修理された船を収奪? 遊戯のような奪還劇で船長を取得
「船が完成したと言う事で、見に行っちゃいますよ~!」
朝から元気なソラナディアがテンションぶち上がっていたが、それを聞いた全員のテンションが変になっていた。……俺の思っていた以上に楽しみだったようだ。
……むしろ、実質一週間くらいで大型貨物船の修繕改装が完了してしまう技術の方が驚きだよ。本当に年内で完成するとは思っていなかった。
「……新品じゃん……」
造船所へ壊れた船を運ぶ際、ざっくりと現物は見ているし、【サイコキネシス】で動かしていた。だけど、そこにあるのは新品と言われても疑わない程に別の船へと生まれ変わっていた。
「1~2階は職人の店スペースよ。全部で40店舗分のエリアがあるわ。3階は操舵室ね」
コノミリナがみんなを案内する中、内心は「……こんなに人が増えるんかい……」と戦々恐々としていたことは内緒だ。
「甲板より下……地下1~2階は個室だね。全部で200室。1部屋6畳程度だけど充分よね」
参考にしたのは冒険者の店の個室らしい……そう考えると確かに上等。
「地下3階はサクリさんの部屋と全員収容可能な大広間とトイレ。それと、大浴場ね。最後の船底部分は動力室と倉庫ね」
俺の部屋が特別大きくしてくれたのは助かったが……直ぐに問題が露呈してしまった。
「それで、船って誰がどうやって操縦するの?」
ソラナディアの素朴な疑問。そして、それは言われて初めて気づいてしまった。むしろ、今まで誰も気付かなかったことも問題かもしれない。
みんな、手漕ぎ船や小型の魔道船なら動かせるらしいが、こんな大きな船の操縦など誰も知らないと言う。
……ということで、みんなからの要望を聞いた上で船を動かせる人を探すべく手分けをすることになった。ちなみに同行者はサティシヤとマオルクス。人選には事情があって、サティシヤはこのタイミングでフィルミーナの爺さんに会わせるため。マオルクスに至っては俺と桜をみたいと言われて断る理由が無かったためである。
「それで、心当たりはあるの?」
「無くは無い……でも、無いようなモノかも」
船の船長として仲間に受け入れる要望……まぁ、条件だな……は、女性である事。それとクビになる可能性を明確化すること。……何故女性にこだわるのか? 俺にとっては内心迷惑な話ではあるのだが、異性が居ない環境というのは解決が難しい問題というのが発生する。しかし、異性が増え過ぎるとチームが崩壊する可能性もある。だから、異性は俺だけで充分だという結論らしい。……さっぱり理解できない。
「どういう事?」
「船を操縦できる人に心当たりはある。ただ、俺等の船を操船してくれるかどうかは別」
「説得するしかないね……でも、何故リリちゃんを連れて来なかったの?」
交渉主力のリリアンナを心当たり1人の俺が連れ回すわけにいかなかったのよ。
3人で俺の心当たり『ロードナイアス海賊団』を探す。探していないと視界に捉える機会が結構あるのに、探していると見つからない。
「お~、本当に桜だぁ」
マオルクスの目的であった神社へ向かうと感動していた。
「……サティシヤかい?」
「あっ、お爺さん!」
先に来ていたようで、桜を眺めていた背後から爺さんが現れる。サティシヤからしてみれば、長い事納屋で生活させてくれた恩人。お爺さんからすれば孫娘の安全を守ってくれていた恩人ということで、互いに礼をいう機会をつくれた事に満足していた。
爺さんは家族に内緒で来たために長居は無理で早々に帰って行ったが満足して貰えたようだ。
……まぁ、サティシヤは別だよな。もう少し礼を言いたかったかもしれない。でも、結果として、帰って貰った事は良かったかもしれない。
「……!!」
サティシヤが何か反応する。すると、召喚してもいないのに現れたメティスが俺を庇うように背を向ける。
何があったか解らない……でも、メティスは確かに「サテュラが現れた」と言った。
サティシヤから聞いた話。サテュラとは邪属性の中位精霊なのだという。見た目は兎で、ラビッ島で精霊の封印を壊したらしく、それが原因で自由を手に入れた礼を言いに来たのだという。……事情を話した結果、お礼に力を貸しくれる事になったのだという……大丈夫か?
彼女の話には間違いなくメディスも同じ事を予め説明してくれていた。何事もなくて良かったと安堵した彼女は礼代わりに夜呼ぶように言われてしまった。
桜を見たマオルクスも満足し、2人は先にコテージへ帰す。俺はもう少し『ロードナイアス海賊団』を探すと話しつつ、父さんの元へと向かった。
「サクリウス」
「サクリ君」
イーベルロマのキャンプへ向かうと、最初に行った時には顔を見なかった連中が俺を囲んだ。
村の年齢の近い人達。直接関わった事のない人ばかりだが、顔は憶えているし、中には兄の取り巻きだった連中も含まれていた。
「……ずっと謝りたかった。許されるとは思っていないけれど……ごめんなさい」
1人が謝ると全員で頭を下げた。……事情を知っているから仕方ないと思うし、謝って貰ったところで関係は改善されることはない……許すだけで関係改善までは保証できなかった。
許すことは出来ても、壊れた関係は戻らない。だから、今ある関係を大事にしてほしい。それだけを伝えて、俺は父さんの元へ行く。
「サクリウスか。カナシリアという人が来てね。商売を教えて欲しいと言われた」
「俺からもお願いしたい。彼女は両親と夫を失って、住む場所も失った人なんだ。暫く預かって教えてあげてほしい」
「……まぁ、いいだろう。この身体では身動きできんが……」
「それなら、俺からの報酬の前払いで」
……〈サイコヒール〉。
時間を掛けてゆっくりと回復させ、手足を再生し、傷一つない元の身体に戻す。
「これで、元に戻ったはず。……カナシリアの事、よろしくお願いします」
改めて深々と頭を下げて、喜ぶ父さんを背に、『ロードナイアス海賊団』を探しに戻った。
割とどうでも良い時はよく見かけるのに、探すと見つからないため困っていた。
探し続けた末に、俺達の船が止まっている港まで来ていた。移動したのは荷物を積むために、頼んで造船所の人に運んで貰っていた。……だが、しかし、その船に人影と動き出す気配。
「おっ、船を修理してくれた人! 修理してくれてありがとう!」
そう言って、俺達の船は誰だか知らない人達に乗って行かれてしまった。
……とりあえず、冒険者所有の船を盗むと言う事は、それなりの覚悟があるって事だよな?
「「ありがとう」じゃないんだわ」
……〈リコール〉。
船を見に行った日、自室を決めたタイミングで、直ぐに移動できるように仮で短剣を鞘ごと柱に固定しておいて、その短剣に〈マーク〉を使用しておいた。
「……まぁ、こんな使い道をする予定ではなかったんだけどな」
そんな訳で自分の部屋に移動してきた俺は、部屋を出て操舵室を目指して歩く。何人いるか解らないけれど聞いた声は若そうだし、負ける気はしなかった。
後ろから俺に付いて来ている人の気配を感じる。
部屋から甲板目指して移動中、僅かな音とか空気の動きとかそういった不確かな何かを感じながらも移動するが、相手は必要以上に近づこうとせず、一定距離を保っているようだった。
「流石に、どうやって乗ったのか判らないけれど……乗ってきたのが1人で良かったぁ」
甲板まで来た時、1人の少女が待ち受けていた。その顔に俺は当然見覚えがあったが、相手は俺の事など知らないはず……多分。
膝まである高い位置で結った青い髪のポニーテールに大きな茶色の瞳。平均的な身長……確か155センチだったかな……年齢は一緒のはずだ。白を基調としたキャップに胸元、腕、太腿を多く露出したエロい服を着た彼女が俺の探していた【操船師】のマリリシャ=ロードナイアスだ。……『竜騎幻想』では何でNPCなのかと憤慨したこともあった。
彼女は小さな錨を半分にしたような形状の武器を両手に構え、殴りかかって来た。
「いや、当たらないし、危ないから……止めた方が良い」
「大丈夫。確かに貴方は強そうだけど……」
……おや? 見た目の俺はそんなに強そうではないと思うのだが……?
後ろから攻撃が来るのを感じて避ける。
ブンッ!
紐の先に錘が付いた物が俺の顔の横を通り抜ける。
背後には同じく青髪だがハーフアップで橙色の瞳に露出の少ない格好の少女が釣竿を武器に構えていた。彼女は間違いなくユウキュア=メナードヴァイス……『ロードナイアス海賊団』の1人ではあるが、本命のアサミラージュの姿が見えない。何処かに潜んでいるのか?
「まぁ、とりあえずお仕置きかな……メディス、2人に《薬矢の行射》」
魔法攻撃を受けた2人は当然抵抗できるわけもなく、その場で意識を失う。ダメージを受ける事無く熟睡していて、少しくらいの刺激では目が覚める事は無いだろう。
2人をしっかり拘束した後、〈サイコキネシス〉で時間を掛けて船を元の場所へ戻した。
停泊にはかなり苦労しながら船を留めた後、見覚えのある少女が慌てて寄って来た。
「えっ、あの……その2人は?」
「船泥棒だよ。これから衛兵に突き出すところ」
声の主は夢の時のままだったので判っていた。……アサミラージュだ。
「ごめんなさい。その2人を見逃して貰えませんか? お願いします!」
「……謝られても……ちゃんと悪事は裁かれないと……」
「お願いします! 家族にバレたら2人は……何でもしますから」
『何でも』という禁断の台詞を言ってしまった事で、3人を仲間に引き合わせる事にした。
「それじゃ、船長。出発だ」
「解った。それじゃあ、出発よ!」
翌日。荷物を全て詰め込んだ俺達はレイアール王国へ向けて出港する。
2人は仲間達にキッチリ絞められた後、アサミラージュに免じて仲間に入れられて操船を命じられた。他の仲間と違って2人にはしっかりと監視が付いていて軟禁状態に置かれている。
「カナシリア、元気で!」
「皆さん、ありがとうございました! 必ずしっかり学んで合流します!」
カナシリアだけでなく、父さんや知った顔が見送りに来てくれている。甲板から覗いて叫ばないと声が届かない距離ではあるが、しっかりお互いの声は耳に届いているようだった。
カロラインもフィルミーナも離脱する事なく、俺達の船はアックアイルから離れて行った。
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再び10万文字くらい書き溜めた後に続きの第26話からの投稿予定です。
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