エピソード20 正解
みくから、返信が来ていた。
「大丈夫。担当とも仲直りしたし、迷惑かけてごめんね。いつか、ごめしゃんしにいくから待っててね」
ごめしゃん。
ごめんねシャンパンのことだ。
初シャンパンが謝罪名目なのは、正直、少しだけ嫌だった。
でも、それを言える立場じゃない。
「よかった。無理せず、担当さんと仲良くしてね」
そう返した。
それで、終わりだ。
最近、休みの日はりんと電話をすることが多い。
りんは、相変わらず窓のない部屋から電話をかけてくる。
「今日も、とりあえず二本。仕事終わって、落ち着いたよ~」
淡々とした声。
「お疲れ様。頑張ってるね」
「奏楽は?今日は出勤?」
「今日は休み」
「休みでも、いろんな子に連絡したり、私に電話したり、大変だよね」
少しだけ冗談めいた口調。
「りんと電話するのは、仕事じゃないよ」
軽く、そう言ってみた。
少しの沈黙。
「大丈夫。わかってるから」
りんは、静かに言った。
「私、この仕事の前、キャバ嬢だったから」
「営業じゃない電話なんて、なかったし」
「でもさ、“仕事だよ”って言われるのも、ムカつくでしょ」
一拍置いて。
「だから、今の言い方でワンセット」
「正解」
……りんは、正解を知っている。
しかも、それをちゃんと教えてくれる。
ホストの先輩より、女の子目線で、ずっとためになる。
「ねえ、奏楽」
少し、声色が変わる。
「今度、名古屋来てよ」
「一日、休み取るから」
名古屋。
一瞬、頭の中で計算する。
距離。
時間。
金。
「……そうだな」
「来週、行こうかな」
即答ではなかった。
でも、行くこと自体が答えだと分かっていた。
何かが劇的に変わるかは、分からない。
でも、行動することが信用を作る一番早い方法だ。
ついに、動く時が来た。
予定の日、9月2日。
名古屋へ向かう。
バンド時代、名古屋は月に一回くらい行っていた。
今はお金がないので夜行バスを選んだ。
仕事なのに、仕事じゃない気もする。
そして、バスの中は寝ていたので名古屋までは一瞬で着いた気がした。
待ち合わせは、九時。
名古屋駅地下の喫茶店。
早く着いた俺は、漫画喫茶でシャワーと身支度を整えた。
余裕をもって喫茶店に行き、コーヒーを頼んで、席につく。
カップから立ち上る湯気を眺めながら、考える。
この一日で、何が起きるんだろう。
何も、起きないかもしれない。
それでも。
ここまで来たこと自体が、もう、一つの選択だった。
カップに口をつけた、その時。
入口のほうで、人影が動いた。
俺は、顔を上げた。
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