第八界層/龍帝カズラ
第六界層・大海原。
穏やかな波が打ち付ける波打ち際で、僕たちは水平線を眺めていた。
「きれーですねー……」
「そうだねー……」
あまりの壮大さに呆けてしまう。
「これ、どうするんです?」
「……これ?」
水平線……である。
第七界層に向かうには、この海を渡る必要があった。
「以前はどう渡ったんですか?」
「泳いだよ。普通に」
いい波を捕まえて、それでも半日くらいだったか。魔物は威迫でどうとでもなる。
「私、泳げないですよ?」
よく浮かびそうだな、とは言うまい。
「大丈夫。見てて」
その辺の流木を拾い、浮かべてみる。
「この木の周りの水をどかすと、その分だけ水が戻ってくる」
「はぁ……そう、ですね」
「この木が僕たちだ」
「……?」
しゃがんで覗き込みながら、小首を傾げるヌル子ちゃん。かわいすぎる。
「僕がヌル子ちゃんを抱えて、水を弾く。水が戻ってくる。その分進む。どう?」
第四界層でも一度やったことがある方法だ。なんとかなるだろう。
「めちゃくちゃ怖いけど……はい。ヒナギクさんが行けるっていうなら、信じます」
「……はい。任されたよ」
◆◆◆
第七界層・洞窟。
そもそも攻略させる気のない大海原と打って変わって、こちらは迷宮のようになっている分、やりがいがある。
「懐かしいなぁ。いろんな魔物がいて、いろんなところがあるから、しばらく暮らしてたんだよ」
「え」
え、とは……。
「でも師匠に会うにはパーティで行かなきゃならなかったし、結局引き返して、フェブレイたちに会ったんだっけ……。あ、大丈夫大丈夫。魔物も強いとはいえ、第四の水蛇ほどのはあんまりいないし、道も覚えてるし」
そんなわけで、僕に怯まず襲い掛かってきたオークを切り払い、火霊ウィルオー・ウィスプの群れは剣圧で周りの空気を飛ばして真空にし撃破。
なんのとはいえない食材をふんだんに使用したシチューを夕飯にして、休んで、進んで、魔物を倒し、進んで……。
特に語るところもなく、第七界層をあとにした。
◆◆◆
第八界層。
暑い雲に覆われた、雷鳴轟く原野。
……来ちゃった。
なんとかアイツに会わず通り抜けたいけれど、そのためには威迫を解かなければならない。
威迫を解けば戦闘になるし、戦闘になれば剣気が出て、それを察知される。
「ヒナギクさん?」
心配したヌル子ちゃんが顔を覗き込んできた。
「あぁ、ごめん。久しぶりだったから、つい」
……向こうの丘の方で、何かが光った。ヌル子ちゃんを僕の背に回して庇う。
――着弾!
僕ですら足のすくむ魔力をまとって、隕石のようにアイツは現れた。
「ヒナギク! ヒナギクだろうな。また会えて嬉ッしいぜ!」
「……久しぶり。できればもう少し静かに出てきてくれないかな、カズラ」
土煙が晴れて、見知った姿形があらわになる。
……というか、まだその姿を真似ているのか……。
「ヒナギクさん、こちらの方は……」
「コイツはカズラ。ここの……龍帝の庭の主人の、龍帝カズラだ」
……あれ? 聞いてない?
「ち、ちっちゃい……ちっちゃいヒナギクさんです!」




