閑話 ルーシェンは甘党
ザリーナが華春国から持ってきた大量の甘杏仁を前にして、密かにルーシェンは喜んでいた。強面でいい歳した大男ではあるが、ルーシェンは無類の甘党なのだ。
「甘杏仁なんてずいぶん久しぶりだな!さて、何を作るか……」
頭の中に色々なレシピが浮かぶ中、ルーシェンは杏仁の白い粒を擦り始めた。
大量に擦り潰したところで、水を加え、布に入れて絞り上げ、ミルクと粉に分ける。
杏仁の甘い香りが立ち上り、ルーシェンは恍惚とした表情を浮かべた。
「やっぱりミルクは寒天で固めるべきか?いや俺はタピオカと混ぜてスープのように飲むのが好きなんだがなあ。悩むなあ……」
粉に比してミルクはあまり量が取れない。どちらかのメニューしかできないのでルーシェンは思い悩んだ。
その時、ルーシェンの脳裏にザリーナの顔が浮かんだ。彼女に甘杏仁の話をした時は寒天の話も一緒にしたことを思い出した。
「しょうがない。今回は寒天で杏仁豆腐を作るしかないな……。まあ、その方が一口でも皆が味見できるしな」
ルーシェンは杏仁豆腐を作って氷室で冷やしておいた。そして残りの粉の方は砂糖ととうもろこし粉を混ぜて杏仁霜にし、月餅の餡に入れた。
「ザリーナ!杏仁豆腐と月餅ができたぞ!食べてみろ」
薬剤部屋で作業をしていたザリーナにルーシェンは一口サイズに切った杏仁豆腐と小ぶりの月餅を差し出した。
「わあ!これがルーシェンが前に言ってた、甘杏仁のデザートね!綺麗!美味しそう!いい匂い‼︎」
ザリーナは興奮してそれらを受け取り、物珍しそうに杏仁豆腐を見つめた。
「見た目は普通のミルクみたいなのに、フルーツのようなすごく良い匂いがするのね。このつるんと柔らかそうなのが海藻で固めてるって不思議だわ!」
ザリーナは、ゆっくりと杏仁豆腐を口に運んだ。
口の中でプルプルとした、しかし、しっかりと噛み応えがあるその不思議な食感に目を見開く。
「!!!!」
言葉がないままゴクリとザリーナの喉が動き、しばらく放心したようになった。
ルーシェンはその反応に満足そうに口角を上げた。
「どうだ。美味いだろう」
「美味いなんてもんじゃないわ!何これ、すごい、こんなの初めてよ!この世にこんなに美味しい物があったなんて!……しまったわ。華春でもっと色々食べて来るべきだったわ。あっ、ちょっとまた一週間ぐらい休んで良い?」
「いや、行くな。いい加減大人しくしとけ」
ルーシェンは興奮気味のザリーナを宥め、その口に月餅を突っ込んだ。
「!!!!!!」
ザリーナは無言で月餅を味わった。途中ルーシェンがお茶を差し出し、ザリーナは右手にお茶、左手に月餅を持ち交互に手を動かした。
「杏仁豆腐は衝撃だったけど、月餅も良いわね。お茶に合うわ」
腹持ちする月餅を食べたことで幾分落ち着いたザリーナはホッと息を吐いた。
その顔は幸せそうに紅潮していた。
「よしよし。気に入ったならまた出してやるから大人しく国で仕事しろ」
「やった!私もこれから甘杏仁が好物って言うわ。この香り大好き」
「華春には金木犀ケーキっていうのもあってだな。そっちも美味いんだぞ」
ザリーナが華春国のデザートを気に入ったことに気を良くしたルーシェンはついそう口走ってしまった。
しかし、それを耳にしてザリーナの目がギラリと光った。
「ちょっと華春国に金木犀の木を取りに行って来るわ」
「いや、待て、まだ金木犀の季節じゃないから無駄足だぞ!」
ルーシェンは今にも転移しそうなザリーナを慌てて押し留めた。
そして、この半年後、ザリーナは突然金木犀の木を持ち帰り、ルーシェンに金木犀ケーキをねだることになるのだが、それはまた別のお話。




