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2/3

300万円、蒸発

その日、仕事から帰ると部屋が静かだった。


「……あれ?」


テレビがついていない。


玄関を見る。


靴がない。


リビングを見る。


いつも床に脱ぎっぱなしのパーカーもない。


「珍しい」


一瞬だけ思った。


で、その一瞬で終わった。


嫌な予感は、たいてい当たる。


わたしは棚の引き出しを開けた。


通帳。


印鑑。


全部ある。


ナノに残高だけが、なかった。


「……え?」


見間違いかと思った。


もう一度見る。


変わらない。


ゼロ。


スマホを取り出す。


共同で積み立てていた口座。


ログイン。


残高。


ゼロ。


「……」


もう一つ確認する。


結婚資金専用に分けていた口座。


ゼロ。


「…………」


三回見た。


四回見た。


何回見てもゼロだった。


「えええええええええええええええっ!?」


反射的にすぐ電話をかける。


『おかけになった電話は――』


切れる。


もう一度。


切れる。


メッセージ。


既読にならない。


SNS。


アカウントが消えている。


「嘘だろ……」


部屋を見回す。


冷蔵庫には昨日買ったプリン。


洗濯機には朝回したままの洗濯物。


テーブルには読みかけのマンガ。


生活感は残っている。


なのに、人間一人だけ消えていた。


残っていたのは、テーブルの上の紙一枚。


『俺にはもう関わるな』


「いや」


一拍置く。


「関わるなじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


結婚資金、三百万円。


わたしの人生で一番高い貯金額が、その日、消えた。

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