メインシナリオすら歪みの兆候が見え始めて
……身体がだるい。
本来、船に戻って自室のベッドで寝られるという事はかなりの疲労回復を期待できる。その上、ビジュペと離れて寝返りを気にしなくて良いというのは熟睡を助勢するものになるだろうし、オートマタ達も寝起きを襲ってくる事が無くなった。しかし、体調が全快していないのには自身も自覚する原因がある。
全て、寝る前にオートマタ達へMPを注いでいる所為である。
何も予定が無いので気持ちゆっくりしていたが、あまり生活リズムをルーズにし過ぎると起こしに来る連中がいるので、頑張って起きて甲板に上がる準備を始めた。
「おはよう、今日も遅いね?」
「疲れが抜けなくて……」
何故か既に遊びに来ているヒミカンヒルデが俺の対面に座る。……朝食が食べ難いんだが?
あまり良い兆候では無く、チーム内の働いている連中にも良い印象ではない事は承知していても、辛いモノは辛い。
「ふふっ、サクリ。わたし、天職が進化して【舞踊士】を賜ったの」
遅めの朝食を食べているとサキマイールが隣に腰掛けて自慢げに話しかけてきた。
「おっ、おめでとう!」
「サクリさ~ん。わたしの天職も進化して【大司祭】を賜りました」
「おめで……と?」
食事に伸ばした手が止まる。
ユイディアの進化報告を祝おうと見たら視界にカオリアリーゼの姿が視界に入った。
「カオリン、その姿は?」
いつものフルプレート装備ではなく、鉄製ではないハーフプレート装備に変更されていた。
「その、わたしも天職が進化したんですけど、【神盾騎士】というのになりました」
「それ、ユニーク?」
「いえ、エルミさんが一応ウルトラレアと……だた、初めて見たって言っていました」
……多分、ゲーム的に言うと超低確率で得られる希少職業という奴かな? 普通、【重戦士】の進化先は【機戦士】だからね。
「サクリさん。わたしも成人して、さっき【獣操士】を賜ったんです」
「お、フィナちゃん。成人おめでとう!」
みんなに祝われるフィルミーナを羨ましそうにヒミカンヒルデが見ていた。
食事を終えて、こっそりと船を抜け出す。
メンバーの多くはドワーフの坑道でアンデッド退治をしつつ、素材集めをしている。多分、フィルミーナも進化したメンバーと共に経験値を稼ぎに行くだろう。本当ならフィルミーナの相棒を探してあげたいところだが、全く戦えないで相棒探しというのは結構危険だろうし、少しくらい戦闘経験を積んだ方が良いだろう。
一方、俺は神器と【傀儡士】というオリジナルユニーク職のスキルを確認するべく町の外まで来ていた。
人通りのない街道から大きく離れた場所まで行くと、俺の影からユカルナ達が現れる。武器モードの時に勝手に部屋に現れることができたのは、この能力を使用と聞いた。
「じゃあ、早速装備を……」
「待った!」
止めたのはリエストス。
「あのねぇ、ウエポンモードは強力ではあるけれど、エネルギー消費も多いの。あたし達は別に構わないけれど、体調良くないのにMPをまた抜かれても平気?」
「……大丈夫じゃないな……じゃあ、違う方法を……」
「主人、一番注がれたMPを消費しない方法はわたし達に武器で戦わせる事ですよ。わたしは銃が使えますし、みんな武器形状時の武器を使いこなせますから」
どうしようか考えていたらサヤーチカがアドバイスをしてくれた。……武器を装備させて戦わすか……あ~、それで。
俺の中で色々納得した。
「もしかして、みんなが持っている武器って……」
「はい、必要だと思って購入した鉄の武器ですよ」
……なるほど。一番安い装備を入手したわけか。
「それがソルジャーモード?」
「いえいえ。アイドルモードで武器を持っただけです」
「……もしかして、今までも武器さえあれば戦えた?」
「はい」
……言ってくれよ……。
まぁ、それが判った事でアイドルモードはエネルギーをほぼ消費しない。そして、【傀儡士】スキルは条件こそあるけれど、彼女達を強化する事ができる。
「なるほど。普段はその状態で戦闘に参加して貰えば良いわけか。……でも、そうなると、ソルジャーモードって?」
「わたし達の身体の一部を神器化させるの。威力は主人が装備した時よりかなり弱いけど、人が扱う武器よりは強力だよ」
ホーコリンの説明でだいたい理解した。確かに装備した時の威力は異常だからな。
今後の戦い方は決まったけれど、このオリジナルユニーク職を俺が賜った理由を改めて考えると神器運用手段まで女神ナンス様は考えていたという事になるのではと理解した。
天職を賜った時に薄々気づいていたけど、神器運用は強力だけど使い勝手が悪く、実用的なのはスキルで強化したオートマタのアイドルモードで戦う必要があるだろう。今のステータスでは1回の戦闘で戦えなくなる戦い方は可能な限り避けたいし。
そんな訳でスキルによるサポートの仕方の打ち合わせや訓練をした後に船へ戻ると、知らない内にナッツリブア冒険者支援組合へ向かう事になっていて、ほぼ強制的に連行されていた。
「何故、全員で?」
「最初は出国前に冒険者カードの更新をしようという話になったんだけど、人数が増えてゴールド級に昇格するって話になったからサクリ君が帰って来るのを待ってたの」
ナオリンからの説明で趣旨を理解した頃には到着。……歩いて5分程度の近い距離だし。
「それでは、更新のため皆様のカードをお預かりします。少々お待ちください」
受付の方も以前と違い若干の緊張感があったように思う。
ゴールド級冒険者の条件はチーム人数が54人以上、ウルトラレア職が3人以上いる事。現状、大陸に所属する冒険者チームの中でゴールド級は10チーム。その中には活動中なのは当然ながら、名前だけで活動していないチームや分散して活動しているチームもある。それくらい貴重な存在な事は俺も理解していた。
暫く雑談をして待っていると受付の人が戻って来る。
「お待たせしました。こちらが新しい冒険者カードとなります。内容をご確認下さい」
新しいゴールド級冒険者のカードは金色に輝いていた。金色の金属のカードを手に取って見ていると、受付の人が言葉を続ける。
「ご存知かもしれませんが、ゴールド級になりますと各国国王からの依頼もありますし、国内滞在中であれば場合によっては強制的な要請もありえます。その代わり、これまでと違って各国での扱いが大きく変わります。……まぁ、“サクリウスファミリア”の皆様の場合は紹介されて利用していますので、これまでと変わらないかもしれませんが、今後はその紹介も不要となります」
……それは助かるな。毎回、後ろ盾を探すのに苦労したから。
「気を付けます。ありがとうございました」
全員が更新し……特にフィルミーナは初の冒険者カードが嬉しいようで、ずっと眺めている。
そんな彼女を見つつも、ゴールド級の依頼なんて存在しないだろうな……とは思っていた。だって、ゴールド級冒険者1人雇うのに1000万ナンスだよ? 普通の村民には1人だって雇えない。だから、報酬額を下げて依頼を受けることができるという仕組みがあるんだけどね。
見慣れぬゴールド級の冒険者カードに興奮しているメンバーに帰ろうと声を掛けようとする寸前。
「そういえば、サクリウスさん。クリスターク王国の噂は既に聞きましたか?」
「いえ、何か面白い話があるんですか?」
受付の人が帰ろうとする俺を呼び止めた。
「グアンリヒト王国が『邪竜討伐軍』を輩出したようにクリスターク王国も転生者達による『竜滅隊』を編成して中央へ向けて出発したそうですよ」
……はい?
「その『竜滅隊』って?」
「私も詳しくは……ですが、転生者4名を中心とした1パーティで中央へ向けて出発したと聞きましたよ」
「……無茶すぎだろ……」
思わず声に出してしまい、慌てて口を押える。
「大丈夫ですよ。私も同意見です」
ちなみに1パーティとは6人以下のチームの事。参考までに『竜騎幻想』での大陸中央の攻略は1コープス……108人以上が目安とされている。もちろん、最少記録はそれを下回り……うろ覚えではあるけど、確か18人くらいだったはず。どちらにせよ6人は無茶だ。
「参考までにチームの天職の構成とかって情報ありますか?」
「えっと……リーダーがユニーク職の【救世主】。スキルは主に召喚系ですね。それと、【神女】ですね。スキルは奇跡系。3人目が【魔女】で、スキルは魔術系。4人目が【闘匠】で、物理攻撃系ですね。その4人に同行する形で【狩人】と【学者】。最後に非戦闘員で連絡係という名目で【見術官】が監視のために付いているそうです」
「……詳しく知られているんですね」
「ナッツリブア冒険者支援組合は、そういった情報が入りやすいんですよ」
……まぁ、でしょうね……。それはグアンリヒト王国で思い知ったよ。王族からの紹介状を見せただけで態度が激変したんだから。
話を聞く限り天職進化1回だけのようだし、直ぐに現実を知って戻って来ると思っていた。
当然ながら、『竜滅隊』なんてモノは『竜騎幻想』には存在しない。
『竜騎幻想』において『邪竜討伐軍』は他の国同様に歓迎される。確か、理論的には自分達が兵を輩出する事無く、勝手に大陸の危機を救ってくれるのであれば多少の資金くらい出しても構わないという考え方だったはず。
……クリスターク王国というのはそういう国だからね。
俺の知るクリスターク王国は、通称『謀略国家』。または、『自由の国』。その中身は犯罪上等の強者の国。国の宰相が極悪人で実質の王である。本来の王は傀儡で宰相の生きた屍のように宰相の命令には何でも従う。その宰相の目的は権力と金。……故に、勝手に大陸の平和を守ってくれる『邪竜討伐軍』を歓迎するわけで。
そういう前提があるから、仲間集めも難なく進められるんだけど……『竜滅隊』なんてモノを作ったのならクリスターク王国としては『邪竜討伐軍』は無用の長物なわけで。そうなると、クリスターク王国内では冷遇されている可能性が高い……多分ね。
もちろん、俺の知るクリスターク王国とは全く別物に変わっていれば話は別だけど、その可能性は低いと思う。むしろ、今はトゥーベント王国だけが異例だったのではと考えている。
「……でも、俺としても困るか……」
「ん?」
船に帰って来たばかりだが、全員が揃っている内に決断した方が良さそうだ。
「クレア、できれば1週間後くらいには出国しようと思う。周囲にも伝えて欲しい」
「急だね?」
「俺達がゴールド級になって情報が筒抜けになっている事と、クリスタ―クが気になる」
隣にいたクレアカリンは不思議そうに俺を見ていた。
「サクリさーん!」
「ヒミカン、まだ居たんだ?」
「その呼び方止めて。ヒミちゃんって呼ぶの! ……ねぇ、もう行っちゃうの?」
……あー、出国の話を聞いたんだな。ヒミカンヒルデって朝から居たので、もう帰ったかと思ったけど……。
「そうだね。何も無ければ1週間後くらいかな」
「そんなぁ……」
「元々、そのくらいの予定だったからさ」
とは言ったけれど、別に厳密な日程があるわけではない。ただ、それを知ったヒミカンヒルデの様子が寂しそうで……懐かれていた自覚があるだけに可哀想とは思っていた。
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