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混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


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17/76

春のしらせ ※

春の味、まどろみ、使者――春のしらせとその他の6本


※一部に死、怪異の要素があります。苦手な方はご注意ください。

『はっさくの味』


 はっさくは上下を落として林檎のように皮を剥く。

「これが楽な剥き方。皮を剥いた実はメープルシロップか蜂蜜、仕上げにウイスキーを掛ける。この食べ方が一番好き」


 そう教わってからは苦手だったはっさくが好きになった。

 甘酸っぱくてほろ苦い、私にとっての恋の味。






『迷い羊い赤』 ※死要素注意


 迷う羊を増やしてみれば、いつか眠りに就けるだろう。


 違和感のある赤い牡羊(レッドラム)を見つけたならば、転ばぬよう、逆さまにならぬよう注意なさい。

 あなたが眠らせる者になりたくなければ。






『春分』 ※死要素注意


 苺を煮る甘い匂い。

 トーストに乗せたあたたかな苺ジャム。

 苺ミルクのピンク色。


 外吹く風は冷たくても、日差しはほっこり暖かい。

 マーガレットの花束を手に、渡る橋の上から眺める桜並木と花筏。

 オオイヌノフグリ、ホトケノザ、カタバミ、スミレ、菜の花が彩る道。少し下手っぴな鴬の声。


 貴方に手向けた線香から細い煙が優雅に空へ上る。

 この白線を辿って、貴方は此方へ帰ってくるのかしら。


 ねえ、貴方。

 彼岸にいる貴方が此岸を訪ねるこの日、世界はすっかり春色に染まっていることを私は最近になってやっとわかったのよ。






『春の使者』 ※怪異注意


 春のとある寒い夜。遠くで聞こえた猫の唸り声がふと止み、ゴウと強い風が吹く。

 窓と戸が小刻みに揺れたと思えば、ドウッと硝子に何かがぶつかり、次いで照明が消える……否、部屋に真っ黒な"何か"が侵入したのだ。


 それに気付いたのは寒かった部屋が急にぬるりとぬるくなったから。"何か"の息遣いが聞こえるから。泥とツワのにおいがしたから。


「こンばンハごきゲンいかガ」

 私を飲み込み部屋中をみちりギチリと満たす春の訪問者が尋ねる。

 肝を逆撫でされた心地だとは到底言えない。






『揚げ物』


 パチパチと小さく爆ぜる音。

 チュワーッジュワジュワー、熱した油にタネが入る。

 パチパチカチッと爆ぜるのは、油が水気を拒む音。


 油の中でタネが踊る、揚げる音はできあがりの合図。

 チリッチリジリジリチリリ、そろそろ揚がる頃合いかしら。


 一度鍋の中身を引き揚げたら、さあ次を揚げましょう。

 山盛り揚げ物盛りだくさん。

 ああ、実家に返って来たなあ。






『燃える』


 走ってはしって、

 心臓が早鐘を打つのも、肺がこれ以上は堪らんと震えようと、頭痛がしようと、洟が出ようと走って、

 とうとう膝が折れて崩れ落ち地にへばろうと、

 それでも泥に手を突き、起き上がり、先を見据えて立ち上がろうとする少年の、

 燃えるような瞳は嗚呼、どこまでも恐ろしく清く。

はっさくの味 2024.3.18

迷い羊い赤 2024.3.19

春分 2024.3.20

春の使者 2024.3.20

揚げ物 2024.3.21

燃える 2024.3.22

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