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幕間_その8_あたしは、あたし。
視点:蔵野まち→山田ひろみ
あたしは知らないはずのこの人たち。
あたしは知っている気がした。
でもあたしは知らなくて、こういうの、どう言ったら良いんだろう。
表す単語をあたしは知らない。
ぼんやりふわふわした、水の中で誰かの声が聞こえてくるみたいな音。
皆が喋っているのが、どこか遠い世界の出来事で、
声が遅れてきこえてくるみたいな感じがする。
「確かに、みやこちゃんにどことなく似てるけど……」
みやこって誰?
あたしの名前じゃない。
「霧野に似てないじゃん」
あたしは、あたし。でも、どう言えばいいだろう?
あたしは言葉をよく知らない。
知っているはずだと思う、よくわからないあたしもいる。
もしもたくさん言葉を知っていたら、この人たちともっと話したいのに……。
あれ?
でも、皆が、何を話しているのか、少しだけだけど、わかるんだから、
きっとあたしは、もっとたくさん、言葉を知っているはずなんだけどな。




