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第22話 コツブの特技

 お肉


 翌朝、これから三人でお肉のために頑張るということで、市場通りにあるパン屋さんで「お肉スペシャル」を食べながら決起集会を行った。


 小さい子供が身長の半分もあるバケットサンドを両手で掴んで大きな口でモリモリ食べるものだから、わざわざ足を止めてまで見学する人が現れるのだった。


 僕もコツブと同じ三種の肉盛りサンドを頼んだけど、サイズは半分にしてもらった。(ハーフサイズではなく、それが普通の一人前で、それでも多いくらいなんだけど)



 決起集会


 食事を終えた後、そのままパン屋のテラス席で今後について話し合うことにした。(食事中は二人とも空返事になるので食べ終わるのを待たなければならない)


「調べてみたけど、基本的に人手は貴重だから、僕たちのような流れ者でも役場通りに行けば仕事を斡旋してもらえるみたいなんだ」


 二人は食後におばけレモンを絞った紅茶を飲んでいるところだ。


「ううっ、よかったです」

「『あっせん』って何だ?」

「紹介してもらえるということです」

「おおぅ、それは安心だな」


 いや、それほど甘くはない。


「ただし仕事もピンからキリまであって、いい仕事は簡単に回ってこないという話だ。高い賃金でも危険だったりして、特に三番街道にある魔物相手の仕事は『囚人の仕事』って呼ばれているからね」


 魔物から得られる素材には価値があるということで、危険であることは承知だけど、わざわざ安全に暮らせる村を出て一獲千金を狙う人もいるのだそうだ。


「ううっ、囚人の仕事は怖いです」

「おらっちの方が魔物に食われちまうもんな」


 転移者である僕に剣と魔法の特別な能力があれば無双できるけど、ないので別の方法で財を築くしかなかった。


「僕も魔物は怖いから、まずは安全な仕事を探そうと思ってる。自分の性格に合った仕事をするのが一番だからね」


 僕には地球で得た知識があるので、それをこちらの世界で役立てようと考えている。


「わたしは家のことなら何でもできます」


 ウルルは大農園で仕事をしていたと聞いたけど、家政婦の仕事をしていたのかもしれない。


「おらっちは食べるのと寝るのが得意だ」


 そう言って、コツブが髭をピンと伸ばして自信満々の顔をするのだった。それが何とも愛くるしいのである。


「ここが地球なら一番の大食いタレントになれるんだけどな」

「『たれんと』って何だ?」

「才能があるっていう意味だよ」

「ムフ」


 とニンマリするけど、残念ながらこちらの世界には大食いや食レポで稼げる仕事はなかった。


「ものは相談だが──」


 そこで太ったパン屋のご主人に話し掛けられた。


「明日も同じ時間にテラス席でウチの商品を食べてくれるなら、今日の分も含めてタダにしてやるが、どうだろう? 頼まれてくれないかね?」


 突然の話で理解ができなかった。


「本当にタダにしてくれるんですか?」

「約束しよう」

「どうしてそんな良くしてくれるのですか?」

「あれさ」


 ご主人が指を差した方向に目を向けると、店のドアに「準備中」の看板がぶら下がっていた。


「坊ちゃんや嬢ちゃんが来てから飛ぶように売れるようになった。長いことやってるが、店から売り物がなくなるなんて一度もなかった。昨日から行列ができるようになったのは、どう考えてもお客さんらのおかげに違いねぇってわけよ」


 思いがけないところで、いきなりコツブの大食いが役に立ってくれた。これはコマーシャルに出演するようなものだ。


「コツブのおかげでタレント仕事がもらえたよ」

「ううっ、すごいです」

「どうもどうもどうも」


 照れて恐縮する仕草がウルルに似てるけど、元を辿れば僕の真似かもしれない。


「明日はもっと多く仕込んでみようと思うんだ」

「効果があるといいんですが」


 飲食の世界は難しいと聞くので心配になった。


「試してみないと分からんからな」

「そうですね」

「なに、売れ残っても構わんさ、その時は嬢ちゃんに食べてもらうとするさ」

「おう!」


 コツブの張り切る姿にご主人も嬉しそうだった。朗らかな表情といい、元気いっぱいのリアクションといい、早速コツブは天職を見つけたようである。



 翌日


 天気だけが心配だったけど、綿アメのような雲が浮かぶ青空が広がっていた。行商人の往来もいつも通りだったので、パン屋は大盛況だった。


「あの子と同じのを」


 お客さんが指を差しながら注文しているのがテラス席まで聞こえてきたので、コツブの宣伝効果は絶大だと思われた。


「あの子と同じサイズにしよう」


 通常の二倍の量を仕込んだと聞いた時は、正直それはどうかと思ったけど、この日も朝のうちに完売したので、完全に僕の予想を上回った。


「いやぁ、すまないな──」


 仕事を終えたご主人がイイ顔をして話し掛けてきた。


「売れ残ったパンをお土産にして渡そうと思ってたけど、ご覧の通りパン屑一つ残ってねぇんだ。代わりと言っちゃなんだが、これを受け取ってくれ」


 そこで僕たち三人が座っているテーブルの上に見るからに重そうな巾着袋をポンと置くのだった。


「お金ですか?」

「おうともよ」

「僕たちに?」

「もちろんだ」


 そこで急に大人がときどき見せる怖い顔をした。


「ただし他の店に行くのは止してくれ。その約束さえ守ってくれれば、この村にいる間は食い物に不自由させない」


 インターネットを利用していたので、飲食店が仕入れで苦労するのは知っている。つまり予約のドタキャンは絶対にやってはいけないということだ。


「どうする?」


 それでも僕一人で決めていいことではないので二人に相談することにした。


「ううっ、わたしはコツブちゃんに任せます」

「おらっちはこの店の『肉スペシャル』が大好きなんだ」


 それを聞いた店主が手を叩いて派手に喜んだ。


「よっしゃ、決まりだ!」


 ということで、コツブの特技のおかげで、僕とウルルの職探しが楽になった。

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