第13話:父よ、私はもうあなたの娘ではない
戦場は荒れ果てている。
泥はかき混ぜられてぬかるみとなり、石は割れ、草は焼け焦げて黒く変色している。
血と死の霧の悪臭が空気を汚し、エドウィン王太子軍の残党は燻る残り火のように散り散りになっている。
グールの異能力で歪められた死体たちは、大地自体が彼らの穢れた存在を拒むかのように、土へと溶け込んでいく。そして、あるものが素質を持ってるか、『彼らの仲間になった』!
今の公爵の前の前に、私は立っている!
私の呼吸は整然としていたが、その奥には怒りが滾っていた。
ヒールの靴が割れた石を踏みしめ、私の視線は一人の男に釘付けになっていた。
かつて父と呼んだ男――!
アウステルリンド公爵だ。
彼は冷徹な精度のある歩調で歩み寄ってくる。片手には剣、もう一方の手は磨かれたガントレットを装着している。
白金の髪はきちんと結われ、貴族のマントは死の風に翻っていた。
背後には、エドウィンの傷つき士気を失った騎士たちがよろめいている。彼らがまだ生きているのは、エレインが今のところ怪物たちを抑えているからに過ぎなかった...
「退け」
氷のような声で彼は言った。
「お前の出る幕ではない、ヴィオレッタ」
私は震えた――恐怖からではなく、この瞬間に至るまでの全ての重みからだ。
「私はもうあなたにとって名前すら持たない存在になったのよ!」
私は刀を抜くような鋭い声で答えた。
「あなたは私を追い出した。縁を切った。そして今、王を殺そうとする反逆者を守るために私の前に立ちはだかる?簒奪者を擁護するというのか?だったら盗人甚だしいな、あなたも王子も!」
公爵の表情は微動だにしなかった。
「私は正当な後継者に付くまでの事。この王国に安定をもたらす者である、エドウィン殿下はこの国の未来そのものだ――、魔女や幽霊、...怪物共と手を組む狂った娘ではない」
一瞬、痛みのようなものが私の表情を歪めたが、すぐに消えた。
ヒールで石を削りながら、私は言い返す。
「ならば、この『狂った娘』に何ができるか、見せてあげよう」
ズ――――――!!
私は飛びかかった。
カ―――――――――ン!!
剣が雷のように激突する!
私の攻撃は素早く、容赦なく――!
カ―――ン!キ―――――ン!カチャ―――――ン!
長年の訓練と、消えない炎のような信念に支えられていたから――!
カ――――ン!コ――――ン!
父は剣の達人としての制御と技巧で私からの剣戟の嵐を受け止め、我々の決闘は炎の中で生まれた舞踏のようだ。
カ―――ン!キ―――――ン!カチッ――――――!!
火花が散る中、私は低く回転し、顔面を狙って蹴りを入れたが、彼はガントレットで私のヒールを受け止めた。
バコッ―――!
「相変わらずあの馬鹿げた靴を履いているようだな」
彼は呟いた。
「この靴で反乱軍を率いて王都まで来られたのよ――!」
私は空中で体勢を変え、猫のように着地しながら言い返した。
彼は大きく振りかぶって斬りつけてきたが、私はその下を滑り込み、回避した!
バコッ――――!!
「ぐッ!」
掌で彼の肋骨を打ち、続けてアッパーカットを顎に食らわせる――、速く、残忍に!
彼はよろめいたが、倒れはしなかった!
「私をこうやって戦えるようにしたのはあなただったの!」
額に汗を光らせながら、私は叫んだ。
「この武器に仕立て上げたのはあなたの方――!そして今になって『出る幕ではない』だと言うのー!?」
「お前はオースターリンド家の令嬢であるはずだった。こんなものでは…決してないぞ!」
彼は唾を吐くように言い切った!
「つまり、最初から私には何も決める自由はない、と!」
私は目に炎を灯して声を上げた。
「自分で考える女ではいけない、とー!」
カ――――ン!カチッ――――!
「好きにほざけー!」
再び刃が噛み合い、剣の峰同士が軋む。互いの顔が触れそうな距離で、私たちは見つめ合った。
その時――!
キイイイ――――――――――――――――――ン!!!!!
金切り声が空気を引き裂いた――!?
「ヴィオレッタ様!」
背後からヴェレーナの声が響く。
振り返ると、彼女が縮小された形にした聖なるメイス(槌鉾)である『ルミナストラ』を手に走ってくるのが見えたー!
「グールたちが――エレインがもう抑えきれない!集中力が必要みたいだわ!」
その向こうで、エレインは反乱軍を護るように彼らの前に立ってグ―ルも敵兵からも襲われないように構えたー!
白く染まった瞳に力が宿り、背中から影が蠢いている。何百ものグールがあっちこっちで制御下から暴走しかけているので、エレインが歯を軋らせ、かろうじてそれらを抑えられている―――!
「抑えて…います…絶対に...」エレインの声は震えていた。
「もう食べないで…止まって~…」
そしてなぜか――、
グールは従った!
「ぐけけエエ~!」
「フあがけええ~!」
「はぐくええ~!」
怪物たちは痙攣しながらも後退し、エドウィン軍の兵士たちが恐怖に駆られて逃げ出す隙を与えた。
「今の内に逃げろ――――!!」
「おう―――!」
「命が惜しければ早くここから退却するんだー!」
「あああーーーーーー!!」
その時――!
...――――――――――――――――...!
静寂が訪れた!
不自然なほどに音が消えた。
風もなく、鳥の声もない。
グールたちさえ凍りついた。
鼓動が高鳴る中、私は空を見上げた。
そこには――!
燃えるような巨大な紋章が浮かんでいる―――!?星のようだが、どこか歪んでいる――!
鋭い突起を持ち、古代らしき力を脈打たせている。
五本の光の腕には、誰も読めないルーン文字が刻まれ、天を焦がすように輝いている。
まるで神の審判の烙印のようだわ―――!
戦場にいる全ての者が、思わず空を見上げた。
「あれは…何?」
ヴェレーナが息をのんだ。
父でさえ剣を下ろし、見つめていた。
エレインの白い瞳には、不気味な光が映っている。
「これは…封印です」
彼女は囁いた。
「門…が開いた?」
そしてはるか遠く――!
幾つもの世界を隔てて――!
レイザリア姫とチャールズ王子の傍らに立つオルフェミの目が、あちらの空がまるで繋がってる感じになってるかのようなこちら側の空を見上げて何かを感じ取った様子だ!
例えその世界で何も起こっていないとしても―――!
何かが起きようとしている、と微かながらも何とか感じ取れたはずのオルフェミだったー!
そして、彼の予感もきっと的中し、それによって全ての運命が変わっていくだろう!
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