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【番外編】バレンタイン当日


 問い、今更過ぎる問題に気付いた私の取るべき行動は?

 答え、気にする様な神経してないだろ気にすんな。


 ……うん、確かに。何か一瞬焦ったけど、今更ケイトに対して気を揉む必要はない。お母様作とはいえ、今までも毎年一緒にお菓子食べてた訳だし。今年は私が作ったので我慢してもらうってだけの話。


「……誰に何の言い訳してんだろ」


 答えは出たのにスッキリしないまま、バレンタイン当日を迎える事になった。



× × × ×



 何となく学園全体が甘い匂いがするのは……気のせいではないだろう。乙女ゲーム世界のバレンタインだもんね、悪役令嬢以外には素敵な恋が用意されてる世界ですもんね。祟ってやろうか。

 何より、私の隣の席が人気者だし。それこそ乙女ゲームで攻略対象になっちゃうレベルの。


「サーシャ、これ隣のクラスの子からー」


「あぁ、ありがとう」


 机の上に山を作るチョコレート達。義理なのか本命なのか友チョコなのかは分からないが、あらゆる人に好かれているのは間違いないだろう。

 ただその量を食べ切るのは大変だろうなぁ……と思うくらいには山が大きいんだけど。


「サーシャ君、これもいいかな?」


「あ、うん」


 プリメラまでもがその机に紙袋を置いた時には驚いたが、よく見たらその紙袋は昨日私達と一緒に作ったやつではなかったから……橋渡し的なあれかな。

 相手に関して何も言わなかった、聞かなかった所を見ると、本命だろうか。イケメン好青年なサーシアだから、この機会に告白したいって思う子も多いだろう。


「……あれ?」


「どうかした?」


「あ、ううん……何でもない」


 朝一でプリメラからもらったブラウニーを食べているエルが不思議そうにしていたけど、私は今しがた気付いた事実でどれ所ではなかった。

 いや本当に今更だし、なんなら昨日どうやって渡そうなんて欠片でも悩む暇があったら先に気付いておくべき事なんだけど。


 もしかして、ケイトも本命を貰ったりとかするのかな。



× × × ×



「それじゃ、あたし達はそろそろ行くねー」


「また明日、マリアちゃん」


「えぇ、二人とも部活頑張って」


 ひらひらと手を振り親友二人を見送って、私も迎えた放課後の予定を遂行せねばならない。

 ケイトへチョコレートを渡す……それだけの事なんだけど。


「花壇にいるかなぁ」


 基本的に私達は約束をしている訳ではない。ケイトは大抵花壇にいて、私がそこに行くというだけで。私が行かなくてもケイトは花壇にいるし、私が行ってもケイトがいない事だって稀にあり得る。まぁ十回に一回程度の確率なんだけど。


 今日に限っていないとかなったら、このチョコどうしよう……なんて、考えいる内に着いたらしい。



「──あのっ!これ、受け取って貰えませんか……っ!!」



 緊張に震えた声。所々上擦っていたし、つっかえた所もあった。けれど、だからこそ、その想いの真剣さがよく分かる。


「あ……」


 私から見えるのは、制服姿の女の子の背中。それと、きょとんとしたケイトの顔。

 誰がどう見ても、これはあれだ……本命を渡している真っ最中という奴だろう。

 まぁ可能性としては考えていたし、ちょっと予想はしてた。ケイトが花壇にいる事は調べるまでもなく分かる事だし、誰にも見られたくない……秘めた恋心を伝えるには、これ以上のシチュエーションはないと思う。


 だからこそ……うん、見ちゃってごめんなさいって感じです。罪悪感が募るよね。幸いまだ女の子には気付かれていないし、また後で来るか……。


「……、っ」


「…………」


 あ、ケイトと目があった……うん、こっちもこっちで気まずいな。幼馴染みが告白されてるのって、なんかくすぐったいというか気恥ずかしいというか。


 とりあえずケイトに目と手で合図を送ってからその場を離れて、声が届かない校舎の影に身を隠す。ここならもし女の子がこっちに来ても影だから気付かれないし、声も届かないから告白の続きも盗み聞かなくて済む。


「まぁ……そうだよね」


 ケイトを好きになる子がいる……そんなの、当たり前だと思う。ケイトを好きになるなんて、あの子はとても見る目があるなんて、偉そうにも思ってしまうくらいに。


 だって、他の誰よりも、ケイトの良い所を知っているのは私なのだから。


 私が知らないだけで、初等部の頃にもこういう事があったかも知れない。バレンタインにチョコレートをもらったなんて話は聞いた事がないけれど、人の気持ちを無闇に吹聴する男ではないから。

 

「──マリア」


「っ……ケイト、もういいの?」


 どれくらいの時間が経ったのか、ぼーっとしていたから正確には分からないけど、多分五分も経っていないと思う。

 告白にどれくらいの時間が必要なのか、一般的な答えは分からないけれど、私を探しに来たという事は……そういう事なんだろう。


「ん、待たせてごめん」


「私こそ、タイミングが悪かったね」


「それは微妙だな。俺今日は花壇に来る予定なかったし」


「そうなの?」


「だからあのタイミングじゃなかったらマリアとすれ違って終わってた」


 それは……何とも言えない微妙な気分になるね。ケイトも同じ気持ちなのか、珍しく困った顔をしてる。

 あの子がいなければ、私が心配していたもしもがあった訳で、そうなったら用意したチョコは私のお腹に収まる以外になかった。ただタイミングだけが素直に喜べない。


「じゃあ今日はもう帰る?」


 ケイトの肩には鞄があるし。多分私を探してそのまま帰るつもりなのだろう。作業着じゃない時点で気付くべきだったけど、それだけ驚いたって事か。


「マリアはどうしたい?」


「え?」


「あそこにいたって事は、俺に用があったんだろ?」


「それは……」


 バレてる……そりゃバレるか。私が花壇に行くなんて、ケイトに会いに行くくらいしか理由がない。

 ただ、あの光景を見た後では、チョコを渡す為に来ましたとは言いづらい。別におかしい事ではないと昨日の夜思ったはずなのに、バレンタインは恋の為だけの行事ではないと分かってもいるのに。

 自分の感情をチョコレートに乗せて送る事が、こんなにも恥ずかしいとは思わなかった。


「え、っと……」


 視線がさ迷う、顔が勝手に熱を持つ。

 さっきの女の子は、きっと私よりもずっと緊張しただろう。そう思うと、顔も知らない女の子への尊敬の念がカンストしそう。

 幼い頃から失敗も成功もさらけ出して来た相手に、今更感謝のチョコレートを渡すだけでこんなにも心臓が過剰運動をするとは。耳の奥がうるさくてさっきから自分の声が遠い。


「マリア……?」


「っ!これっ、あげる!!」


「……は?」


 私の様子に、心配して顔を覗き込んで来ようとしたケイトの胸に、高速で鞄から取り出したチョコレートを押し付けた。

 突然の奇行にケイトが目を丸くしていたけど、私は今それ所ではない。


「あ……、ぇ、っと」


 頭が急速に冷えて、自分の行動を振り返る。行動する前はあんなに焦っていたのが嘘の様だ、今は冷静になりすぎて辛い。なんで人は行動してから視野が広くなるんですかね、焦ってるからか。一人理解はしたけど、納得は出来ないです。この世界は乙女ゲームですが、セーブもリセットも出来ないんで!


「これ……チョコ?」


「……まぁ、一応」


 バレンタインですから、このタイミングでのプレゼントなんてチョコ以外にないだろう……と、八つ当たりしたくなったけど、さすがに見苦しいのでしません。

 ただあんまり観察しないでくれケイト。箱に詰めるまでは楽勝だと思ってたのに、ラッピングが始まった瞬間敗けを認めたくらいだから。それなりに器用だと思ってたけど、ラッピングって器用さよりもセンスと丁寧さだって分かったよ。


「…………」


「あ、の……ラッピングはあれだけど、中身は大丈夫よ。プリメラと一緒に作ったから、味も保証出来るし!」


 だから早くしまってください、公開処刑過ぎて泣くぞ。

 何も言わないケイトの反応が怖くて、逸らしていた視線を向けたら……こいつは私の話を聞いていたのかいないのか、器用にリボンをほどいて包み紙を開いていた。私よりも器用な指はラッピングに傷一つ付けずに中身を取り出して、思わず凄いなーなんて呆けてしまった。


「って、ちょ……っ!?」


「あ、美味い」


 元々部屋で食べてもらうつもりだったから、フォークも何も付いていない。それを分かっていたのかは分からないが、ケイトは何の躊躇いもなく指でチョコを一粒口に運んだ。

 口の端に付いたパウダーを舐め取って、感想は一言だけ。それでも、お世辞や嘘を言う男でない事は私が一番知っている。


「ほ、ほんとに?」


「ん、俺これ好き」


 その言葉通り、あっという間に完食したケイトは、空になった箱を自分の鞄にしまった。空になったなら私が持って帰っても良かったんだけど、何故か断られたのでそれ以上は突っ込まなかった。


「ごちそうさま、美味かった」


「うん、ありがと」


「じゃ、帰るか」


「うん……ね、ケイト」


「ん?」


「……ううん、何でもない」


 あの女の子の想いがどうなったのか、少しだけ気になったけど、答えが返って来ないのは分かっているから聞きはしなかった。

 ただあの時……少しだけ見えた鞄の中に、それらしい物が見えなくて。それが結果なんだと思ったら、少しだけ切なかったけれど。


「ホワイトデーは期待してる」


「言うと思った。心配しなくてもマリアの好みは把握してるよ」


「……なんだろう、嬉しいけど悔しい」


「なにそれ」


 ケイトが出した答えなら、きっとそれが最善だから。

 震える声の後ろ姿を忘れる様に、私はケイトとの会話に意識を向けた。


 


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