5.ザリーナ、人助けをする 後編
ザリーナはまず昨日の宿屋に向かった。できればマントと靴と小刀を取り返したかったのもあるが、一番は仕返しをするためだ。
その店は昼の混雑前のようで、まだ人は疎らだった。
「いらっしゃい!」
昨日の女店員が大きな声で叫んだが、その顔は瞬く間に驚愕に歪んだ。
「借りを返しに来たわ」
「ひぃ!あんた、何で⁈」
「やっぱりグルだったみたいね。あの男はどこかしら?落とし前を付けさせてもらうわ」
ザリーナは入りながら店の扉を閉め、中にいる人間が逃げられないようにした。
「関係ない人は大人しく座っていなさいな」
ラドがザリーナの言葉を通訳すると、中に残っていた男たちは気色ばんで立ち上がろうとした。
しかし、見えない空気に抑えられるように身体が座席から離れることはなかった。
「あんたたち、独り者の泊り客は毎回売っぱらってるの?酷いことをしてくれるわね。二度とそんなことができないように、あんたたちの店は宿なしで食堂だけやってたら良いわ」
ザリーナは笑顔でそう言い放ち、宿の二階から上を吹き飛ばした。瓦礫がバラバラと崩れる中、一応人が怪我をしないように風魔法で保護も忘れない。
「さあ、あの男の元に案内しなさい。それから私のマントと靴、小刀もちゃんと返してね」
横でラドが通訳する間も、女はザリーナの顔から目を逸らすこともできずにガクガクと震えながら頷いた。
女は店の裏に行き、中庭を抜けて隣の立派な建物に入った。そこが女と男の自宅のようで、ザリーナとラドは店よりも煌びやかなそこに少し呆れた。
「宿も店もまあまあボロイのに、こちらはやたらと綺麗ね・・・・・。どんだけ黒いことやってるんだか……」
ザリーナがぶつぶつ呟くと、ラドも同意するように頷いた。
「あんた!ちょっと!」
「何だお前、俺はさっき帰ったばかりでまだ眠いんだよ……」
中で横になっていた男を女が揺り起こすが、男は背を向け起きようとしない。
苛立ちを覚えたザリーナは男に向かって風の塊をぶつけた。
「ぐげぇ!」
「さっきはよくも人を荷物のように扱ってくれたわね。これだけ立派な家、何人売りさばけば立てられるのかしら?」
あえて、ラドは訳さなかった。なぜならザリーナは独り言のように語りながら、何度も男に風の塊を投げつけていたからだ。
男はあたかも石を投げつけられたかの様に瞬く間に痣だらけになり、ところどころ血も流れていた。
男が声も出なくなった所で気が済んだようで、ザリーナは自分の荷物を受け取ると、女に五十銭を差し出した。
「昨日の宿代よ。あんたの店も当分は開けられないだろうか。このお金は大事にしなさいね」
そう言って、恐怖で顔を青くした女をあざ笑うかのような笑みを浮かべた。
宿を出たザリーナは、ラドを連れて昨日の薬草店を訪れた。
ザリーナにとって信頼できるのはあの店主しかいない。彼でダメならルーシェンを頼りに魔塔に戻るしかないだろう。
「こんにちは!」
「おや、昨日のお客さんかね?どうしたんだい。追加でも要り用かい?」
「このこ、迷子。助けて」
「迷子?お嬢ちゃん。どこの子だい?」
「私は青沼山のサリ村のラド」
「青沼山か」
店主は頷き、机の中から紙を出した。
「それどこ?」
「ここが春京。青沼山はここから北西に二十里ほどいった山の中だ」
そう言いながら店主は簡単な地図を描いた。
「と言っても道があるわけではないし、余所者は迷うのが落ちだぞ」
「まよう、ない。この地図で、だいじょぶ。ありがと」
「ありがとうございます」
ラドもお辞儀をして、二人は店を出た。
「じゃあ、ラドの村に行く前に、腹ごしらえでもしましょうか」
「やった!」
ザリーナはラドを連れて昨日入れなかった店に入った。店はちょうど書き入れ時だったが、すぐに席に案内された。
「何でも頼んで良いわよ。私は何が美味しいのか分からないから、ラドの好きなものを頼んで」
「ええ、じゃあ、魚と、あと羊肉と、蒸しパンと……」
ラドは本当に好きなものを頼んだ、
唐揚げにして甘酸っぱいソースが絡められた魚は香ばしいのに柔らかくとても美味しかった。羊肉は少し臭みがあったが、これもタレに付け込まれており、蒸しパンに挟んで食べると良く合った。
――昨日の海老もまあまあ口に合ったけど、今日のこの料理は格別だわ!
デザートの揚げ団子を堪能しながら、ザリーナはルーシェンの地図とラドのメニュー選択に感謝した。
「さあ、じゃあお腹もいっぱいになったし、ラドのお家を探しましょうか」
「ありがとう。うち、歩くの得意やで」
「大丈夫よ。ラド、私の背中に乗ってくれる?」
「ええっ!ええの?うち結構重いよ」
「大丈夫。私は力持ちなのよ」
そう言って、ザリーナはラドをおぶさると、天高く舞い上がった。




