知らぬ手紙
昨夜、〇〇県柊花村に住む六十代男性が遺体で発見されました。
六十代男性は畑で作業をしていたところを、人為的か動物のようなものに襲われたと見られ…………
朝、何気なくかけているニュース番組からは不穏な情報が流れている。
森 来縁は焼いた食パンを齧りながら自分にはあまり関係がない世界の話、と遠く眺めていた。
東京のワンルーム。川沿いの駅から少し離れたアパートを来縁は気に入っていた。
自分なりに築いた城で、ふと小さな仏壇に目を向ける。
二つの小さな位牌と遺影が朝日に照らされている。いつまでも笑顔を絶やさない両親の顔を見て、来縁も無意識に笑みをこぼした。
まさか二人が事故死するなんて予想していなかった。今でも立てなくなるほど、寂しさに押しつぶされそうになる。
けれど、母親譲りの透き通るような茶色い髪と父が教えてくれた、前向きさがあれば二人が近くにいてくれている。
それだけを頼りに、立っていられた。
母に関しては生き写し、といったほうがいいのかもしれない。
昔、母と並び歩いていた時、双子(年が離れているから双子ではないのは明白だけれど)と間違われたことが有るほどに。それはそれで嬉しくて、寂しさを紛らわしてくれていた。
そんな母親がよく言っていた言葉が蘇る。
──来縁、よく覚えておきなさい。誰かと接する時は、優しさを忘れないこと。
──誰かを縛るんじゃなくて、絆で繋がり合う間柄になりなさい。
生前、二人から結婚を反対されて故郷から逃げてきた、らしい。
詳しいことはそれ以上教えてはくれず、その故郷の名前を明かさぬまま二人は逝ってしまった。
二人のことを知りたい。
けれど、故郷の名すらも教えてくれなかったから、親戚がいるのかどうかさえも知らなかった。
「駆け落ちするほど、好きな相手かぁ……」
母親の言葉通り、絆で繋がり合ったから全て捨ててここまで来たのだろう。
記憶の中の二人は、いつまでも仲睦まじく喧嘩をしているところを殆ど見たことはなかった。
それが羨ましい反面、悩みの種で来縁は頭を抱えた。
「本当に、迷惑なんだから…………」
そのせいで頼れるツテもなく、来縁はなんとか一人で二人を見送った。
幸い、二人が残してくれた遺産で大学にも行けたが、来縁は働くことを選んだ。
「まぁ、そんな相手に早々に出会えないでしょ……て、あ、やばい。そろそろ行く時間だ」
両親のことを考えると、嫌でも思い出に耽ってしまう。それくらい、思い出が来縁の中には積み重なっていた。
それでも朝の貴重な時間は思うより短いのだ。
来縁は思いを振り払うように強く首を振り、玄関に向かった。
しがない事務員である来縁は、鞄を持ちパンプスに足を通す。
その時、ふとドアに備え付けてある郵便受けに手紙が入っていることに気がついて、伸ばす手を止めた。




