エピソード21 限界なの
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
そこにいたのは、
いつも窓のない部屋で、
暗い顔をしていた、
あのりんだった。
でも今日は、
少しだけ違う。
気持ち、
明るい。
「ほんとに、
名古屋まで来てくれたんだ」
そう言って、
笑った。
「ありがとう!」
生で見るりんは、
思っていたより
少し小さくて、
目が大きかった。
「思ったより、
あっという間だったな」
そう言いながら、
席を立つ。
「今日は一日、
名古屋、
案内するね」
少しだけ
喫茶店で話してから、
りんが言った。
「ねえ、
ちょっと
買い物、
付き合ってほしい」
連れて行かれたのは、
デパートの
ブランド化粧品コーナー。
りんは、
店員さんと話しながら、
いろいろ試す。
鏡を見て、
試して、
また笑う。
たまに、
ちらっと
俺のほうを見る。
ニコッとして、
また化粧品に戻る。
その様子が、
少し眩しかった。
会計へ。
何点か、
指を差す。
ちらっと、
レジを見る。
――十万、超えてる。
一瞬、
言葉を失った。
でも、
りんは
すっきりした顔で、
笑っていた。
「たまにはさ、
こうやって
自分に
お金使わなきゃね」
毎回じゃない。
そう、
信じたくなった。
そのあと、
りんおすすめの
ご飯屋さんへ。
たくさん話した。
配信者のこと。
りん自身のこと。
俺のこと。
りんと話す時間は、
とても心地よかった。
早く、
あの配信者から
離してあげたい。
そんなことを、
自然に思ってしまう。
会計をしようとすると、
りんが止めた。
「せっかく
来てくれたから、
ここは
私が払う」
その言葉に、
甘えることにした。
そのあと、
終電まで
バーで酒を飲んだ。
落ち着いた時間。
りんは、
昼間に買った
化粧品の紙袋から、
小さな紙袋を
一つ取り出した。
「これ」
俺に差し出す。
「今日、
来てくれた
お礼」
中に入っていたのは、
化粧水。
高価そうなやつ。
こんなの、
初めてもらった。
「ホストなんだからさ」
少し照れたように言う。
「これで、
もっと
きれいに
なってね」
「ありがとう」
正直な気持ちだった。
「今日来て、
本当に
よかった」
少し間を置いて、
続ける。
「あと一時間も
いられないけど……」
「また、
すぐ会えるよね?」
その瞬間、
りんが泣き出した。
突然だった。
声も出さず、
ただ、
涙が落ちる。
――この涙は、
何の涙なんだ。
戸惑っていると、
りんが言葉を絞り出す。
「もう、嫌なの」
「毎日、仕事して」
「休みは、配信者」
「だから、
今日が本当の休みだった」
「些細なことが、
幸せで……」
息が、
少し荒くなる。
「お願い」
「帰らないで」
「いくらでも出すから」
「頑張るから」
「一人にしないで……」
――限界なんだ。
それは、
分かった。
今日、
ここに泊まる。
それは、
いい。
でも、
それ以上は、
踏み込めない。
一日でも、
一緒にいるほうが
いいのか。
迷った。
でも、
いつも正解を
教えてくれる
りんが、
ここまで言う。
「今日は、泊まるね」
はっきり言う。
「でも、
明日は仕事だから」
「昼には
帰らなきゃだからね」
りんは、
涙を拭いて、
小さく頷いた。
こくりと。
それだけで、
十分だった。
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