↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペインター!  作者: あずさ2号


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/2

第2章 【転生】ここはどこ?私は誰?

 ピチョン。ピチョン。

 雫の落ちる音がする。

 冷えた体。頭も重い。

 だけど、雫が落ちるにしたがって、そこからだんだん体が温かくなってくる。命が満ちてくるようだった。

 「大丈夫ですか?!」

 今度は……誰……もう落ちるのはイヤ……。

 恐る恐る目を開ける。

 そこにいるのは端正な顔をした青年。

 「!?」

 あわてて跳ね起きる。

 「あっ……あなたは……!!」

 「よかった。頭を打ってから動かないから、もうだめかと思いましたよ」

 目の前にいるのは……。

 淡い青の瞳。きらめく銀色の髪。陶磁を思わせる白い肌。筋肉を感じさせない、スレンダーな、長身。声音を抑えた低い声。そして、その口調。

「メイ・リル」

 言うと、彼は眉をひそめた。

 「何です。フルネームは呼ぶなと言ったでしょう」

 そうだった……彼はフルネームだと女の子っぽいからと、呼ばれるのが嫌なんだっけ…ああ……でも……。ということは……。

 まじまじと見つめてしまった。

 う……うそ……だあ……。

 そう、そこにいたのはまぎれもない。

 私がソシャゲで課金しまくっていた、推しの張本人、メイ・リルその人だった。

 「どうして、ここにいるの」

 「……どうして?」

 ますます眉をひそめる。

 「もしかして、頭を打った時に、どうかしてしまったんですか」

 「えっ」

 「そんな記憶もないのですか」

 「私が頭を……?」

 うなずく。

 「だからとっさにこれで手当てしましたが……」

 と言って取り出したのは……。見覚えのある、瓶。

 「ポーション?」

 「そうですよ。もう使い果たして空ですけどね」

 さぁっと引く血の気。

 まさか……まさか……!!

 周りをよく見る。そこは会社なんかじゃなかった。大きな岩に囲まれて、ところどころに水場があって……暗くて……湿り気があって……。

 植物も変な色と形。絶対に地球には生えてなさそうな……でも……見たことのある、景色だった。そう。ゲームの場所だった。

 「ここはどこ? なんで私はここにいるの?」

 「マノン……」

 呼ばれた名前に動揺した。

 その名前。さっきの女性の名前だ。

 「どこへ行くんですか?!」

 とっさに走って近くの水場に行く。

 揺れる水面に自分の姿が映っている。

 「あ……ああ……」

 かすかにぼやけているけれど、金髪に茶色の瞳。薄く軽い、ふわふわの衣装からでもわかる、曲線美。そっと顔に手をやると、すべすべの肌が気持ちいい。ふわふわの髪が指にからむ。

 女性ながらも酒場のマスターで、ユーザーの案内人。

 マノン・レイア。さっきの…女性、だ。

 どうして忘れてたんだろう。

 〈決めた!!……あなたにあげる!!〉

 そして、知る……。

 さっきのやり取りの、意味を――。

 私は彼女の体を、ゆずってもらったんだ。

 このゲームの世界に、転生しちゃったんだ。

 「何をやってるんですか」

 「ご……ごめんなさい……私……」

 「マノン。先ほどから変ですよ。熱があるんじゃないですか」

 と言って額に手をあててくる。

 くうううううう……ち、ちか……近い……手が額に……気絶するう……。

 じゃなくて……っ。

 「今からドラゴン倒すのに、そんなのでどうするんですか」

 「え?」

 一瞬の静寂。

 「だから、ドラゴンですよ」

 「2人で?!」

 「ええ」

 私はぼーぜんとした。

 普通、このゲームはパーティーを組む。基本、5人。大きいモンスターのときは、みんなで何人も集まって倒す。だから楽しくもあるんだけど…2人なんて、しばりゲームでなくても、無理だよ。ドラゴンだよ?

 「その……どうしてそんなことに……?」

 その時の、メイの顔。まるで汚物を見るような、軽蔑に満ちた、冷たい視線。

「あなたが……私の仲間に手を出したんでしょうが」

 「え……えええええええええ?」

 「色恋沙汰で仲間割れして……その噂が酒場で広まって……しばらくは仲間とは行動できないでしょうね」

 「……」

 「あなたが、夜な夜な酒場に訪れたパーティーに手を出しているのは知っていますが、本当に、そろそろやめたほうがいいですよ」

 「よなよな……夜な夜な? えええええええ?」

 う……嘘でしょうおおおお。

 わ……わた……いやマノン?何してくれてんの?

 ゲームでもそんな設定聞いたことないよ!!

 「だからあなたが『仕方ないからついて行ってあげる』と」

 「仕方ないって……あげるって……」

 あなたがやらかしたんでしょうよ……。

 「まさか忘れたなんて言わせないですよ?」

 ああ……ああああああああ!!

 ふう、とメイは一息ついて、そっぽを向いた。

 その髪は水面に揺れてとてもきれいで…。じゃなくて。

 私はもう、合わす顔がなかった。ショックで泣きそうで、我慢するとのども痛くて、口をきけなくなっていた。

 好きなキャラに、こんな侮蔑に満ちた、視線を受けることになるなんて思わなかった。

 実装されたら嬉しくて、ガチャで新しい衣装が出れば出るまで引いて…もう3桁は行ったはずだ。それがこの結果だ。

「ごめんなさい」

 か細い声で謝った。 本人じゃないなんて、信じてもらえない。なら、せめて。

 肩をたたかれた。

 振り向けば、優しい光の目が、私を見つめていた。

「もうその話はいいんですよ……それに……」

「それに……?」

「なんだか……マノンじゃないようで……調子が狂いますよ」

 ふと、見上げると……。

 わ……笑った……めったに笑わない……メイが……。

 わああ……スクショ撮らせて……。

「ドラゴンさえ、倒してしまえば、いいんですからね」

「えっ」

「さあ、行きましょうか」

「いやちょっと待っ……」

 ずるずるずる。

「いやあ……無理!! メイ!!」

「大丈夫ですよ。この借りはドラゴンさえ倒せば、なしにしてあげますからね」

 私は引きずられるようにしてメイと洞窟の奥へ向かったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。