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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第42話 深淵の公王、現る

指先が触れるたび、ピキリ、と音がする。

 眠りについたヴィルフリート様の寝顔を見つめながら、私は自分の薬指に嵌まった漆黒の指輪を強く握りしめた。

 彼の頬のひび割れは、月の光の下で銀色に輝いている。それは美しく、同時に残酷な「死」の宣告だった。私の存在が、この人の器を内側から食い破ろうとしている。


「……陛下。貴方はどうして、そこまで私を……」


 私がその銀色の傷に触れようと手を伸ばすと、眠っているはずの陛下の手が、目にも止まらぬ速さで私の手首を掴んだ。


「……触れるなと言っただろう。……今の私に触れれば、お前のその熱が、私の残りの時間をすべて焼き尽くしてしまう」


 開かれた紅い瞳には、まだ深い疲労と、それ以上の独占欲が宿っていた。

 彼は私を強引に引き寄せ、自身の胸の中に閉じ込める。銀の亀裂が走るその体は、驚くほど冷たく、けれど心臓だけが「エルゼ、エルゼ」と叫ぶように激しく波打っていた。


「ヴィルフリート様。……私は、お母様に聞きました。私が『泥』を流していたのは、神にならないためだったのだと」


「……あのアステリアのゴミ溜めでの日々か。……ふん。ならば、あの泥こそがお前を私に引き合わせた聖なる供物というわけだ」


 陛下は自嘲気味に笑い、私の首筋に顔を埋めた。

 

「だが、もうあの泥は流れないのだろう? お前は愛を知り、心が満たされ……完璧な『女神』に近づいている。……私が死ぬまで、あと何日あると思う?」


「させません。……私が、貴方を死なせるはずがない」


 私は彼の胸元に顔を押し当て、決意を固めた。

 実父クロムウェルが求めるのは、一切の汚れがない、静止した完璧な神。

 ならば、その逆を行けばいい。

 私は、自分の中に眠る「星の心臓」を、汚れ、濁り、陛下と同じ「死」の属性で塗りつぶしてやる。


「お母様。……教えてください。私が再び『泥』を流す方法を」


 部屋の隅で控えていたリュミエール様が、驚いたように顔を上げた。


「エルゼ……。それは、貴女の魂を永遠に『不完全』に貶めるということよ。一度行えば、貴女は二度と清らかな光へは戻れない……」


「戻りたくなどありませんわ。……ヴィルフリート様がいない天国など、私にとってはただの氷の牢獄です。……私は、この人と一緒に、泥の中でもがき、痛み、共に老いていく……『人間』でありたいのです」


 私の言葉に、ヴィルフリート様が目を見開いた。

 彼は私の肩を掴み、食い入るように私を見つめる。


「……エルゼ。お前、自分が何を言っているか分かっているのか。……私と同じ、呪われた領域に自ら落ちてくるというのか」


「落ちるのも、救われるのも、貴方と一緒です」


 私は、陛下の手を自分の胸に当てた。

 銀色に輝き始めた心臓の鼓動。それを、彼の「死」の魔力で、強引に黒く染めてもらう。

 これが、私の選んだ「戴冠」への道。


「カイル! シモーヌ!」


 私の呼びかけに、扉の外で待機していた二人が滑り込むように入ってきた。

 カイルの眼鏡の奥には、すでに計算を終えた科学者の熱量が宿っている。


「……エルゼ様。陛下と魔力を完全に『反転同調』させる魔導陣の設計、終わっています。……陛下が死ぬか、世界が黒く染まるか……文字通り、一世一代の博打になりますが」


「構いませんわ。……シモーヌ、戴冠式の準備を。……衣装は、純白ではありません。……私が着るのは、この国の『夜』の色。漆黒のドレスを用意して」


 シモーヌが深々と頭を下げる。その瞳には、私の覚悟に対する誇りが満ちていた。

 

「……く、ははは! 面白い。……世界を救う『聖女』を、私がこの手で『最愛の魔女』へ書き換えるというわけか」


 ヴィルフリート様が、ひび割れた頬を歪めて、狂おしいほどの歓喜に震えた。

 彼は私を抱き上げ、寝台の上で私を見下ろす。


「いいだろう。三日後、全大陸を証人にしよう。……神の使いを名乗るあの男の前で、私が……不浄なる皇帝が、女神の純潔を永遠に奪う瞬間をな」


 陛下の「死」の魔力が、部屋の空気を黒く塗り替えていく。

 それは恐怖ではない。

 私を神の座から引きずり下ろし、一人の女として愛し抜くための、至高の優しさ。


 けれど、夜明けと共に、窓の外の景色が歪み始めた。

 帝都の巨大な時計塔の針が、狂ったように逆回転を始める。

 

 実父クロムウェルの力が、ついにこの帝都の「時間」そのものを削り取り、完璧な「静止」へと誘おうとしていた。

第42話をお読みいただき、ありがとうございます!

「神」として完成することを拒み、陛下の隣で「人間」であり続けるために、あえて不浄を選ぼうとするエルゼ様の覚悟。

これこそが、第1話から続いてきた「泥」というテーマの真の回収となります。


「人間でいたい。貴方の隣で汚れたい」というエルゼ様の言葉。

執着の塊である陛下にとって、これ以上の愛の告白はありませんわ。

二人の共犯関係が、世界の法則を壊し始める瞬間……。


しかし、実父クロムウェルの干渉は止まりません。

時計の針の逆回転。それは、帝都そのものが「なかったこと」にされる予兆。


次回、第43話「死神と女神の共鳴レゾナンス」。

最終決戦、開始。

陛下とエルゼ様が、一つの魔導陣の上で魂を重ね合わせます。

神をも恐れぬ、二人の「禁忌の結合」が、白銀の世界を漆黒に塗り替えます!


「エルゼ様、格好いい……!」「陛下、もっと愛をぶつけて!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや評価、応援の感想をいただけると嬉しいです!

皆様の声が、最終回への最高の魔力となりますわ。

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