幕間_その2_笑うこと
視点:新渡戸夕貴→霧野みやこ
貴方に伝える言葉を持たない。伝えていいのかわからない。
私は貴方を待っている。あのお姫様のように。
ただ、連れ出してくれる誰かを。ううん……違う。誰か、じゃない。私は貴方を待っている。
約束なんてしていない。
だけど私は信じてる。きっと私の手を握り、私と走ってくれること。
★
クラスの女の子が黒板に石灰の塊で何か絵を描いている。
あの姫の名と、あの人の名前を、並べて笑って書いている。
違う。あれは笑ってなんていない。あんな汚い顔、笑うなんてきっと言わない。
面白くない。何も。
私は黒板を消す黒い塊を手にとって、教師がいつもそうするように、その描きかけの傘みたいな絵を消した。担任の「そーませんせい」がそうするように、強く、叩くように、消した。
「ちょ、ちょっと、霧野さん……何するのよ」
「……よくないと思う」
口をついて、そんな言葉が出た。
あんな絵を、あの姫様が見たらどう思うだろう。
あんな絵を、あの人が見たらどう思うだろう。
でも……私が何より怖かったのは……あの絵を見た二人が、顔を見合わせて笑うこと。




