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混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


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おせち料理

毎年暮れに作る御馳走、おせち料理にちなんだ7本。公開時期が季節はずれはご愛嬌。

『きんとん』


 頂き物のさつま芋を切る。皮を厚めに剥く。梔子の黄色と茹でる。潰す。茹で汁と調味料を加えて火に掛ける。鍋底が焦げ付かないよう、しゃもじで鍋底を掻くように練っていく。鍋の中身が程良い固さになるまで、根気よく練る。


 きんとんを毎年作るようになって何年経つっけ?

 毎回、茹で汁を入れすぎて、練るのが大変になるし、芋がどれだけ甘かったのか、砂糖の塩梅はどうかの味見をいつもうっかり忘れるし、芋の品種もウロ覚えだから作る度にちょっとずつ違うものになる。


 今年はねっとり系の芋だったみたい。

 出来上がったきんとんは緩かったし、できたては結構甘かった。


「でも、大丈夫。いつもおいしいから」

 練る際に鍋にこびりついたきんとんを牛乳で緩めた芋オレを飲みながら、味見役の君は笑う。






『田作り』


 ゴマメを乾煎りする。パチパチ小さく爆ぜる音。

 別のフライパンで調味料を煮詰め、全体に細かな泡が立つまで煮詰めたらゴマメを投入。タレに絡める。好みで刻みナッツを絡めるのもおいしい。


 照りのある飴色に色付いた田作り。

 パリッと歯切れが良くていくらでも食べられるか、少し柔いけど噛み締めるほどに味が出てくるかは乾煎り次第。

 それと、個々パラパラと仕上がるか、他とくっ付いてひとまとまりになってしまうかの分かれ目はタレの煮詰め具合なのはわかるのだけど、その加減が難しいんだ。


「どんな仕上がりでも熱燗に合うよねー」

 タレを絡めながら酒の味を想像する。






『伊達巻き』


「昔は魚のすり身だったらしいけど、今ははんぺんなんだよ。伊達巻きの材料の話ね」


「撹拌って、私が小さい頃はミキサーだった。昔は擂り粉木だったのかな。今はハンドブレンダー。時代だね」


「伊達巻きって玉子焼よりご馳走感あるのは手間もあると思う。

 オーブンで焼いたり、巻きすで巻くときは、ロールケーキを作ってる気分になるよ」


 オーブンの窓から中を確認し、一度取り出して生地の向きを変えていく。

 何をしてるのかと聞けば、君は苦笑する。

「このオーブン、焼きむらがあるから焼き目と玉子の膨れ具合で入れ替えてやらないとなの」


 シンプルだけど手間がかかる、なんて大変なご馳走だろうね。






『黒豆』


「黒豆って黒大豆派と紫花豆派があるらしい」

 豆を一粒ずつ選別しながら君は言う。

 指で弾かれた豆は皺と傷があった。


「洗うのは調味液に浸ける直前。以前、先に洗ってボロボロになったの」

 沸かして少し冷ました調味液に洗った黒豆を投入しながら君。

「今年はキビ糖も入れたよ。黒蜜っぽいコクが出ると嬉しい」

 ここまでが一日目。



 二日目はひたすら煮る。

「沸くまでは中火。沸いたらとろ火。豆は踊らせないで」

 コトコトと台所から豆と火の囁きが聞こえてきた。


「アクは掬ってあげてね」

 ――でも、私はちょっとくらい雑味がある方が味に深みが出る気がするんだけどね。どうなんだろ?

 君は小首を傾げつつ、アク取りしているけど、いつも鍋の縁に追いやられたほんのちょっとを残すのは、大らかだからか計算してか。


 途中、蒸発して水が減ったら、減った分だけお湯を静かに注いでやる。

 豆が軟らかくなったら、煮汁ごと豆を大きい魔法瓶に注いで保温。



 三日目は煮詰め。

 調味液のみ煮詰めて、豆と合わせて、出番まで休ませる。


「贅沢に時間をかけて味を染み込ませていくからかな。煮豆って、作るってより育ててる気分になるんだよね」

 一粒一粒、黒々艶々の豆たちの顔を見ながら、君はやけに嬉しそうに言う。

 今年の煮豆も上出来なようだ。作りは時間がかかる贅沢な仕事なんだろう。






『おせち』


 おせち。地域によっては大晦日か元旦かで分かれるそうな。

 新年に向けて健康、勤労、長寿、子宝の祈願をかけた縁起のいいご馳走が並ぶ。

 いろんな種類の料理をたくさん作って、お重に少しずつ詰めて食卓にお出ししたものを正月の間に食べる。

 一説によると、正月三が日に炊事を少しでも楽できるようにとの意味もあるとかないとか。


「でもね、これだけたっくさんの品数を作るって、時間も労力もたーっぷりといるのよね」

 お屠蘇とおせちを交互に楽しむ君は、少しお疲れ気味。仕込みは一昨日から、今日は朝からずっと料理をしていたんだ。


「時間と労力を掛けて、願いもたっぷり込めた力作なんだもの。新年は絶対に良い年になるよ」

 うん。君がそう言うのなら、絶対だ。






『餅文化』


「お正月らしいもの持ってきた。おやつに食べよう」

 正月早々、遊びに来た君がエコバッグから取り出したのは袋いっぱいの餅だった。


「丸いね」

「普通でしょ」

 普通かな? 自分は四角い餅しか知らないよ。

「どうやって丸く切るんだろ、これ」

「切らないし。正月用の餅だよ。"切る"なんて、縁起悪いじゃん。つきたてを丸めるんだよ」

 なるほど? 初耳。


「どうやって食べよっか。今なら、磯部とあべかわならできるよ」

「自分は醤油と砂糖にする。好きなんだよね」

「砂糖?」

「砂糖」

「砂糖? 砂糖ときな粉じゃなくて、醤油?」

「そう、砂糖醤油」

「……へえー」


 同じ国でも地域によって、餅の形も食べ方も色々あるんだな。

 正月早々、カルチャーショック。






『思い出のクッキー』


 先日、小学生の頃に買った子ども向けレシピ本が出てきた。

 パッと開いて出たのはクッキーの頁。

「懐かしい。昔、よく作ったな」

 ……というか、クッキー以外の品を作った記憶があまりない。当時はとにかく、ひたすらクッキーを焼いていたような気がする。


「思い出したら、食べたくなってきた」

 遠い昔の思い出に触発されて、久々に作ってみるとするか。


 そうして気まぐれに作って、できたクッキーは思いの外に甘かった。

 昔も今もレシピどおりに作ったのだ。それなのに、昔はおいしく感じたこのクッキーが、今は懐かしさのかけらも感じられない上に、甘いばかりでおいしいとも思えない。


(何だろ、思い出補正ってやつ? 思い出の味なのに、そうじゃなく感じるなんて、解せない。こうなったら、思い出の味を追求してやるわ)



 それからは試作の日々だ。砂糖の種類と塩梅を試しに試しまくり、出来上がったのが元のレシピの八割もないくらい砂糖を控えたクッキーだった。

 人間の味覚とは、成長するにつれて変わるのだと、元のレシピと自分で作り上げたレシピを見比べて実感する。


 私なりの思い出の味はできたけれど、そこからもっとおいしくしたくて、更に研究を続けた。

 砂糖は気分により甜菜糖や花見糖、キビ糖と使い分ける。

 時にはクッキー生地にチョコチップを練り込んだり、ドライフルーツやナッツ、チーズ、スパイス、ハーブのクッキーを焼いてもみたが、どれもおいしかった。


 なるほど。三つ子の魂百までというが、今の私がそうなのだろう。

 昔の私が熱中したように、大人になった今もクッキー作りにすっかりのめり込んでしまっている。

 それに、ハマったのは作るだけではなくて――



「あ、やっぱり、もたなかった」

 年末年始の慌ただしいときでもおいしいお茶請けを食べたくて、クルミのクッキー生地を多めに作り置きしていた。食べたいときに焼けば、できたてを楽しめると思ったのだ。――残念なことに正月が訪れる前になくなったけれど。

 まさか、焼き上がる端から自分で食べるし、まわりからも食べ尽くされるとは思わなかった。


「懐かしいわ。貴方の作るクッキーは昔からおいしかったから、つい食べ過ぎちゃうのよね」

 ――ね、クッキー、また作ってよ。


 私の次にたくさんクッキーを食べた姉が、べた褒めしながらクッキーをもっと欲しいとねだる。

 そうだそうだ。昔も彼女が今みたく言ってくれたから、私はいい気になってクッキーを焼きまくっていたのだと、暮れの慌ただしいさなか、新しいクッキー生地を捏ねながら苦笑した。

きんとん 2024.12.30

田作り 2024.12.31

伊達巻き 2024.12.31

黒豆 2024.12.31

おせち 2024.12.31

餅文化 2024.01.02

思い出のクッキー 2024.01.03

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