね」


 『竜騎幻想』で知るクリスタークより治安が悪かったクリスターク王国。警戒されて当然なんだよな。


「明日の夕方か……早く出たいところだなぁ」


 村の成り立ちを聞いた以上、それは仕方ない事と理解できるけれど、苦手なのは仕方ない。




「ルイーリスの天職って聞いている?」


 確か、『天職進化の儀』をしていたはずだ。……俺は全く関与できなかったけれど。


「【戦士】だったよ」


「意外。【戦士】を賜ったと言う事は、檻の中でも戦闘訓練をしていたって事か……」


 偉いと思う。俺だったら戦闘訓練していたかと考えると、かなり怪しい。実際、あの事件が無ければ戦闘訓練をやったか判らない。


 ……そういえば。


「エリーシラ、元気かな?」


「その人、誰?」


「俺が初めて見た銀髪銀眼。幼馴染みだったんだ」


 記憶が朧げになっていて、顔は憶えていない。記憶に残るのは銀髪銀眼。


「隣に住んでいたんだ。幼かった俺は銀髪銀眼の意味を知らなくて、母さんが隣の家に良くして貰っていたって事もあって。身体が弱い彼女に合わせて、俺は相手していたんだ。……でも、今思うと、身体が弱かったんじゃないんだろうな」


 そう、きっと差別対策。幼い子供に差別と向き合わせるのは良くないから。でも、そうした経験があって、俺の銀髪銀眼に対する偏見や差別意識が無いのだと思う。


 ……結局、母さんが亡くなったタイミングで引っ越してしまったけれど。


 コンコン。


「はーい、今開ける」


 リナトーラが立ち上がって扉を開ける。


主人マスター、島出身の方々のご家族が会いに来ているそうですよ」


「えっ、こんな時間に?」


 既に日が落ちているというのに……もしかして文句でも言いに来たのだろうか?




 きっと怒りをぶつけられると思いつつ、甲板に上がる。……とても気が重い。


 大切な娘が「口だけ冒険者」だったのに、本当の冒険者として手元から連れ去られてしまい、怒らない親は少ない……多分ね。


 ただ、思ったのとはかなり違っていた。


「貴方がリーダーの方ですか?」


「はい。ゴールド級冒険者チーム“サクリウスファミリア”リーダーのサクリウス=サイファリオです」


 そう言って、冒険者カードを提示する。ご家族の方々は珍しそうに金色の冒険者カードを見つめる。もしかしたら、冒険者カードを見るのは本当に初かもしれない。


「私はこのカナージャの父です。娘の夢を叶えて頂きありがとうございました。聞けば食料調達に苦労されていた様子。少ないかもしれませんが、こちらを受け取って下さい」


 そう言って、母親と思われる女性が台車を押して大量の野菜を積んできた。そして、その台車はまだ複数台あった。


「ありがとうございます。とても助かります」


 ……怒られるかと思ったが、まさか本当に挨拶だったとは……。


「私はアイナッツ、ミハーナルの母です。これからお世話になります」


 そう言うと、大きな箱を持った男性が近付いて俺に手渡す。


「2人の父です。これは是非サクリウスさんの寝室に飾って下さい。ご利益があると思います」


 箱の中身が気になりつつも受け取り礼を伝えた。……ご利益って?




「サクリウスさん、明日の出発時間は夕方でしたよね?」


「うん」


「じゃあ、今日は両親を連れて帰ります。また明日からお願いします」


「島から出た事のない世間知らずな娘ですが、宜しくお願いします」


 そう言って、ご両親達は頭を深々と下げる。


「はい。大切にお預かりします」


 そう返事をすると、カナージャやフローティラス姉妹は両親を連れて家へと帰る。


 ……それでも絶対安全とはならないけれどね。


「それにしても凄い野菜だな……みんな、ミナコールのところに運んでくれる?」


 周りにいる人手に頼んで野菜だけでなく食料全般を提供してくれた事に感謝しつつ、倉庫へと運んで貰う。きっと鮮度劣化を防いでくれるだろう。


 一方俺は、受け取った大きな箱を自室へと運ぶ。


「……なんだこれ? ……組み立て式の人形? ……いや、人形というより……」


 球体関節によりポーズが自在にできる……これ……フィギュアか?


 完成したそれは、多分、1分の1スケールの女神ナンス様の全裸フィギュアだ。全長は160センチにとどかない程度。腰の位置で支えられるスタンドがあって、丁度くびれにフィットする仕組みになっていた。……この像って、絶対成人男性用だろ?




 流石に裸像を飾る趣味はないし、人形は間に合っている。


 フカネーゼに頼んで、この女神像に合った人形用の服を用意して貰い着させる。……これで少しは落ち着くというモノ。


「まぁ、良い人達なんだろうな。……でも……」


 娘が心配なのに態度へ出さない。そして俺を信頼しようと思ってくれている。それだけでも良い人って解る。……でも、気付いていたんだよね。甲板に居たリンクルムへの態度。土地柄仕方ないと頭では解っている。でも……。


「何であんな態度になるんだろう……銀髪銀眼に苦しめられたわけでもないだろうに……」


 本当に気分が悪く、そして悲しい。


 でも、彼等の事情もわかる。熱心なシナンス教信者なのだから、無意識レベルで避けたいと思ってしまうのかもしれないし、本能レベルで怖いのかもしれない。


「ナンス様は絶対、銀髪銀眼に悪い教義を広めていないんだよな」


 何故なら、彼女達も天職を賜れるのだから。




 食事を終えて風呂に入っても、心のモヤモヤはずっと燻っていた。


 ……冥職とか後天的に自分の意思で受け入れたとか、己の弱さに負けて犯罪をした人は、当然それ相応以上の罰は覚悟するべきだと思う。ただ、その相応とは加害者と被害者を除く周囲の者によって裁定される事だけど。


 でも、種族とか身長とか髪や瞳の色だけで、何も悪い事をしないで見た目だけで贔屓や差別が発生するのは納得できない。……俺みたいに考えるのは少数派なんだろうなぁ。




 翌日。少しモヤモヤは残っているが、今日が最後。


 船の外に出る者がほぼ居なかったからか、準備は直ぐに完了した。


 それでも誘導して貰う都合上、約束の夕方まで待つ。それまでに下船していた人達も乗船し、魔導炉にも火が入る。


 船の下にはカナージャ、フローティラス姉妹、アスカーナ、アヤメルディの家族が見送りにきていた。


「じゃあ、行くか。……出航!」


 アヤサフェールの乗った小船が出たのを確認し、合図と共に船がゆっくりと動き始めた。




「サクリさん、服できたよ」


 出航して数分。フカネーゼが服を持ってきた。


「ありがとう、助かったよ」


「……凄いよね、これ。ある意味罰当たりな気もするけれど……」


「いいんだよ。作っている人は敬虔なシナンス教徒なわけだから」


「……そういうもの?」


「たぶんね」


 誰かに見られる前に服を着せたかった。この女神像という名のフィギュアに。……厳密にはオートマタの連中には当然見られている。……あらぬ誤解をされていなければ良いけれど。


「服、どうします? 自分で着せますか? あたしが着せましょうか?」


「え? ……何、その反応?! 距離遠くない?」


「だって……ねぇ?」


「いやいやいや。俺の趣味じゃないからね? フローティラス姉妹の父親から頂いた女神像だからね?」


「そ、そうだよね? ……本当に男っていうのは……」


 ……美少女フィギュアが好きってか? それ誤解だからね? 男なら全員美少女フィギュアが好きと思うなよ? 同じ意味で女性の下着が好きとか、思い込んでいる女いるけど個人差あるからね? 胸やスカートが捲れた瞬間を見ちゃうのは、男の禿をつい見ちゃうのと一緒だからね?!


「まぁ、実際扱いに困るんだよな。人形の服を着せたら、そういう趣味って思われる。任せたら任せたで人形に意識しているって言われるしね……」


「考えすぎ……でもないか。まぁ、着せ方は教えますから。人任せにせずやった方がマシです」


 実際、お任せで作って貰った女神像に着せた服は女神らしさはともかく似合っていた。




 ……これでアニメとかだと、急に意思を持って動き出したりするんだよな……流石に世界観違い過ぎて無いよね……無いよな?


 妙にリアルな女神像を眺めながら、「寝室に置くように」と言われた意味を考えていた。


 船は出航して所要時間は約8時間。小さな船だけど速度はでるらしい。


 短い期間の滞在だったけれど、新たに7名が仲間に加わった。そして別に1名が予約状態。


主人マスター、そんなに熱心に女神像を眺めて……わたしも服を何種類か作って貰おうかしら?」


 ユカルナが耳元で挑発的に囁き、強制的に思考が中断させられた。


「別に女神像を見ていたわけじゃなく、ちょっと思うところがあって」


「思うところ?」


「今回も女性が増えて、俺を除けば79人の女性が船に乗っていて、男は俺1人」


 意図的に必要だからという理由で条件を満たした人はどんどん仲間にしていった事で、結果として自分の居場所が無くなってきていた。


「このご神体、寝室に置くように言われたんだけど……もしかしたら女性除けの意味も兼ねて置くように指示されたのかなって考えちゃってさ」


 ……そう、女神像ならば本来礼拝室に置くよう勧められるはずなんだよな。


主人マスターは、もう少し本能に忠実でも良いと思いますよ?」


 ……本能に従った瞬間、地獄に落ちる自信があるから自粛しているんだよ、全く。

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何卒よろしくお願いします。

尚、5日間連続投稿3日目+明日も5回投稿します!

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