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第七十五話 正解が記憶の中なら、捏造したっていいじゃない

 朝、川の字で目覚めた私達は誰も蹴落とされる事なく、布団もきっちりかぶって眠った時のままの姿だった。

 エルとかちょっと寝相悪いかもって思ってたけど……ごめん、偏見だった。プリメラに関しては寝返りすら打ってないんじゃないか心配になるくらい微動だにしてないし……寝相の良さって金持ちの必須スキルなの?

 二人は着替えと帰宅準備の為に一度部屋に戻って、私もパジャマから私服へ。髪はどうせ帰るだけだし、プリメラからもらったシュシュで一纏めにしてしまおう。


「マリアちゃん、用意出来たー?」


「今行くわ」


 荷物は来た時の様に転移魔法で送ってもらうからそのまま部屋に置いて、飛行船の中で使いそうな物だけを手元に残し部屋を出た。

 集合時間までまだ少し時間はあるけど、結構な人数が集まってる。部屋で一人時間まで待ってるより友達と話してる方がいいもんね。


「マリア、こっちー!」


「飲み物頼んじゃったけど、ミルクティーで良かった?」


「ありがとう、嬉しい」


 まるでカフェの一角の様だが、ここは合宿場です。何で二泊三日したのに最後の最後でこんな説明をせねばならんのか。 本当に至れり尽くせりで堕落への手招きが酷い。

 席に座ればタイミングを図ったかの様にカップが運ばれてくるし、色々出来すぎだからな!


「なんか雰囲気違うね」


「折角貰ったから、使わないと損じゃない」


 ハーフアップって意外と面倒だしね、下ろす部分の髪が巻き込まれたりして絡まったりとか。バレッタだと大分やり易くはなるけど、今回プリメラがくれたのはシュシュだから。


「エルちゃんの分も作りたかったんだけどね、あんまり得意じゃないから」


 勿論プリメラではなくエルが、髪も短いし使うとしてもヘアピンくらい。今回はシュシュとか布物を作ったといってたし、エルとは相性悪かったみたいね。


 まるでお昼時の女子会みたいな会話だが、実際は現在進行系で集合までの待ち時間。時計の針が進むにつれ人が増えるのは当然の事。

 そしてその中の一人が私達へと近付いて来たって何の不思議もない。


「マリアさん、ちょっといい?」


 例えそれがサーシアであったとしても、だ。

 むしろ来るという予感さえあった。

 普段ならば宜しくないので回れ右を願う所だが、今回は昨日の今日。話し掛けられたって意外でもなんでもない、むしろ想定の範囲内ど真ん中、つまりは許容範囲内。


「サーシャ!怪我平気なの?」


「擦り傷ばっかで大した事無いよ、心配かけてごめん」


 袖を捲った腕には仰々しい包帯が巻かれているけど、恐らく私と同じ小規模広範囲を効率的に手当てするための物だろう。

 足取りもしっかりしていたから、捻挫とかの心配も無さそう。本当に運が良かったとしか良いようのない結果だ。


「二人とも、マリアさん借りてもいい?」


「あ、ならあたしらちょっとその辺見てくるよ」


「ごめんな」


「ううん。プリメラ、行こ」


「うん、マリアちゃんまた後でね」


「えぇ」


 怪我をしている私達を移動させるのを躊躇ったのか、二人は席を立って他の生徒に紛れて行ってしまった。いつもは大雑把なのにこういう時はすぐに察する事の出来るエルは隠れ女子力高い系だと思う。

 そして私が返事をする前の行動する所も、昨日の話だと勘づいたから。断る気は無かったし、さくさく話しが進むのはありがたい。


「話し中に、ごめんな」


「大丈夫よ、二人とはいつでも話せるわ」


 さっきから謝ってばかりだけど、私も二人も気にしていないのに。今話さなければならない様な内容では無かったし、むしろ、それはサーシアの方で。

 今話さないといけない、このまま学園に戻ってうやむやになってしまう前に。


「あの……昨日の、事で」


 やっぱり、というかそれしか無いですね。むしろそれ以外だったらビックリだわ。

 言い辛いのか口ごもっているけれど、大方想像は付いていたりもする。そしてそれに関しての対処も……一応考えてはみた。


「昨日の、俺の事……俺から、皆に言いたい。いつか、言える様になりたいから……だから、あの事は秘密に」


「──あら、何の事かしら?」


 首を傾げる私の前にはお手本みたいなきょとん顔。

 私の返答が予想外過ぎて意味が分からないって感じ。次に、伝わらなかったのかっていう困惑が見て取れる。

 濁していったから伝わらなかったのか、その不安が段々と表情にも色付いて、困った様に眉をひそめた。私がやったら確実に不機嫌と捉えられるだろうに、ちょっと羨ましい。


「えっと……昨日、俺……」


「あぁ、そういえば」


「あ……っ」


 まるで今気付きましたと言わんばかりのリアクション、しかもわざとらしい。私の演技力は赤点だな。

 そんな追試レベルの演技だが、サーシアは自分の言いたい事が伝わったという期待にちょっと嬉しそう。うん、伝わってる。むしろサーシアが近付いて来た時からちょっと予想してた。

 でも、ごめん。私はその期待を裏切る方向で行く。


「ちゃんと、お礼を言っていませんでしたわ」


「へ……?」


「昨夜は私のせいで巻き込んで、怪我までさせてしまい、申し訳ありません」


 立つと目立つから座ったまま、少し腹筋に力を入れて。


「助けて下さって、本当にありがとうございました」


 出来るだけはっきりと、一つ一つの言葉に力を込める感じで、最後まで言い切ってから頭を下げた。


「え、ぁ……っ、いや、俺は何も……というか、そうじゃなくて!昨日はむしろ俺の方がお礼言うべきだし……」


「いいえ」


 疑問も反論も認めない、これは決定事項です。

 サーシアは私に巻き込まれただけ、それは昨日先生に説明した事だが、私はもうそれを事実として押し通したい所存です。

 サーシアの弱点を知ってしまい、どうするか考えた結果……無かった事にするという結論になった。

 だって、攻略対象の弱点なんて取り扱いに困る。敵なら切り札になるけど、私はむしろ敵にならない様に頑張ってる訳でして……自爆しそうな手札はいらん!


「あなたは、私のせいで巻き込まれただけですわ」


 そう、それが事実なんです。私はサーシアの過去も、それに伴ったトラウマも、彼の弱点も何も知らない。

 サーシアの弱点はヒロインとの恋愛でも結構重要な要素になるし、正直関わりたくないんだよ。なので『二人だけの秘密』系だったヒロインとは逆を選ばせてもらいました。『私は何も知りません関係ありません』系です。


「そろそろ集合時間ですし、行きましょうか」


「ぁ……っ、う、うん」


 本当はまだちょっと時間あるけど、これ以上は話しませんこの話題は終了!

 二人して席を立つと、すぐにサーシアは友達に囲まれてしまった。私といた時は寄って来なかったのに……そんなに私怖い?まだギリギリ気が強そうくらいで留まってると思うんだけど。


「マリアベル様、おはよう!」


「え、あ……サラ、様。おはよう」


「あはは、サラでいーよぉ」


 後ろから声をかけられて振り向くと、サーシアの友人で昨日ちょっと話した子が可愛らしい笑顔で立っていた。サーシアがサラって呼んでた……うん、当たってたから良しとしよう。決して忘れてなんかない、ちょっとその後が衝撃的過ぎて薄れていただけ。

 サーシアと話しにきただろうに、わざわざ私にも挨拶をくれるとは、これがコミュニケーション能力というやつですか。


「昨日は大変だったね。怪我大丈夫?」


「見た目が大袈裟なだけで、怪我自体は大した事無いわ。ありがとう」


「そっかー、良かった」


「昨日はごめんなさい。皆さんにも迷惑を掛けたでしょう?」


 エルやプリメラの様に心配もかけただろうけど、企画した人達には要らぬ罪悪感とか与えてそう。自分達が企画した肝試しで参加者が戻って来ないなんて心の負担なるに相応しすぎる。


「マリアベル様が謝る事ないよー、まさか地図が間違ってるなんて思わないもん」


「……え?」


「知らなかったとはいえ、私こそそんな地図渡しちゃって……ごめんなさい!」


「ぁ……いいえ、これは私の不注意ですから、気になさらないで」


「ありがとうー、本当、二人共無事で良かった!」


 それじゃあ、またね!最後もちゃんと笑顔と元気を忘れずに去って行く彼女はまるで女の子版サーシア、そして向かう先もサーシアなのだから本当類友って凄い。

 名前も昨日知ったという事はゲームに出てこない、もしくは名無しのモブ程度で警戒する必要はない。となればただ可愛らしい、フレンドリーなクラスメイト。サーシアの友達って所がネックだが、単体で話す分には問題ないだろう。

 友達にはなれないかも知れないが、クラスメイトとして友好な関係は作れる相手なはず。

 それなのに、何故こんなに違和感を覚えるのか。

 

「何で……地図の事知ってたんだろう」


 先生にも言っていない、サーシアと私だけが知っている事。昨夜の、本当の欠片。


「サーシアが言ったのかな……」


 企画した責任として反省しようとでもしたのか……何でも良いけどあんまり広まると困るので是非止めて欲しい。反省は個人で、具体的には私の預かり知らぬ所でお願いします。


「……長かったなぁ」


 増えてきた人、騒がしくなる声に終了の気配を感じる。後数分で私達は空を飛び、今日眠るのはもうすっかり馴染んだ寮のベッド。

 色々あった、本当に色々有りすぎた二泊三日でしたが、何だかんだ楽しかったし良い思い出も沢山出来て。イレギュラーはあったけど……精神に負荷かかったけど、結果的には楽しい合宿でした。嘘じゃないです、事実ちょっと名残惜しい気もする。

 家に帰るまでが遠足、学園に帰るまでが合宿。そう思いながら、私は残り僅かな合宿を楽しむ為友人二人を探しに歩き出した。

 

 ……あ、ケイトへの花の種見るの忘れてた。

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