第1話: 紫水晶の瞳を持つ異邦の貴紳
五日前に遡る:
アウステルリント家の庭園は私の誇り――そして帝都の貴族たちの羨望の的である。
刈り込まれた生垣の一本一本に意図があり、咲き誇る薔薇の一輪一輪は、私の――というより、几帳面すぎる庭師ソーン師の監視の下で育てられたものだ。
鯉の池にさえ専属の管理役がついている。結局のところ、この庭は我が家の名声と威厳、そして遺産を映す鏡なのだ。
だから、睡蓮の傍らに立つ見知らぬ男を見つけた時、私は衛兵を呼ばなかった。
自ら歩み寄った。
背が高い。肩幅が広い。完全に見覚えのない顔。黒曜石のように漆黒の肌は、北国の光の中では異彩を放っていた。外交官のような佇まいだが、その姿勢には単なる礼儀作法を超えた何か――儀式よりも沈黙を熟知した者の動きがあった。
アンハーラの宮廷を思わせる深藍と金の衣装をまとっているが、色や布以上に私の目を奪ったのは、彼の髪だった。短く、ビロードのようにカールし、陽光を浴びて輝いている。
そして、その瞳。
紫だった。薄いラベンダーでもライラックでもない。宝石のような鮮烈な紫水晶――あり得ない色だった。まるで私のドレスと名前のような色だ。
私が近づくと、彼はきちんと振り返り、まるでどの宮廷にも属しているかのように完璧な角度で一礼した。
「お嬢様」
流暢すぎるエルヴァリア語で彼は言う。
「無断で立ち入ったことをお詫びします。自由に散策できると聞いていたもので」
その声は低く、滑らかで、腹立たしいほどに冷静だった。
「誤った情報ですわ」
私は唇を、微笑みと警告の狭間のような形に整えて答えた。
「ここは私邸の庭。大使の賓客なら東棟に滞在されるのが通例です」
「重ねてお詫びを」
彼は微動だにせず言った。
「西棟は想像以上に美しいもので」
厚かましい。
「お名前は?」
「アンハーラのオルフェミ・セ・キャクワール」
彼はやすやすと名乗った。
「キャクワール家の三男。語学の研究者。時々剣士。そして職業的厄介者」
私は眉を上げた。
「厄介者?」
「嘘をついても反論されないのが好きな紳士方にとって、です」
私は彼を見つめた。
一瞬、絹のように滑らかな沈黙が私達を包む。
そして――意に反して、私の唇の端が上がった。
「……なるほど」
彼は私の視線を跳ね返した。
躊躇もたじろぎもない。
その紫の瞳は、私が先にまばたきするのを待っているようだった。
「大胆な方ですね、アンハーラのオルフェミ...」
私はゆっくりと言った。
「よく言われます」
彼は答えた。
「ですが、ヴィオレッタ令嬢も同様では? 北の宮廷の若き雌獅子とやらですよね?」
私は目を細めた。
「それは次にあなたが何を言うかによりますわ。失礼な言葉を放つつもり?」
彼はかすかに――ほんのりと微笑んだ。
「獅子を怒らせたりしません。尊敬していますので」
風が私のドレスの裾を揺らした。
私は鯉の池の方に視線を移し、静かに息を吐いた。水面の下では魚たちが、宮廷政治も外国の外交官も知らぬまま泳いでいる。
「ここでは、どの貴族もこんなに率直には話しませんわ」
私は呟くように言った。
「だからこそ、この庭はどこか寂しげなのかもしれません」
私は鋭く振り返った。彼は微動だにしない。
「本当は何しに来ましたの?」
私は問いかけた。
「花見に来たわけじゃないでしょう?」
「ええ」
彼は静かに言った。
「三ヶ月前、貿易関税の不正を暴いて外国大使を辱めた女性に会いに来ました」
ああ。
つきたわ。
私は唇に本物の笑みを浮かべた。
晩餐会用の作り笑いでも、練習ずみの微笑みでもない。本当の笑顔だ。
「まあ」
私は銀髪の一房を耳にかけながら言った。
「厄介ごとをお探しなら、確かに正しい場所に来ましたわね、ふふふ...、おほほお~!」
そして――久しぶりに、私は笑った。
貴族令嬢らしい上品な笑いではなく、胸の底から湧き上がる、突発的で自由な笑いを。
鯉の池は私たちの背後できらめいていた。
こうして、何かが始まった予感がしたわ。