幕間_その15_加賀の母とさきちゃん
恋人の母親に呼ばれ、高島さきがついていった。
部屋に招かれて、アルバムを見せつけられていた。
「遊ちゃんは……」
「はい?」
「遊ちゃんは優しくしてくれてる?」
「うん……優しすぎるくらい」
「そう……」
「あの子は馬鹿で鈍感ですぐ嘘つくけど、根は優しい子だから……遊ちゃんのこと、よろしくね」
「え……」
「遊ちゃんの彼女なんでしょ?」
「そうです。彼女です。加賀君の……」
「あ、ほら、これ見て見てさきちゃん。遊ちゃんがサッカーしてた頃の写真」
「おぉ……ちょっとぽっちゃりしてる……」
「可愛がりすぎちゃった」
「あはは」
「頼りなくて、甲斐性なしだと思うけど……」
「大丈夫です! 絆がありますから」
「絆?」
「はい!」
「どこまでやっちゃったの?」
「やっ、やっちゃってません! キスまでです!」
「あら、キス……遊ちゃんも大人になっちゃって……」
「ぅぁ……ええとその……ごめんなさい」
「どうして謝るの? いいじゃない、彼女なんだから」
「だって何か……その……」
「遊ちゃんは、誰のものでもないわよ。だから、いいの。それが遊ちゃんが至った道ならね」
「あの、お母さん……」
「もう! お母さんなんて気が早いわよぅ」
「あわ……ごめんなさい……」
「何で謝るのよ」
「なんとなく……」
「そんな後ろめたい感情を抱いてるんだったら、遊ちゃんと付き合うの許さないわよ?」
「あぅぅ……」
「それで……何?」
「どうして遊規っていう名前付けたんですか?」
「……そうねぇ……矛盾してるでしょ?」
「え?」
「『遊』っていうのは、何ていうかな、居場所を離れてブラブラと型にはまらない気楽な感じ。『規』っていう字は型にはめて計画的に生きるような感じ。そのどちらの生き方もできるように、生きていくのに必要な『勇気』っていう音を当てたの。名前負けして意気地なしで甘えたがりの子になっちゃったけど……」
「そんなことないです! 加賀君は勇気凛々です!」
「そう……よかった」
「……はい、最高です」
「さきちゃんは、どういう字を書くの?」
「あたしは、平仮名でさきです」
「そう……じゃあ、すごくたくさんの意味を持ってるのかも知れないわね」
「たくさん……?」
「だって、さきっていう言葉を調べてもたくさんあるし、さという音を持つ漢字ときっていう音を持つ漢字もいっぱいあって、その全ての組み合わせが、平仮名二文字の中に詰まってるのよ? 漢字だけじゃなくて、世界中の色んな言葉で色んな意味を持ったりもする。それが音だけの名前の可能性だと思うわ」
「……すごい」
「でしょ?」
「宇宙みたい」
「私もそう思うわ」
その時、高島さきは急に思い出した。
「あっ……」
「うん?」
「あたし、お父さんとお母さんと出かける約束してたんだった!」
「あらあら、もしあたしが遊ちゃんに約束すっぽかされたら枕濡らしちゃうわ」
「ですよねっ! あたし、帰ります! 今日はありがとうございました!」
頭を下げて部屋を出て行く。
「加賀君加賀くーん!」
元気な声をあげながら。
「……とってもいい子じゃない。遊ちゃん」




