いざ征かん、空の裏側へ
濃密な会議の末、俺は奈穂さんの相手を。文野は香苗さんの相手を。遼太郎さんは蜘蛛野郎とやらの相手を。そして、燈樫さんは最優先目標が津雲さんの奪還、その後援護に行くということになった。
そして、鴻さんと波留さん、彩花の3人はドローンで四人と光ちゃんを移送&護衛をすることになった。
「それじゃあ、みなさん覚悟はいいですか?」
全員が互いの顔を見合い、強く静かに頷く。それを確認した俺は2回、懐中時計のボタンを押した。
2017年07月21日(金)0時31分 =旧文野宅=
瞼を素早く開け、行動に移る。俺たち襲撃組は素早く体にドローンに繋がったロープを巻き付ける。
「それじゃあ、俺は先に置いてきた薙刀を回収してくる。」
そう言うと遼太郎さんは一足先に宵闇の街中へと飛んで行った。
「二人とも、準備はいい?」
文野が俺と燈樫さんに問いかけてくる。
「もちろん、万全。とはいかないですが、なるべく粘りますよ。」
「ああ。命大事に、ガンガン行こうぜ。俺たちには大義名分があるからな。」
そう、大義名分がこちらにはある。
それは、俺がこの町に来た理由である対神課の最終試験。俺に課せられた任務はただ一つ。奈穂さんに一撃を入れること。そのためであれば何をやっても良いと言質は取っている。だから、今回はそれを利用させてもらう。本来、警察署への襲撃などと言う行為は称されるべきことではなく、どう考えても非常識な行為。重大な違法行為とされる可能性さえある所業だ。だが、今回に限り主目的ではないが目的の一つとしてそう言う理由があるということで目をつぶられる可能性に賭けている。だから、俺はどうしても奈穂さんとかち合わなければならない。逆に、それ以外に出会ってはまずいことになる。だから、これは針穴に毛糸を通すぐらい難しい運ゲーに勝たなければならない。
「そう言えば、文野。お前、伶の服の中をまさぐってたが何をしてたんだ?」
燈樫さんがそう問いかけると、文野は薄ら笑みを浮かべる。
「ちょっとした保険だよ。何かがあったとき用のね。」
そう言ってから、文野は慣れた手つきでロープを巻き付ける。そして、ベランダへと出る。うっすらと輪郭が見える月に照らされた夜の街は静寂に包まれていた。
「さあ、行こうか。未来を書き換えにね。」
文野がそう言ったのを皮切りに俺たち3人も遼太郎さんのように静寂の街へと降り、警察署へと向かう。
2017年07月21日(金)0時44分 =住宅街呪い屋近郊=
薙刀は回収した。しかしながら、着地をミスっちまったせいでロープが解けちまったからどうしたものかと考えていたが、運がいいのか悪いのか。だが、変に見失うよりかはよかったかな。
「そう思わないか、蜘蛛野郎。」
「この身体の名前は狭間潤一だ。蜘蛛野郎と言うのは間違ってはいないが、ちゃんと名前で呼んだ方がいいぞ、狛凪遼太郎。」
俺は警察署に向かう道中、幸か不幸か蜘蛛野郎と出会うこととなった。であれば、足止めをするのみ!
【狛凪流 居待月】
狛凪流の一つ、居待月は狛凪流唯一のカウンター技であり、相手の行動によって大きく行動を変化できる技だ。上弦月、下弦月、有明月。様々な技に変化できる技だ。
さあ、来い。どこから来たとしても、お前のあの糸に対応してやる!
「お前が何を考えているかは知らないが、そんな見え据えの罠に引っかかるほどお利口ではないのでね。お前に足止めされるほど暇じゃないんだ。それじゃあ、失礼させてもらう。」
そう言って奴は糸を掌から噴射し、瞬時に家々を飛び越える速度で打ち上げられる。
「マジかよ!?」
流石にあんな速度で飛ばれたら追いかけることは難しいな。それも、家を超えるほどの跳躍力。糸で射出されているからと言っても明らかに異様な速度だ。
俺も急いで後を追うように駆け出す。あっちの方向は...呪い屋か...?
追いかけ、住宅街の曲がり角を二つ曲がる。そして、着地したであろう箇所を目撃した瞬間、そこには驚きの光景があった。
鴻がどこから持ち出したのかわからない、黒い羽のような大剣で狭間と戦っていた。
「おい、お前の担当じゃなかったのか?」
「うっせぇな、協力しやがれ!俺だけじゃどうしようもできねぇよ!」
まだ、時間を稼がねぇといけねぇ。早く終わらせてくれよ、お前ら!




