我ら、罪の果実を食べた者
「使えないって...どういう?」
「言葉通りだ。存在は知っているが修得はしていないからな。ツテもないことはないが今呼んでも間に合うとは到底思えないしな。」
鈍重な空気に押しつぶされそうになる。いい提案が思い浮かばず喉の奥から吐き出そうとした言葉でさえ出ることを拒んだ。
そんな中、静寂を割いたのは遼太郎さんだった。
「一人だけ。心当たりがある。」
その一言に全員の視線が集まる。
「津雲さん。俺たちを逃がしてくれたあの人ならそのアイホートの雛の追放とかいう魔術を扱えると思う。」
「それってもしかして、赤髪の男性?」
文野が震えた声で尋ねると、遼太郎さんは驚いた表情をするが、しっかりと静かに頷いた。
「だったら、それも難しいかも...しれない。最後に見た時、彼は...警察署内に連れていかれたから。桧さんが死ぬまでに連れ出すのは、ほぼ、不可能だとおもう。」
「死ぬまでにと言う時間制限であれば、何とかなるかもしれないです。」
静寂を切り裂くように俺はそう言う。その言葉に全員が視線を向ける。俺はポケットをまさぐり、それを取り出す。
「この懐中時計は、坂下さんの家の倉庫にあったものです。」
殆どの人は坂下さんを知らないからか困惑の表情を浮かべていたが、一人だけ。その真実を知っている彼女はその瞳に光を取り戻した。
「つまり、それって...。」
「これは、魔具だよ。一回使うと大体1時間ぐらい巻き戻る。」
「つまり、他の奴らも助けられるってことか?」
「多分。やってみないと分からないけど、できると思う。」
「そう、なんだ。だったら、どうやって津雲と言う人物を連れ出して魔術を使用するか。それを考えよう。」
「考えるも何も、戻ったら直接警察署から取り返せば...いや、無理だな。あの警官どもには勝てない。」
希望が見えたからか、口々に解決案を提案しだす。
「奈穂さんに香苗さん。伸二さんはまあいいとしてその壱級二人が邪魔になりますかね?」
「それだけじゃない。あの蜘蛛野郎も邪魔をしてくるだろうな。」
「蜘蛛野郎...少なくとも俺は見ていないがそういう奴も居るのか。であれば、香苗さんと蜘蛛の奴。それに伸二さんを抑えながら誰かが津雲さんのところに行ければいい。」
「奈穂さんはどうするのさ?無視するわけにはいかないでしょ。」
「・・・俺が一人で相手する。」
「はあ!?」
その反応をするのは分かり切っていた。霞城奈穂壱級職員。単純な攻撃力なら対神課の中でも最上位だ。普通なら奈穂さんとの一対一なんて自殺行為にも等しい。だが、俺には秘策がある。
「大丈夫だ、心配しなくても奈穂さんは俺を殺さない。ボコボコにはされるだろうが、奈穂さんのヘイトを買うぐらいであれば余裕だ。」
「・・・信じるからね。それじゃあ、私は香苗とやらの相手でもしましょうかね。」
「おい、お前がわざわざ前に出なくてもドローンでサポートとかをしても「燈樫くん。」...なんだ。」
「ごめんだけど、今回それはできない。対神課の壱級って言うのは化け物の集団だ。呪い屋から逃げてきた君たちならよくわかるだろう?」
遼太郎さんと波留さんの二人は黙って頷く。
「であれば、私が戦う。燈樫くんは雛を植え付けられている四人を呪い屋まで連れて行ってほしい。」
「待つのです。であれば私たちが連れて行くのです。」
文野の言葉を遮ったのは彩花だった。
「鴻君と私、それと波留さんの3人で呪い屋まで連れて行くのです。」
「お、おい。つまりそれって俺、警察署に行かなきならねえじゃねえか!」
「すまないが、君の力量も考えてだ。それに、光ちゃんをそっちに連れて行くこともできない。であれば、なるべく戦闘だけを考える方に君を置くべきだと判断させてもらった。」
そう言って鴻さんは遼太郎さんを丸め込んだ。
「というか、質問なんだがなんで呪い屋なんだ?べつにここでもいいんじゃないか?」
「それも考えはしたんだが、津雲という存在の話を聞いたうえで断言できるが、彼は何かしらの細工があるはずだ。であれば、その着地点として彼自身の根城がセットされていてもおかしくはない。それに、何かあったときに呪い屋の方が対応しやすい可能性が高いからだね。」
着々とアイホートの雛をどうにかする計画が立ち始めた。沈んでいた皆の気力も徐々に回復してきている。このまま、作戦決行までうまくいけばいいのだが。




