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宴-en- 〜閻魔美少年と行く冥界世直し珍道中〜  作者: 風島ゆう
死を儚んではならない。
19/31

19.夜の怪物




 これはあれだ。東京にあるスカイツリー現象と同じだ。


 歩くことしばらく。

 総勢六人に膨れ上がった一行の一番後ろを歩きながら俺は思った。


 見えてはいるのに歩いても歩いてもたどり着かない。対象物が大きすぎて遠近感が狂っているのだ。


 一度「見えるから」という理由で御茶ノ水あたりからスカイツリーを目指してえらい目にあったことがある。あの時と同じ裏切られた感だ。


 近くに感じていた分、俺の疲労度は加速度的に積み上がっていた。

 肉体的な疲労も蓄積しているが精神的な疲労も激しい。徐々に一行から遅れた始めた俺は、すでに歩くことへの意欲を失いつつあった。


「なー。もうよくねー? もう今日は休もうよー。座ろうよ。寝ようよ。歩くのやめようよー」


 先頭を行く焔に呼びかけると、遠くの方から冷ややかな視線を向けられた。


「ならお前はそこでゆっくり寝てろ。俺は先に行く」


「俺も行っちゃうぞー、ゆとり」


 気の無い声でアニが同調してひらりと片手を上げてみせる。

 くそーっ、友達がいのないやつらめ。

 ふくれっ面で渋々歩いていると、後続組のご婦人方が俺に近づいて来た。


「頑張ってください。日中は鬼に追いかけ回されて予想外の方向へ追いやられることもあるから、確実に死出の山との距離を詰められるのはこの時間だけなんですから」


「そうですよ。夜の怪物に遭いさえしなければ、夜は安全です」


 俺の歩調に合わせながら、「おまえ」さんと「ねえ」さんが代わる代わる俺を励ましてくれる。

 嬉しいけど……お年寄りに励まされる俺。情けない。

 恐縮しつつ、俺は二人のご婦人に尋ねた。


「あのー、夜の怪物っていうのは? 鬼ですか。幽霊、とか?」


 まあ。知らないの。とご婦人方が少し驚いたような表情を作る。


「俺、今日ここに来たばっかりの初心者なんです。夜を迎えるのもこれが初めて。だから何にも知らなくて」


「今日?」


「あらあ、それでもうこんな所にいるなんてあなた徳が高かったのねえ」


 とく?

 俺が「分からない」という顔で首をひねると、「ねえ」さんが親切に教えてくれた。


「死んだ人は皆、最初は死出の山を目指しますけどね、どこから出発するのかは生前の徳によって異なるそうです。生前に犯した罪が重いほど遠く、良い行いを積んでいるほど近くの場所から出発できるの。私はここまで、もう三日かかっていますよ。何度か死んでしまっているから、全部で五日。七日目に第一法廷にたどり着くのは難しいかもしれませんねえ」


 そうなのか。

 徳を積んだ覚えはないが、スタート地点が死出の山に近かったのはラッキーだ。

 へえ、と感心していると「おまえ」さんが言った。


「夜の怪物は大きな蛇のような、龍のような……気味の悪いものだと聞いています。胴体は太く、頭と尾は細長く、ドリルみたいな鋭い鼻先を持っていて、手足がありません。羽が生えているという人もいますが、飛んでいる所を見た人はいないみたいですね。毒を吐くとか、人の頭が好物で鬼も人も関係なく頭だけバリバリ食べてしまうとか、色々噂がありますが……頭を食べるのは本当だと思います。ここに来るまでの間に私、荒野を彷徨う首なし死体を何度か見ましたし」


「ああああああ無理いいいい。グロいの無理いいいい」


 どう考えてもスプラッタな怪物に、俺はぶんぶん首を振った。

 痛いのも怖いのも辛いのもグロいのも全部ダメだ。

 あわわ、と青くなる俺の脳内で、文字が怪訝そうに閃いた。


【何だろう、それ……。おれ、そんなの聞いたことないよ。こんなに死者が集まるのも初めてだし。イレギュラーなことが多すぎる】


「そういえば」


 思い出したように「おまえ」さんが両手をぽんと叩き合わせる。


「確か『あんた』さんが遠目から夜の怪物を見たことあるって言ってたわ。あの人、ああ見えてこの世界は八日目のベテランだから」


 八日目とはそれすなわち遅刻組では。

 俺の気まずさなどつゆ知らず、「おまえ」さんが「あんた」さんに呼びかけた。


「ねえ貴方、『あんた』さん! 貴方夜の怪物を見たことあるって言ってましたよね⁉︎」


 張り上げた声に気がついて、「あんた」さんがこちらを振り返る。

 何事か答えかけて――そのままあんぐりと口開いて絶句した。


 


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