追っ手
「どういうこった…… まさか発音をミスったか!?」
「肝心なところで役立たずじゃないですか!」
そんなやり取りをしていると、客室内にアナウンスが流れた。
「次は~、あの世~、あの世~」
2人とも、まずい、という顔をする。
このままでは勇者が言っていた通り、生きたままあの世に連れていかれてしまう。
「魔法使いさん、ちょっとこのワラ人形を預けますよ!」
妖精は扉を開け、車両の連結部分にやって来た。
S字を描いた鉄のつなぎ目に指を入れ、力を込めた。
すると、連結が外れた。
「おっ、何が起きた?」
魔法使いが妖精の方に駆け寄る。
「連結を外しました。 方法は企業秘密ですが」
切り離された車両は、みるみるスピードを緩めていく。
どうにか、あの世に連れていかれる寸前で、免れることができた。
「……ここは、森の中ですか。 来た道を引き返しましょう」
3人は、レールの上を歩いて、来た道を戻り始めた。
空は闇に包まれ、かすかな月明りを頼りに歩く。
街に戻るのにどれくらいかかるかは分からなかったが……
「……くそ、魔力が残ってたら一発で帰れたのにな」
「何で詠唱ミスったんですか。 自業自得ってやつです」
その時、背後が一気に明るくなった。
妖精が振り返ると、置き去りにした車両がメラメラと燃え盛っていた。
「やばいぞ! 追っ手だ」
ネクロマンサーの集団が、ワラ人形が逃げ出す前に始末しに来たのである。
車両が切り離された報告を受け、魔法でノータイムで駆けつけてきた。
「走れっ!」
魔法使いが呼びかけた時、前方に松明を持ち、フードを被ったネクロマンサーが立ちはだかった。
「動くな。 そのワラ人形を置いて行きなさい。 大事そうに抱えている所からして、さぞかし大切な人の魂なんでしょうけどね」
「これはタナカです。 私は、彼を助けなければなりません」
「……!」
一瞬、相手が動揺したように見えた。
そして、妖精は気が付いた。
フードの中の女性は、映像に出てきた女の子と同一人物であるということに。
「……どんな魂だろうと、見逃す訳には行きません。 通りたいのなら、私を倒して行きなさい!」
地面を蹴って、丸腰で向かってくる。
妖精は簡単に相手を地面に抑え込んだ。
「くっ…… 今のうちに行きなさい」
「……! 恩に着ます」




