真実を知って絶望し、不幸になるなんて絶対におかしい!
結局、狙われる心当たりはあるものの、『海人海賊団』には元々狙われていたわけでなく、偶然遭遇して襲われたということらしい。……明確な理由は不明っと。
でも、それ以上に気になるのは、「真実が悪い」と言うユールオリンデの事だった。
「マーマン族は全種族の中で最も容姿端麗、頭脳明晰で勇猛果敢、温厚篤実……多くの生物が限られた陸地を奪い合う醜い争いをしている中、広い海を支配する全種族が憧れる女神に愛された種族……だと本気で思っていました。これは当時のわたしだけでなく、マーマン族の基本的な考え方だと思います」
……おぅ、気持ち悪い……。何がって、他者と比較しないと保てない種族性が。経済力や軍事力じゃあるまいし……。
「もちろん他種族と深く関わり、世界を見て回った今となっては滑稽すぎますけどね」
そう言って彼女は自虐的に苦笑する。
「……まぁ、確かに異種族と関わる機会って少ないからね。俺もヒューム族以外に対して詳しくないし、偏見もあると思う」
「幼い頃から先程の価値観を教育されていましたが、ある程度大人に近づくとアックアイル国民について学びます。水竜王の魂を封印した件ですとか、不老不死のためにマーマン族の血を飲もうとする者、観賞用に飼おうとする者、同族以外に対して非人道的なことを平気でするのがヒューム族なのだと教わるんです」
「なるほど……まぁ、正直完全否定は難しいかな。ただ……」
「どんな種族にも悪人は存在する……わたしはもちろん解ってます。でも、一部の悪目立ちする人達のせいでヒューム族を拒絶する人達の方が多いんですよね。でも、幼い頃は当然解っていなくて、本当にアックアイル国民がそんなに無知な人々であるなら正すのが正義という思いから最初は冒険者を目指したんです」
……まぁ、判らなくもない。だって、周りが同じことを言っていれば信じてしまうだろう。
「そもそも、何でマーマン族は妖魔と共に生活するようになったのかって知ってる?」
「一応知ってますが……それも何処まで本当のことか……」
彼女はそう言うが、自分でも嘘だと確信しているのだろう。
「歴史的に一番古いのは、やっぱり水竜王が封印されたタイミングの時代でしょうか」
「……随分古いね?」
「今となっては絶対嘘だと判っていますが、神器を得たヒューム族は、水竜王を封印した理由というのが、水竜王を裏切ったからだという話になっています。邪竜王が封印された今、水竜王が最強なのだから、全ての竜王を従えるべきだと話したらしいです。それを断った水竜王を騙し討ちの形で魂を封じた……もちろん、マーマン族はその事に対して抗議をしたそうです。しかし騙し討ちとはいえ、水竜王を封じたヒューム族はマーマン族を奴隷にしようとしたそうです。普通に戦えばマーマン族は負ける事なんてありえない……しかし、ヒューム族は神器を持っていた。沢山のマーマン族が奴隷として捕まり、もう未来はないと絶望した時に助けてくれたのがサハギン族だという話です」
……壮大なストーリーだけど、誰が聞いてもフィクションだと判るクオリティーだよな?
「信じてた?」
「はい。ヒューム族は怖いと思ってましたね」
「パーティ規模とはいえ、よくヒューム族と冒険者チーム組んでたね?」
「当時は……マーマン族が本気を出せばヒューム族に負けるわけがないと本気で思っていましたから」
……確かに、海中であれば間違いない。
「話、戻しますね。マーマン族はサハギン族にとても感謝したそうです。その時に当時のサハギン族の代表は『同じ海の仲間。助け合うのは当然だ』と言って、サハギン族も過去に襲われたことを水に流して共生することになったのだと」
「それ、信じてます?」
「……いえ、流石にね……でも、里から出た事の無い人達は信じちゃうかもしれません」
「マジか……」
「他の妖魔を見ていればありえない事は解るんですけど、サハギンしか知らなければ……」
そう言われて、情報が分断された場所で暮らす辺境の村での環境を連想して納得した。
「それに、学んだことはそれだけじゃなくて」
「……うん、外に出て初めて知ることもあるよね」
実際、銀髪銀眼についての偏見は国境が近い辺境の寒村に多く、全体を考えれば一部でも、その村の出身で村から出たことがない者は村の中が全てだからな。……俺が身をもって知っている。
「そうですね。マーマン族は容姿端麗、頭脳明晰で勇猛果敢、温厚篤実と他の種族から思われていると思っていましたが、実際には思い込みが激しくて短気。見栄っ張りで傲慢。卑怯な上に守銭奴だと思われていると知りました」
「……お、おう」
「それ以前に、マーマン族を詳しく知る人は少なく、海の覇者と呼ばれていたにしては知っている人が稀だということも最初は驚きました。そして、あれがあながち的外れでないことは、マーマン族だけでパーティを組んでいる冒険者に会った時に間違えではないと身をもって知りました」
「なるほど」
……としか言えん。理解したのは、彼女がかなり同族に対して憤っていること。
「本当に情けないと思いました。……あんなに同族が恥ずかしいと思った事はないです。でも、それと同時に自分を恐ろしくも思いました」
「え?」
「……もしかしたら、わたしも無意識に同族のような振る舞いをしているかもしれない……それを他の同族が見て恥ずかしいと思っているかもしれない……そう考えたら、自分の所作1つ1つがマーマン族として恥ずかしくないかビクビクしてしまう……」
「俺は、そうやって意識しているだけでも素敵だと思うよ」
人によっては馬鹿だと思う人もいるけれど、常時我が身を振り返れる人は素晴らしいと思う。
「ありがとうございます。実は、そう考えさせられる機会があって……」
ユールオリンデはだいぶ俺との会話に慣れて来たのか周りへの警戒が少しずつ緩和しているように感じる。……だからといって、俺達は警戒を怠れないけれど。
「……以前、エルフの里に寄る機会があって……」
「それ、世界樹の森?」
「あ~、いえ。そんな大きな里ではなくて、もっと小さな里ですよ。そこでマーマン族のことを聞いたら、里の老人から貴重な話を聞いたんです。そのエルフの老人はエルフの中でもかなりの長寿らしいんですけど、その方が若い頃にマーマン族と交流する機会があったそうです。その時のマーマン族は確かに容姿が美しく、礼儀正しい種族だったと」
「良かったじゃないですか」
「そうですね。あんな他種族の常識からかけ離れているのに、そう評価されていた事は嬉しい限りです。それと同時に指摘されたのが、わたしと会って礼儀の文化は失われてしまったのだろうと悲しそうに嘆いていたことでした」
……ん? そのエルフの老人って割と失礼?
「わたし達の里の出身では無かったそうですが、やはり少しずつマーマン族の性格は変わっていったそうです。それで、何時ぐらいから変わったのかと尋ねたら、多少誤差はあると思うのですが、やはりサハギン族が里に来た辺りらしいんです」
……なるほど。それでユールオリンデはサハギン族を疑っていたというわけか。
「なので、サハギン族がマーマン族を助けるなんて考え難いんですよ」
「確かに証拠はないけど限りなく怪しいね。そもそも妖魔だし」
やはり聞く耳と自身の思考を疑える賢い人なのだという印象をもった。
「……そんなわけで、わたしは真実を伝えて本来あるべきマーマン族の誇りを取り戻すべく、故郷に帰って話してみたのですが……今のような状況に……」
少なくとも即興の作り話には聞こえなかった。そもそも見張り初日に俺達の事を知るわけもなく……目的は俺達ではなくて海洋巡察団だとするなら、俺達にベラベラと内情を話す理由もない。話すならイクミタンに話すべきだろうけど……彼女の存在を知りつつもユールオリンデの関心は俺に向けられていると思う。……理由は他のメンバーに見向きもしないから。
「流石に、家族から「噓つき」や「マーマン族の誇りを捨てた」とか「同族を見下している」なんて言われると傷つきますよね」
「確かにね。気持ちは少し解るよ」
そう少しだ。若干状況は違うけど、周りの認識と自分の認識が違っていて、誰にも話を聞いて貰えないという環境は俺も既に知っている。
「ねぇ、旦那様? ……この子、敵じゃないわよ。彼女が小さい頃から知っているけど」
「……はい?」
アイルゥの言葉に思わず、返事をしてしまい……失言だと気づく……遅いけど。
「妖精と話せるのですか?」
マーマン族も彼女の姿を認識できていた。
「うん。戦闘の様子を見ていたら察しが付くと思うけど……妖精語は解る?」
「……いえ、少しだけしか……妖精語苦手で……」
……やっぱり失言だったか。返事しなければバレなかったんだろうなぁ。
「この子の落ち度は主に2つね。1つは周りより少し賢かった事と、物欲が少なかったこと。だから、サハギン達の扇動に引っかからなかったんでしょ」
……なるほど。
「話、戻しますね。……まぁ、そんな訳で族長である父に里を追放されて……という訳です」
アイルゥからのお墨付きもあり、立場も似ていることもあり、彼女を信じてみることにした。
「ちょっと待って。族長の娘? 里からの追放??」
「今となっては肩書だけです。その肩書に何の力もありませんよ?」
……いやいやいや。状況違えば人魚姫じゃん。まぁ、イヴァルスフィアに『人魚姫』という単語が存在しないけどさ。
姫という存在は国が存在していることになる。でも、『竜騎幻想』では同族同士で対立する特性を持つのはヒューム族のみという設定になっていたはず。なので、ヒューム族以外は加護されているエリアに集落を築き、その集落を里、里の長を族長と呼ぶ設定になっている。
でも、ポジション的には実質姫である。
「こんなに拒絶され、家族や友人に追放されるなら、言わなければ良かった……」
……考え方は素晴らしいんだよなぁ……ただ、真実が悪いとか、言わなければ良かったとか、明らかに共感できないユールオリンデの結論に眉をひそめた。
「うーん。それは違うんじゃね?」
マーマン族の姫様に対して失礼な物言いかも知れないけれど、頓珍漢な結論を正せるのは現段階で俺だけだと思う。……そして、同族から拒絶されている彼女に正しい指摘をできる者が傍にいるとは思えない。
「何が?」
「マーマン族というのは、全員が同じくらい頭良いの? 全員が同じような考え方なの?」
尋ねると彼女は首を横に振った。
「だよね? 同じことを言われても全員が同じように考えるとは限らない。逆に同じことを伝えるには、伝わるように話す必要があって事実を言えば良いってわけじゃない」
「え? ……どういう??」
「……例えば、とても便利な商品があるとする。少し高価ではあるけど、それがあるだけで家事が楽になる……そんな商品があるとして、売る側はみんなが日々大変な家事の一部負担を軽くできればと思って勧めるけれど、買う側は当然、そんなもんは要らないと言う。……何故か?」
「えーっと……必要性を感じないから?」
「そう、要らないものを高額で買うバカはいない。そんなものが無くとも生活に苦労することがない。だから要らない。でも、本当はあった方が絶対便利。買わない人は何も知らないバカなだけだろうか?」
「うーん。判り易く説明すれば考え方は変わりそうな……あっ」
「まぁ、そういうこと。正しい事を真正面から言ったって伝わらないことはある。相手の知識量と事情があるからね。物を売るには相手の事情と買った方が良いと思わせる伝え方が必要になる。……昔、父さんが言っていた話だけどね」
「……伝え方……」
「ましてや、幼い頃から正しい事として伝えられた知識が間違えていると否定するのは難しいよ。まずは話を聞こうと思わせないとだし」
……まぁ、余程の事がなければ、相手が損しようが気にしなければ良いだけなんだけど。そして、彼女にとっては余程の事だから傷ついていることも理解していた。
「本当にわたし……何しているんだろう……何のために大陸を巡って伝承を調べてきたのか……」
「何故後悔してるんですか?」
言ってから、言葉が厳しいかもと少しだけ後悔した。
「言われてみれば当たり前だと思いましたが……わたしは求められていない知識を一方的に押し付けて理解されないどころか、追放までされて……」
「いやいや。まだ終わってないでしょ? そもそも、教えて貰った事を鵜呑みにすることなく、自身で調べる事が間違いであるわけないし、諦めるのは早すぎる」
どんな内容であれ、自分で調べて得た知識が無駄なんてことは絶対にない。
「これも受け売りだけど、1人の力は小さく限りがある。絶対に協力者は必要なんだ」
落ち込ませてしまった責任を感じるが慰めるのは違うと思い、考えながら言葉を続ける。
「だいたい、同族を想い、同族のために大陸を巡って自分で調べ、同族を導こうという気概は誇って良いことだと思う。……普通は導きたいけど、調べるのは他人任せだ」
……俺みたいにね。だからこそ、他人のために自分で調べてみんなを導くという思想は素晴らしい、誇ってよいと思うんだよな。
「まずは、仲間を集めつつ、証拠集めをして理論武装することが大事だよ」
とはいえ、多分サハギンが今回黒幕なんだよな……。
「あのさ、ヒューム族と動くのに抵抗が無いなら、俺達と来る?」
「あっ……ありがとう……宜しくお願いします……」
本来なら女難を警戒して誘わないんだけど……どうも自分と境遇が似ている人は放っておけないんだよな。
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