縒り合わさった点
2017年07月21日(金)1時30分 =呪い屋=
「で、あなたが津雲巡さん...でいいのかしら?」
俺らが戻ると全員が起きており、この部屋を隅々まで見回していた。そして、そのうちの一人の女性が俺にむけて問いかけてくる。肯定の意思を示すと感謝の謝辞と軽いお辞儀をされる。そして、それはそれとして、彼女は俺の腕の中で眠りこけている光ちゃんのことが気になるようで光ちゃんの顔をのぞき込んでいる。
「さて、どうにか全員合流できたわけだけど...」と文野が言うとレイが「凩はどうしたんです?」と問いかける。
「あー、まあ、生贄になってもらったって言った方がいいかな...。奈穂さんに捕まってね、私だけ命辛々逃げ延びたって感じだね。」
部屋の中は微妙に重いようなそうでもないような空気を感じる。おそらくその凩という人物はさほど関係性が深かったわけでもないのだろう。ただ、結局俺と入れ替わりになったから何とも言えない...という感じだろうか。
「まあ、少なくとも彼奴も公安だし、そこまでひどいことにはならないと思うから一旦はいいんじゃないか?」
確か...鴻だったか。…まさかな。
「どうだろうか、少なくとも奈穂は執念深いよ。」
遼太郎の双眸が赤く光る。さしずめ遼太郎のもう一つの人格...のようなものだろうか。誰も言葉を発さず、その異様な風貌を示す遼太郎に視線を向けていると少し困ったようにしてから、
「...鳥羽朱里。公安対神課の元壱級職員...いや、退職はしてないから今もか。いろいろあってこの体を借りてるの。詳細はそっちの子から聞いて頂戴。」と指さす先には桐藤さんが居た。
「ええっと...話していいの?」と鳥羽に対して彼女が確認すると、何も言わず盾に首を振った。
「...どうなっても知らないからね。これは、ちょっとした昔ばなしなんだけどね――あれは、雨が強く降りしきる秋のことだったかな。」
あの雨の中、私たちは無様にも地面に横たわっていた。
あの雨の中、私たちは怪物に蹂躙されていた。
あの雨の中、私たちは命を一度落とした。
あの雨の中、彼だけは意識を取り戻さなかった。
あの雨の中、彼らは手を差し伸べてくれた。
あの雨の中、彼女は彼に命を吹き込んでくれた。
あの雨の中、彼女の火は雨で消されてしまった。
「...とまぁ、こんな感じです。」
ふむ、理解し難いが...まあそんなこともあるのだろう。
「そうか。まあ、一旦そのことは置いといて...これからどうするんだ?」と俺は問いかける。
全員いい案が浮かばないような表情を浮かべるが、一人が俺のその問いに言葉を返す。
「おそらくだが、その光を取り巻く組織は仲良しこよしというわけではないと思う。つまり、その誰もがすぐに手を出すことが出来なくてなお見つかりにくい場所が好ましい。よって、私たちが一先ず身を隠すことのできる場所とするならば...、鈴埜宮のホムンクルス研究所跡。それ以上の好立地は私には思いつかないが、何かあるかな?」
実際、公安は光ちゃんを追っている。おそらく、それ以外の目的がないのならわざわざ他の陣営を刺激する行動はとらないだろう。であれば...悪くはない提案か。
「俺は、賛成だな。」
「まぁ、先輩は無駄なところは頭が回るからね。僕たちも同じく賛成だ。」
「一つ疑問だが、そこまでの距離はどの程度なんだ。ここから街の反対側と言われたらさすがに無理なんだが。」
「そこは大丈夫。私の記憶が間違っていなければこの近くだ。それに、この呪い屋だが...凩君の家を上書きしているようだね?」
「...さあな。この土地と家が売られていたから買っただけだ。」
「そ。まあ、別にアイツの家がどうなろうと知ったこっちゃないから何でもいいんだけどね。」
「そうか。まあ話は逸れたが別に反対する人も居ないしさっさと移動しよう。さっき眠らせた公安の奴もいつ起きるかわからねぇからな。」
俺らはその後、最低限の荷物をもって文野の後ろを付いていくことにしたが徒歩10分をしないうちに目的の場所についた。
「あの、私たちの目がおかしくないのであればただのマンホールのように思えるのですが?」
桧さんがそう文野は答える。
「ああ。ここの下が、研究所の跡地だよ。」




