↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/97

眠り姫と手 ◎

 今作は2013年5月17日に創作作品投稿SNS『pixiv』にて公開していた短編集となります。(pixiv版は現在は削除済)

『手』

 ――手はそのひとの鏡だ。ひとの手はうつくしい。



 手は創造と可能性の象徴だ。


 指先で触れ、捉え、感じる事で、対象の特性を知る。

 鍛えるほどに繊細な感覚を掴めるようになり、より精巧なものを生み出す。


 食材に触れれば、料理になり、腹を満たせる。

 針に触れれば、衣類を繕え、肌を刺激から守る事ができる。

 ペンに触れれば、言葉を伝えられる。

 大工道具に触れれば、建築物や家具を作れる。

 筆や彫刻刀に触れれば、美術品を生み出せる。

 楽器に触れれば、音となり、心を満たす事ができる。


 そして、壊す事もできる。


 頭の中のイメージを具現化させるための最大のツール、それが手。



 母のふっくらとした少し冷たい手が好きだ。

 私の基礎は、この手により培われた。


 父の大きな厚い手に安心した。

 家族を支えてきた手だから。


 祖母の皺だらけの、枯れ木のような手を美しいと思った。

 その長い人生を物語っているから。


 友の白魚のような手に憧れた。

 今を精一杯楽しんでいるのがわかるから。


 これまで出逢ってきた人のどの手も、それぞれ個性がある。

 まるでその人自身の鏡のようだ。



 長いとも短いとも言えないこの人生、ひとつだけ、どうしても欲しいものがある。


 この手を最期かそれに近いときまで繋いでくれる手が欲しい。


 私が見つけたその手は、まるで楽器を扱う人のそれのように大きかった。

 料理をするのが得意で、あたたかくて、実にいい具合にこちらの頭や体に触れるのだ。

 その手は確かに、私が一番恋しいものを紡ぎ出している。


 駆け寄って、その手を取り、引っ張って、引っ張られて、この人生を駆け巡れたら、どんなにかしあわせだろう。


 そんな夢を毎日見る。






『眠り姫』


 夢なら夢のままでいい。

 だから醒めないでいて。


 繋いだ手にぬくもりはない。

 会話しているのに声はない。

 見るものすべてに色がない。

 ただわかるのは、貴方がいるということ。



 私達は、別々の螺旋階段を昇っている時に偶然出逢った。

 貴方は随分先を歩いていたし、私はしょっちゅう立ち止まっていたから、接触などしないと思っていたのに、出逢ったのだ。


 たった一本の糸が貴方のいる方から流れてきた。

 私は興味本位で糸を取り、手繰る。

 糸先に鈴を付け、チリチリ鳴らしながら糸を辿っていくと、そのうち、気まぐれで立ち止まっていた貴方と出逢った。

 糸の先は貴方の手の中にあったのだ。


 私達はなんとなく一緒に歩くことになった。

 途中、何度も喧嘩したり、仲直りしたり、繋いだ手を離そうともした。

 居心地がいい時もあれば、悪い時もあった。


 そうしてふたりでしばらく歩いていたら、彼がふと、ひと粒だけ涙を流して、だけど毅然と告げた。

 ――別れが近付いている。


 彼が指差した先、遠くて霞んでいるけれど、それまで重なっていた螺旋階段が分裂していた。


 私は、別れたくない、と泣いて泣いて泣きまくって、怒って喚いて抵抗した。

 貴方はそんな私を諭したり、見守る。


 ――これは、夢なんだ。

 いつだか私が糸に括り付けていた鈴に口付けながら言う。


 ――夢なら醒めないでいい。

   だからそばにいて。


 懇願は届かない。

 貴方はポケットから水色の小さなハートと、ピンク色の拳大の、まるきり心臓みたいなハートの石を取り出して、私にくれた。

 お護りだよ、と。


 別離の向こうに行きたくない。

 夢なら醒めずにこのままいたい。

 どうかどうかどうかどうか……

 かみさま――!



 朝は無情にもやってくる。

 貴方のいない朝。


 貴方の姿も声も匂いも感触もわからない。

 なのに圧倒的な喪失感。

 涙がはらはらと流れた。

 拭おうと持ち上げた手の中には、水色とピンクのハートが収まっていて、私はとうとう声をあげて泣いた。


 貴方が大好きなのだ。

 だから、さよならは言わない。

 またいつか逢えますように。






『旅立ちの前に』


 終わりの足音がじりじりと近付いているのに、耳を塞いでいた。

 注意深く耳をそばだてても、気が滅入るだけだ。


 ――ただ、注意していたら、いつ「その日」がくるか、あらかた予測はできるかもしれないけれど。



 微かな不安を誤魔化すようにたくさん話しかけなければ、心が寂しさで折れてしまいそうだった。

 口を閉ざしてはいけない気がした。


 ――限られた時間の中で、貴方の声を目一杯聞いておきたかった。



 夜眠るのが怖くなった。

 起きている間は、貴方の姿を見ていたい。


 ――寝ている間に貴方がいなくなるんじゃないかと、気が気でないから。



「どうして、私を置いていくの?」

 宣告された日、涙を拭きもせずに尋ねたら、困った顔で笑われた。


 ――置いていくのは、去ってゆくのは君の方だよ。



 ◆ ◇ ◆ ◇


 こればかりは決まり事だからどうしようもなくて。

 でも"予定"を突きつけられた時は、やはり泣いた。


 猫のように気分屋で、気まぐれで、わがままなひと。

 気に食わないと爪も牙も立てる、困ったひと。

 でもほっとけなくて、つい甘やかしてしまう。

 できるものなら、ずっといっしょにいたかった。

 でもそれはどうにも叶いそうにないから、私が渡せるものをすべてあげるよ。


 ――君が少しでも、この世界で生き易くなるように、持てる技をすべて授けよう。


 そうして、力強く地に足をつけ、旅立つ君を見届けられれば、悔いはないよ。



 ◆ ◇ ◆ ◇


 ――あなたに逢えてよかった。


 私達が各々の道に向けて旅立つ時、清々しい気持ちでそう思えたら、どんなに幸せだろう。


 貴方を想いながら、物を作る。

 いつか貴方がおいしいと誉めてくれたお菓子。

 丁寧に教えてもらった料理。

 好きな読書を楽しむためのブックマーカーとブックカバー。

 おいしいご飯を食べられるように、ランチョンマットも。


 ありったけの「ありがとう」をたくさん詰め込んで。


 「その日」が来るのは、やっぱり怖い。

 それでも、最後まで幸せでいられるように、無闇に怯えるのはやめた。


 ――また貴方に逢いたい。


 そう願うのは、罪だろうか。


 貴方とすごす日々は確かに幸せばかりで、だからこそ強くそう願うのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。