(153)本当の盗賊
ロイが御者をして二台連結している馬車を動かしている頃、茶番が行われた現場ではジョーカーが後始末を終了して満足げにカードに戻っており、カードの者達の会合が行われて今回の作戦成功を互いに称えて全員が浮かれている。
情報はロイの護衛をしているスペードキングにも流れているので、スペードキングも嬉しそうにしている。
そこが油断につながったのだが・・・
―――ビィン-―――
「え?」
フラウが驚いた声を上げたのは当然で、御者として座っている場所に突然矢が突き刺さったのだ。
スペードキングは自らが油断していた事を大きく恥じているのだが矢が着弾する少し前に高い能力から嫌でも状況は把握しており、この軌道であれば特に問題はないと瞬時に判断し、慌てて対処をして余計な被害が出る可能性を排除する為に敢えて手を出さなかった。
ロイとしてはカードの者達に絶対の信頼を置いているので、多少危険な状況に見えても安全は確実に担保できているという確信がある。
「おいおい、随分と仲がよろしいじゃないの!それが間もなく妻となるお貴族様の行動かぁ?だったらそのおこぼれを頂戴しても良いよな?」
「そうそう。そんな事ができるなら俺達の相手もできるよな?うへへへへ」
彼らはジョーカーが念入りに調教した存在ではなく普通の盗賊なので、少々怯えているフラウを見てニヤニヤしながらも邪魔なロイを始末してやろうと馬車の行く手を遮る。
即座にスペードキングからカードの者達に状況は伝わり、お祭り気分だったダイヤキング達も一瞬で怒りの表情に急変する。
「あろうことか、我が主の護衛任務を行いたいと言う希望を叶えている最中に余計な連中が現れるとは!許すまじ!!」
今こそがまさにその護衛任務の醍醐味とも言える所なのだがカードの者達から見れば想定外の制御できていない状態であり、無駄にロイを危険に晒した愚か者がいるという認識になっている。
いくらカード状態で吠えてもロイによって顕現されなければ直接的な行動はできないので、ジョーカーとスペードキングに指示を出すダイヤキング。
「このけしからん状況を打破するには万屋しかあるまい!ジョーカー殿が対応し、我が主の護衛は継続してスペードキング殿にお任せする!」
緊急事態であるために即座に行動に移り、ジョーカーが万屋としてこの場を支配する。
<我は万屋、よろずや、よ・ろ・ず・や です。まったくお話しにならない雑魚の群れが騒いでいるようですが、田舎者では我ら万屋の事を知らないのかもしれませんね。そこはさておき、当然愚かな行いは罰せられなくてはなりません>
普段通りの話し方ではあるのだがしつこく三回万屋と主張する所はカードの者達の会議で決定した事項であり、そこを守りつつもなるべく怒りの感情を主であるロイの前で曝け出さないように気を付けているジョーカー。
ロイにしてみれば自分の事を我と呼ぶ独特な存在は二体のジョーカーしかいない事を知っているし、顕現させていないのに勝手に出てこられるのもジョーカーしかいない事は把握しつつ静観している。
「どこにいやがる!」
「はぁ~、ここですよ。本来あちらのお方がしっかりと護衛をされているので何も問題はないのですが、やはり暴挙を見てしまっては余計な事とは思いつつも割り込ませていただきます。宜しいでしょうか?」
姿を隠す必要もないと判断したジョーカーは相変わらず姿が良くわからない状態ながらも盗賊達にも見えるように姿を現すと、本来警戒すべき彼らに目もくれずにロイに対してこう告げた。
あくまで護衛はロイ一人で十分なのだが、あえて自分に対処させてくれ・・・と。
実際の実力で言えば全くそのような事はないのだが、この想定外の乱入があってもロイの希望を叶える方向に強制的に持っていく必要がある。
訳のわからない話しをされている盗賊達は我先にとジョーカーに襲いかかるのだがどう考えても結果は明らかで、戦闘にすらならずに完全に意識を失った人物の山が築かれる。
「余計な事とは知りつつ行動してしまい失礼しました。あえて我に雑魚共の処置をお任せいただけるその懐の大きさにも感服いたしました。では、我はこれで失礼いたします!」
山積の盗賊はそのままに消えていくジョーカーと、たった一人で数多くの盗賊達を無力化して見せた人物さえも隣にいる男性に相当気を使っている状態をしっかりと把握している女性。
「あ、あの・・・やはりリーン様もそうですが、子爵家の方々は皆様が規格外の強さをお持ちなのでしょうか?」
護衛任務をしてみたいという軽い独り言が原因とは理解できるわけもないので、何故ここまでカードの者達が少々暴走しているのか理解できずにフラウという女性の質問にどのように答えるのが正解かを考えているロイ。
「えっと、僕は普通の元ギルド職員ですから、期待されている様な強さはありませんよ?」
「まぁ、謙虚なところも素晴らしいですね」
目の前の盗賊の山を見て微笑んでいるフラウなので今何を言っても信じてもらえないだろうと口を噤んだロイと、その姿を見てフラウは危機的状況から脱した安堵からかロイの優しい雰囲気が原因なのかは不明だが少し身の上を話している。
「・・・ですので、貴族としては当然なのでしょうが政略結婚なのです。リーン様もそれが嫌で冒険者として活動されているのではないでしょうか?」
「えっと、ウチはそのあたりは本当に自由と言いますか本人の意思を限りなく尊重してくれる両親ですので、リーンの真意はわかりません」




