凍てつけ、深く遠くまで - その1
2017年07月20日(木)10時29分 =呪い屋=
「それで、結局どうするの。このままここで油を売るわけにはいかないし、この子もそのままにしておくことはできないし。」
私たち、社会的には大人と言われている3人で光ちゃんのことについて作戦会議をしていた。幸いにも、光ちゃんは緊張の糸が解けたのか再びぐっすりと眠っており、隣の部屋で話していても起きる気配はない。
「少なくとも、あの変な奴らに見つかってる以上は街中を動くのも危険かもしれない。かといって、あの子をここに置いていくのも気が引けるんだよな。」と、津雲さんが困ったような声色をしながら言う。
「だったら、警察に頼るのはどうだ。あの時も警察の人がいたわけだから証言をしてくれるんじゃないか?」と遼太郎が言うが、
「そんなことしてみろ、第三者からしたらどっかの女の子を誘拐、拉致監禁しているといっても差し支えない状況だぞ。それにお前、警官になんか絡まれていただろ。場合によっては誘拐拉致監禁も乗ってめでたく留置所送りだろ。」とばっさりと津雲さんが断ち切る。
「それに、あのよくわからない組織につけ狙われる可能性もあるわけで。そう考えると無闇に外に出るのは危険なわけで。であれば、」そう言葉を続けようとした途端、隣の部屋からごそごそとこの音が聞こえた。そして、部屋を隔てていた襖が少し開き光ちゃんが顔を出した。
「あの...、すみません...。ごはん...とかって、無いですかね...?」と、申し訳なさそうに聞いてくる。
確かに、私もジョギング中に巻き込まれたわけだし朝食を摂り損ねていたっけな。
津雲さんの方に視線を送ると、仕方ないかと言うような表情で、「二人のどちらか、料理慣れしてる?」と聞いてくる。
「俺は道場に来てる子達のためにご飯とかの用意してあげてるが、そっちは?」
「私は全然かな。ほとんど仕事ばっかだから自炊は全然でね...。」と、謙遜しておく。まあ、実際自炊自体はしないからなぁ。
「それじゃ、決まりだな。それじゃあ、波留さんは光ちゃんと待っていてくれ。」と津雲さんは言って、遼太郎を連れて行った。
取り残された私は、特に理由はないが光ちゃんを抱きかかえて私の前に座らせる。そして、光ちゃんの髪の毛を触る。あまり手入れをされていないんだろう、サラサラではあるが潤いや艶があまり見えない。これは、これは。とても、手入れのし甲斐があるなぁ!
そう思いながら、私が使っている櫛を取り出して髪を梳く。やはり、サラサラなのもあってそこまで絡まってもいないか。この長髪だと何でもできるぞ。王道のポニーテールも捨てがたい...でも、三つ編みタイプとかお団子もいいなぁ。そう考えながらも、櫛を動かす手は止まらないのだった。
ある程度調理も終わり、後は汁物をもう少しだけ温めるだけ。そろそろ、彼に話をしておこう。
「さて、と。狛凪くん。これからの話をしよう。」
「お、おう。かなり急だな。」
「仕方ないだろ、予想がやっと確信になったからな。」
あいつが言ってくれたことがやっと繋がってからな。まったく、あいつは俺よりも頭がいいんだからそんな情報の断片で組み立て切るのには時間がかかるだっつうのにな。
心の中で愚痴っていると遼太郎が、
「そうか。それで、その核心とやらは教えてくれるのか?」と聞いてきた。
「それは次の質問に答えてからだな。・・・お前は、光ちゃんを見捨てる気はあるか?」
本当はそんなことを聞きたくはなかったが、今のうちに聞いておかないとな。
「見捨てるだぁ?そんなことするわけねぇだろ。一度手を差し伸べたんだ、最後まで見守るってのが手を差し伸べた奴の責務ってもんだろ。」
そう言い切った遼太郎の目の奥に、なにか炎のように燃えたものが見えて気がした。
「そうか。であれば尚更、警察に手助けは求められないだろうな。」
「・・・どうしてだ?」
全てをこの男に話していいものか...。いや、やめておこう。どう考えても理解されないだろうしな。
「詳しく説明するのは難しいから、掻い摘んで説明するとだな。警察は光ちゃんを良くて確保。最悪、殺害しに来るだろう。」
「そんな、どうして...。」
「言うなれば、彼女の存在が問題なのさ。だから、彼女を守るのならば、命を懸ける覚悟をしておけ。」
そう言って、既に盛っておいていたご飯を乗せた茶碗や料理をお盆に乗せておく。
何か悩んでいるのか、考えているのか。何も言わない遼太郎に対して、一つ言葉を投げかけてから部屋を去った。
「もし、ここに警察が来たらだが。彼女を連れて逃げろ。俺が時間を稼いでやる。」




