(151)護衛(茶番)①
今のロイは数日歩いてもなかなか目的地に到着できないのでいつものインチキという名のカードの力を借りて高速で移動しており、実はジョーカーから準備が整ったと連絡がきたスペードキングが申し出た結果だ。
「この辺りでいかがでしょうか?」
クラブの部隊がロイを降すと、後方から向かってくる二台の馬車がロイにも見える。
「ねぇ、クラブキング。あれって相当豪華な馬車だよね?ひょっとして貴族とか王族とかが乗っているのかな?」
「おそらくそうだと思います」
珍しくはっきりしない回答ではあったのだがそんなものかと思いカードにしてクラブの部隊を収納するのだが彼らは馬車とロイがしっかりと遭遇するように調整の上でこの場に来ており、実際に相当高貴な人材が輿入れのために町に向かっている所までを完全に把握済みだ。
ダイヤキングの案としてはその馬車をジョーカーが完璧に調教した盗賊達が襲うフリをし、その状況を見たロイがさっそうと現れて撃退、その後流れるように護衛につくという作戦が採用されている。
何の気なしの軽い一言で恐れられている盗賊もある意味とてつもなく理不尽な犠牲になってしまうのが凄いところなのだが、ダイヤキング達にしてみればロイと形だけとは言え相対できる栄誉を賜れるのだから!という気持ちが多分にある。
ロイが降ろされた場所、馬車がかろうじて見える場所を見下ろすように何かに怯えている盗賊団がおり、その背後には朧気なジョーカーが睨みを利かせている。
本来盗賊団の拠点の洞窟とこの場所は相当な距離が離れているので到着までは一月以上必要になるはずなのだが、そこはジョーカーが作戦遂行のためにその能力をいかんなく発揮してこの場に即座に連行している。
長く盗賊をしている者や地理に詳しい者は周囲の状況、高台にいるが故に微かに見える町の様子から今自分達がいる場所を正確に把握して、異常な状態を経験していると認識するのだが・・・もうそれどころではなく、背後から相当な圧をかけてくる謎の存在の命令によってこれから一世一代の演技をしなくてはならないので恐怖から足が震えている。
「だらしがないですね!そんな事ではしっかりと活動できませんよ?繰り返しになりますが、あちらのお方に傷一つでもつけてしまった場合は・・・わかっていますね?」
遠目ながらロイを視認できる位置に来ているので、しっかりと守るべき対象でありつつ襲い掛かる対象を教え込むジョーカー。
「先ずはあの馬車を止める形で襲うのですよ?姿が見えないとは言え、我は確実に監視している事をお忘れなく!」
性別すら不詳の存在であり、未だ統領がどうなったのかは不明のままこの場に連れてこられた盗賊達は腹を括るしかない。
「い、行くぞ!」
おそらく統領の次の立場の者だろうが、もう破れかぶれの状態で掛け声をかけた上で指示通りに馬車の方面になだれ込む盗賊達。
カードの者達の事前調査は高貴な立場である事だけを調べ上げており同時に仕入れた輿入れまでの情報は正直余計ではあったのだが、当然の様に護衛が多数いるので激戦になる。
ここで盗賊達が完膚なきまでに叩き潰されてしまうとロイが馬車に乗っている人物の護衛ができなくなる流れになるのはわかっているので、なんと陰から護衛の者達の動きを阻害しているジョーカー。
護衛の者達の命を奪う事もきつく禁止されている盗賊達なので動きに相当な制約があるのだが、それ以上にジョーカーによって無駄に動きを阻害されている護衛達は一人また一人と気絶させられる。
「我が主。あちらの馬車が盗賊に襲われているようです。救出に向かうのはいかがでしょうか?調査の結果、我が主のお力があれば難なく制圧する事が可能です!」
町に向かって移動しているので背後の馬車を全く見ていなかったロイなのだがスペードキングにこう言われて慌てて振り返ると、確かに襲われて護衛がほとんど倒れている状態なのが分かった。
ここまでギリギリの状況にしなければロイの心に余裕があるために間違いなく自分達に対処を指示するだろうと判断したダイヤキングの案によって、悩む暇なく助けに行かなければ間に合わない状態になるまで連絡していなかった。
本来のカード達の力をもってすればこの程度の襲撃に気が付かないなどあり得ないのだが、ダイヤキングの思惑通りに焦っているロイは慌てて馬車に向かって走り始める。
<良いですね?分かっているとは思いますが、これからが本番ですよ?>
盗賊達にしか聞こえない声が響き、最大の難関がやってきたと冷や汗をかきながらロイが走って来るのをなぜか棒立ちで待っている盗賊達。
既に護衛は全員が気絶させられており本来の盗賊の動きであれば金品を奪う行動に移行して素早く逃走するのだが、ぱっと見強くもないロイが走ってくるのを黙って見ている。
実は緊張しているのは盗賊達だけではなくこの作戦を立案したダイヤキングや実行しているジョーカー一体を含めたカードの者達も相当緊張しており、なぜか残り一体のジョーカーまで本当の万が一をなくすべく勝手に顕現して誰にも気が付かれない状態でロイの近くに潜んでいる。
「何をしている!無駄な抵抗はやめておとなしくしろ!」
勇ましい掛け声とともに抜刀しているロイに対し、盗賊達はなぜか非常に緊張した面持ちのままこう告げる。
「お、お前は誰だ。俺たちの邪魔をするなら、そそ、そっちこそダダではおかないぞ?」
なぜかセリフ棒読みで所々どもっているのだが、真実を知らないロイや馬車の中にいて震えている女性はそれどころではない。
「口で言ってもわからないなら、実力行使だ!」
ロイ単体の力であれば瞬殺されるのだが、お膳立てが整っているのでそうはならない。




