なぜ桜の木と神社? もちろん、公式にそんなものは無い
目が覚めると12時過ぎだった。ざっくりと3時間寝た計算になる。
朝8時まで見張りとして立ち、帰ってから風呂入って寝るという不規則な生活。目が覚めると股間でアイルゥが寝ているのは……もはや何も思わなくなった。プルームとはそういうものと割り切ってしまった。
顔を洗うために部屋を出ると下から美味しそうな匂い。……下を覗いて、俺の分はもう少し後だと悟る。
「あっ、おはようございます」
「おはよう……昼だけどね」
気持ち良く挨拶してくれたユールオリンデに、自分の不甲斐なさから苦笑する。
ユールオリンデは救出した日にはこちらの活動趣旨を理解した上で正式に仲間へ加わっている。個人的にも1人で逃げ回るより俺達と一緒の方が救った命を無駄にせずに済むというもの。
「おはよう、サクリ君。天職進化した」
「わたしも……進化したよ」
昼食を食べて戻って来たのか、それともこれから食べるのか……トモリルとヒカルピナの2人とも鉢合わせる。
トモリルはまぁ、【ハイグラスビッド】で確定として、ヒカルピナはユニーク職の【結界士】だという。
「【結界士】って、どんなスキルあるの?」
「うーん……特定の攻撃を防いだり、結界内限定で影響を与えられたりする感じかな。タンカー系クラスだと思うけど、ちょっと工夫が必要な感じ?」
……うーん、ユニーク職は『竜騎幻想』にないから良く解らんのだよ。
メインで動き回っているのが夜間だからなのか、『邪竜討伐軍』と鉢合わせする機会が少ない。すれ違うくらいなら問題無い……俺達がユニーク職持ちだとアイツ等にバレなければ。
そして、日中は素材集めを主目的とした経験値稼ぎをし、みんな順調に強くなっていた。……そう、地味な鍛錬はとても大事である。
「サクリさん、おはようございます。あの、今日昼間の予定がなければ、少し付き合って頂けないでしょうか?」
「構わないですけど……」
シャオリンからのお誘い。本人の表情から遊びに行く感じではないようだと直ぐに悟った。
時間的にコテージで食事をすることが難しい……そこで、俺達は冒険者の店に来ていた。いや、用事があるのは俺だけらしいんだけど、シャオリンから聞いた食事前の連中が付いて来た。
冒険者の店“水の女神の宴会”亭。アイアン級の冒険者の店なのだが、思った以上に建物が大きく、人も多い。例によって入り口近くの席を陣取り食事を注文する。
……あっ、ここか……。
店の名前は忘れていたけれど、ここが何処か直ぐに理解した。……『竜騎幻想』にも存在する料理の美味しい冒険者の店だ。そして、ここを訪れることはあるユニットを仲間に入れるためのフラグが立つ。
「くぅ~、やっぱり昼間からの麦酒は最高よね!」
「ソランちゃん、本当に良い飲みっぷりだなぁ」
店の奥にある人集り。その中央には青髪の女性が美味しそうに麦酒ジョッキを掲げ、骨付き肉を頬張っていた。……品の無い良い食べっぷりだ。
「じゃんじゃん食べなさい! 今日はやけ食いに付き合って貰うから!」
「お、おぅ」
多分、ソランと呼ばれているから、彼女は『竜騎幻想』の設定通り、「遊び人のソラン」と名乗っているのだろう。
建物の中なのにキャップ帽を被り、髪を中に入れているからショートカットにも見える。凹凸のあまりない中性的な体型。女性として魅力的とは言い難いが整った顔なので、中性的な美少年に見えなくもない。
これで彼女に話しかければフラグは立つのだが……予知夢見てないし、これから人と会う事を考えると、フラグ建築イベントはしない方が良いだろう。
ソランと呼ばれている彼女の正体は後に仲間にできるユニットである。
……一応、推しの1人なのだから、予知夢を見ても良いものなのに、見ないという事はこのタイミングでは仲間にならんということだろう。
「どうしたの?」
「……何でもないよ。食事注文しよう」
今いるメンバーは俺の他にサキマイール、ヒカルピナ、カノエルンとユールオリンデの5人。シャオリンとはここで待ち合わせという事になっている。
「あ~、もうこんな時間? 楽しい時間はすぐ終わるし……じゃあ、また来るわ!」
声を掛けることなく食事をしている間に、推しは「ごちそうさま」と店から出ていく。
俺は彼女の後姿を視線で追い、少々残念な気持ちを食事で紛らわそうとした。
「あっ、お待たせしました。食事が終わり次第行きましょうか?」
そう言って、シャオリンは店に入って来ると俺達の席に腰を下ろす。
……そんな彼女が案内した場所というのが、ブルーローズ家の1つ、アクアール家だった。
……まさか、『竜騎幻想』では入ることができないアクアール家に入れるとは……。
ブルーローズ家の中で唯一ユニットが暮らす家というのがアクアール家。他はNPCが暮らしていて、そこにはゲーム内でも入ることができるのだが、アクアール家だけは入ることができなかった。
緊張の中、シャオリンの後をついて全員で応接間へと案内されると、上等なソファーに腰掛ける。俺の隣にはサキマイールとシャオリンが座り、後ろにヒカルピナとカノエルン、ユールオリンデが立つことになったが、後から入ってきたのは推しだった。
ソラナディア=A=ブルーローズ。股上まであるクラウンハーフに編まれた明るい青髪。深い青の瞳。可愛いというよりは綺麗な顔立ちに抜群のスタイル。綺麗な声なのに愛嬌のある可愛い話し方をする男性陣からは絶大な人気を誇る美少女ユニットである。
……そして、先程のソランの正体でもある。
「ようこそ、いらっしゃい。我儘を言って呼びつけてしまってごめんなさい」
「いえ。どのような話でしょうか?」
「……あっ、そんなに緊張しないで。そのぉ、国外から来られた冒険者と聞いて他の国でのご活躍を聞きたいのと、アイミトンさんとも仲良くされていると聞きます。それはずる……羨ましいなって。ダメでしょうか?」
「……そんなことで良ければ、いくらでも」
……無碍に扱えば女難フラグが立ちそうだし、大した用事でもないなら、満足させれば問題ないだろう。……この方は予知夢で見ても良いのになぁ……。
「ちなみに、急遽わたしとのお話の場を用意して頂いたのだと思いますが、それが無かったら、ご予定はどうなっていましたか?」
「俺は多分、日中は観光したかもしれないですね」
「……あら、それはごめんなさい。お詫びにわたしが案内するわ」
……他のメンバーの都合を聞かずに言いましたか。仲間は眼中にないって感じか?
「お勧めのアクセサリーや日用品が売っている店がありますので、特に女性の方々は喜んで頂けると思いますよ」
……思い過ごしか。
「ソラナディア様、サクリさん。わたしはここで失礼しますね。ちょっと用事がありますので」
シャオリンが離脱するタイミングで、俺達も急遽マジパーニー観光をすることになった。
思うにシャオリンの仕事はソラナディアに俺を会わせるまでなのだろう。ソラナディアが冗談のように話したアイミトンとの関係がズルいと思ったのも事実みたいで、シャオリンは圧を掛けられた……のかもしれない。
休みの日にピンポイントで引き合わされたのも、それ由来なのかもしれない。……結局のところは解らないけど、ここまで何か「本来の目的」っぽい話をされてはいない。純粋な観光となっていた。
「さぁ、ここがわたしのお勧めする一番のお店よ」
ここまで女子ウケする可愛い小物やアクセサリー、化粧品などの店ばかり。俺はそこまでモチベは上がらなかったが、他の4人は大喜びだ。
「骨工屋ですか? ……凄く大きいお店ですね?」
「でしょう? ほら、四方を海に囲まれているから素材の宝庫なのよ」
骨工とは、魔石を加工したり、魔獣の骨や角や爪、牙や甲羅などを所謂「骨」を素材にしたり、他にも貝や珊瑚、真珠も素材とし、武器やアクセサリーを作る。海に近い町に骨工屋はあるが、ここまで大きな店は他に無い。
店内を見て回った後、流れで隣にある骨工工房に見学へ行った。
「なんで、わたしの櫛じゃダメなのよ? 実際一番売れている櫛なのよ?!」
「ダメに決まってんだろう! そもそも、納める櫛は鼈甲って決まっているんだよ!」
工房に入ってすぐ怒鳴り声が聞こえて来て一瞬ビックリする。
「いらっしゃいませ……ソラナディア様、騒々しくて済みません」
「またやってるのね?」
……また? 工房での喧嘩は日常のようだ。
「あっ、ソラさん。来てたの?」
「えぇ。国外から来たお客様に国自慢の品を見て貰おうと思って」
……可愛い。
奥から出てきたのは先程まで怒っていたとは思えない声も可愛らしい女性だった。
「紹介するわ。彼女は、ここの工房長の娘で【骨工師】のネネカーテよ」
「初めまして。ネネカーテ=トリスローグです。……本当は商品の紹介をしたいところなんだけど、ゴメンね。今日は櫛の奉納の日だから」
「あ~、そうだったのね……そうだ! 見学して良い?」
「……まぁ、ソラさんなら問題ないでしょうけど……」
俺達を置いてけぼりで次の行動方針が決まり、ネネカーテさんは工房を出ていく。待っている間に工房を見学させて貰って30分が経過した頃、ネネカーテさんが持ってきた。
「おかえり。……わぁ、可愛い」
「本当に素敵」
女性陣が絶賛するネネカーテは先程とは違い、袖の無いミニスカート丈のワンピースに、赤い腰紐、同じく赤いアームカバー。耳に輝く赤いイヤリング。長い髪は白いリボンで束ねられていた。
「お待たせしました。それでは向かいましょうか」
工房から小さな木箱を取って来ると、工房を出る。ソラナディアが付いて行くのを見て俺達も後を付いて行く。
俺は女子同士の会話が盛り上がっている後ろを歩く。……何処に向かうんだろう……なんて思っていたら、ありえない物が視界に入って驚く。
「ねぇ、サクリ……あれって……」
サキマイールが動揺するのも無理はない。視界に入ったそれは『鳥居』なのだから。
「サクリ君、これ……」
ヒカルピナも同様のことを思ったみたいで俺に何かを言いかけるが頷くと止まる。……ここでは迂闊な単語を言葉にするのは危険である。
鳥居を潜って奥へ行くと、当然あるだろう神社を視界に捕らえる。
……これは異世界人の仕業か? 間違いなく『竜騎幻想』の世界観が無視された異質な施設なんだよな。
「え? アレって……」
「綺麗ですよね。サクラって呼ばれている木なんですよ。実際に確認したわけではないですが、世界中でここにしか存在しないそうですよ」
ネネカーテの説明で、俺達3人は明らかに異質さを感じていた。
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