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混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


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19/76

あなたが化粧をする理由 ※

誰にだって着飾りたい時、装わねばならない時がある6本


※一部に死要素があります。苦手な方はご注意ください。

『武装』


 玉虫色を小指でなぞる。指先にいと鮮やかな紅。

 紅い小指がなぞるのはふっくらとした唇、露わな粘膜。

 湿って温かく、真珠色覗く隙間からは、吐息が微かに漏れる。

 命に直で触れながら素の自分に色を乗せていく。


 紅が色付いている間、私は私を名乗る他の何者かに成れる。

 上塗りをすることで素を隠し、護り、立ち向かいたくて。

 紅は邪を寄せ付けない強さを秘めているから。






『報せ』 ※死要素注意


 真っ暗な夜にふと目を覚ます。

 外からの音に起き出せば、空き屋の隣家に明かりが点る。

 嫌な予感。

 家屋の傍には車が停まり、中から黒ずくめ達が棺を連れて現れる。


 ――昨日、お見舞いに行ったのになんてこと。



 ハ、と目を開く。

 日中の部屋。

 今のは報せだろうか。






『春の君』


 窓の外に広がる淡い空色に一瞬、目を奪われる。

 当惑と焦燥に侵された意識をその空色が洗い流すようで、刹那、虚を突かれる。

 それがいけなかった。


「御機嫌よう」


 捕まえるつもりだった白い手が目の前で優雅に振られる。

 視界の端、長く艶やかな黒髪がたなびき、スルリと春風のように逃げていった。


 春は君の味方。僕の恋敵。






『仕立てる』


 スマホから情報を拾う。

 母親(オカン)のしごとをこっそり覗く。

 下地とファンデは鏡台からちょっと拝借。

 他のコスメと道具は百均とドラストで揃えた。


 家族が寝静まってから、机に鏡とコスメを並べる。

 辿々しく肌に乗せたり塗ったり払ったり描いたり。

 自分の顔をキャンバスに見立てて、理想の絵を描いている感覚。


 なんの理想かって?

 イケてる自分? 理想のヒーロー? タイプの女?

 いや、違う。


 ――俺ってストーリーの主人公


 初めて仕立てた主人公は笑けるほど不格好だった。

 けど、これが俺の第一歩。






『花のように』


 祖母に化粧を施す。

 彼女は冠婚葬祭以外で化粧とは縁のない人だ。私が化粧を手伝うことにした。


 長年の農作業でこさえた顔の濃いシミは勤労の勲章だけれど、今日だけは苦心の末にそっと隠しておこう。

 ハイライトとパールで肌ツヤを出し、淡いピンクで血色を演出。

 目元は春に生まれた貴女らしく、淑やかかつ華やかに。


 長い人生を寿ぐ日の主役なのだ。

 普段は素朴な貴女の笑顔が、この日は花が咲くように華やかであれと。

 贈られる花束よりも生命力に満ち溢れて見えたらと、願いながら化粧を施す。


 鏡を覗く貴女がはにかんで笑う。

 その笑顔を一番に見られたこの栄誉は、なんだかちょっとくすぐったい。

 祖母と孫、ふたりでクスクス笑い合う。






『在りし日』


 押し入れの和箪笥を開ける。親戚の誰かの思い出を飾った着物が眠っていた。

 クローゼットを開けてみる。レトロかわいいワンピースが掛かってた。


 母さんの若かりし頃のものかしら?

 取り出したらば、付いてたクリーニングのタグには祖母の名が。


 野良作業に明け暮れた祖母の、ひと時のお洒落の記憶。

武装 2024.3.29

報せ 2024.3.29

春の君 2024.3.30

仕立てる 2024.4.03

花のように 2024.4.03

在りし日 2024.4.03

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