第1章 【現代】下手くそと呼ばれて…
「下手くそ」。
絵を描くのが好きだった。
小さいころから、絵を描けば物語の世界にひたれた。
描いているだけで、心が癒やされていくような気がして。
だけど、中学校のころ。突然クラスメイトの子からそう言われて。
以来、絵を描けなくなった。絵を描こうとしても。
「下手なんじゃない?」
「デッサン狂ってるよ」
「もう見てらんない」
そんな声が、どこからか聞こえてくる。
もういいや……描けなくても。
世界では誰かしら、美しい絵を描いている。
それだけでいいじゃない。
私が描かなくても。
世界は普通に回るんだから……。
※※※
「うおおおお!!」
ポチポチポチ。
10年後。
私、仙崎花音は社会人となっていた。
そしてソシャゲのとりこになっていた。
ソシャゲとは、言わずと知れたソーシャルゲームの略。スマホなどで気軽にできる、ゲームの1つ。
基本は無料だけど、ゲームを有利にするためには、課金しなければならない。また、推しのキャラができたら、そのキャラにも課金しなければならないのだ。
ジャンルはRPG。ゲームのストーリーは、ソシャゲとは思えないほど詳しくて。ファンタジーな世界なのも好みだった。
なんといっても、私に推しキャラができた。美しいイラスト。冷酷な表情に隠された過去。彼に課金するのに迷いはなかった。
料金は恐ろしいことになっていたが、知らんぷりをしていた。
※※※
そんなある日。
その日は、会社も繁忙期。ソシャゲの周年日だというのに、仕事でスマホも触れなかった。連日の残業で頭痛が続き、鎮痛剤もきかない。いい加減、休みが欲しい……。
ソシャゲをさせて……周年のガチャはいいものが多いのよ……!!
やっとお昼休み。といっても、お昼休憩は実質仕事だ。おにぎりとお茶持参で、席でやらないと終わらないのだ。だからといって、ガチャをやらないわけにはいかない。
会社の他の人の目を盗んで、スマホを持って、あわててトイレへ。
音を消してゲーム画面を起動する。ようやくホッとする。
「仙崎!」
「はいっ?!」
「入ってるの? 仕事終わらないんだから早く出てよね?」
会社の女上司だ。今どき、ブラック上司だって言われてる人。何人もやめさせてる最悪の人。上司になったときには絶望したなあ……。
トイレまで来て言わないでほしい……。
「わかりました……」
ばたん。
ああ……ソシャゲができない……ガチャができない……。
真っ暗になった。
……いや、ほんとにまっくら……。
……頭も痛い……ズキズキじゃなくて鋭く痛い……!
信じられない痛みで意識を失いそうになる。
誰か……誰か……。
叫びそうになって、意識を失った。
※※※
「……のん……のん……」
誰かの声が聞こえる……。
「花音!」
突然、意識が上昇する。
視界が開ける。
目の前にいたのは、美しい金髪の女性。
むん!という感じで両手に腰をあてて、しっかりした頼りになる方、という感じだ。
「あなたは……」
「よかったわ……気が付いたのね」
「どこかで見たことあるような……ごめんなさい。どなたでしたっけ」
「ふふっ。無理に思い出さなくていいわよ」
その女性はにこっと笑った。
もしかして……。
「私……死んだんですか……?」
ちょっと困った顔をする彼女。でも、次の瞬間、うんうん、とうなずく。
じゃあ……ここは……天国……? 何もない真っ白な世界だけど……?
「まあ……仕方ないか……あのブラック会社の上司じゃなあ……」
独り言を言ったら、むむ?といった顔をする。
「ブラックって何かしら?」と首をかしげる。
「あああ……ひどい職場ってことです」
「あらら……そんなところで命を落とすほど働いたってこと!?」
「まあ……そうですけどお」
改めて言われるとなんというか……落ち込むなあ……。
「ひどいわね! 私だったらあっという間にやっつけちゃうわ!」
「わああ……ぶっそうなことを言わないでくださいねえええ」
袖をまくりどこかへ行きそうになる彼女と、必死に止める私。一体何をやっているのだろうか。
それにしてもこの感じ……もう少しで思い出せそうなのに……。
「決めた! あなたにあげる!」
「何を?!」
「いいからいいから!」
そう言って、彼女は私の背後にまわる。いちいち意味がわからない。
「あの……?」
「未練がないといえばウソになる……でも……あなたなら……渡してもいいやって思えたから……」
「何を……さっきからなんか怖いですよ……!」
「じゃあね、うまくやってよね! 花音!」
どんっ。
背後を思いっきり押されたのを感じた。
衝撃とともに、落ちる感覚。
「わ……わああああああああああああ」
今度はなんなのよ?
悲鳴をあげながら私は落下していった。
「あとは……あの人のこと……心配なのよね……お願いね……花音……」
遠くから小さい声が……聞こえたような、気がした。




