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運命の出会い

明け前のまだ暗い空の下アルフレッドは新たな一歩を踏み出した


小さなバックを肩に担ぎ行くあてのない道へと旅立つ。


父にはああ言われたもののこれから何をどうしていいのやら皆目見当がつかないアルフレッドは


道に落ちていた棒切れを何気なく拾いあげ空へと放り投げる。


「西か……まあ後は出たとこ任せだな」


 地面に落ちた棒切れの指し示す方向へと歩き始めたアルフレッド


その先に運命の出会いが待っていることなど、この時点では知る由もなかった。



 アルフレッドが旅立ってから三日が過ぎた、特に急ぐ旅でもないのでゆっくりと歩きながら森の中の道を進んでいく。


この道は商業路ともなっていて国家間を行き来する商人の馬車と何度かすれ違うこともあったが


特に誰かと接触したりすることもなかった。


向こうもアルフレッドを見てもただの旅の若い男としか認識していないのだろう。


アルフレッドはここまで誰とも話すこともないまま歩みを進めていた。


「このまま真っ直ぐ行けばボロッソ公国に出るはずだ


あそこはまだ中立国のはずだから戦いに巻き込まれることはないだろう、まずはそこで街でも見てみるか……」


 そんな一人ごとをつぶやいていると後ろからものすごい勢いで走ってくる馬車がいた


〈もしかしてリストランテからの追手か?〉と目を細め警戒したが


そんな思いとは裏腹に馬車は数体の騎馬と共にアルフレッドの真横をものすごいスピードで追い越して行く。


「何だ?俺への追手ではないみたいだが、随分と慌てているようだが……」


 アルフレッドは思わずつぶやく。その言葉通り馬車を操る男は必死の形相で馬を走らせていた


よく見るとその馬車も商人が使っているような実用的なものではなく、色々な装飾が施されている豪華なものであった。


「王族でも乗っているのか?まあ俺には関係ないけれどな」


 アルフレッドがそう言葉を発した時、また後ろからただならぬ気配を感じたので慌てて後ろを振り向くと


大量の砂煙を巻き上げながら武装をした騎馬隊がものすごい勢いで迫ってきていた。


「あれはリストランテの騎馬隊、今度こそ俺を追ってきたのか⁉︎


しかしあの程度の数で俺をどうにかできると思っているのか?」


 不思議に思いつつも警戒しながら構えるアルフレッド


しかし騎馬隊は速度を緩めることもなくそのままアルフレッドの横を通り過ぎて行った


何か拍子抜けというか肩透かしを食らった気分で騎馬隊の後ろ姿を見送るアルフレッド


その直後〈ガシャーン〉という音が聞こえてくる。


常人では聞き取れないほどの音なのだがアルフレッドの優れた聴力でその音を聞き取ることができたのである。


「さっきの馬車と接触したのか?どうやらあの騎馬隊は俺ではなくあの馬車を追っていたようだな」


 どこか他人事のように淡々とした口調でつぶやく。


実際どこの誰がどうなろうとアルフレドにとってはどうでもいいことで


特に気にすることもなくしばらくそのまま道を進んでいると先ほどの馬車が横倒しになっているのが目に入ってくる


付き添っていた数頭の騎馬も倒れておりただならぬ状況であることを示していた。


そしてそれを取り囲むように立っているリストランテの騎馬兵、そんな光景を見てアルフレッドは思わず舌打ちをする。


「血の匂い……ちっ、厄介な場面に出くわしたようだな」


 眉をひそめ面倒臭そうにつぶやく。近づいていくと馬車の周りには数人の者が倒れており地面には血の海が広がっていた。


馬車の近くには傷だらけで座り込んでいる老人と白いローブを羽織った若い姫


そしてそれを取り囲むように見下ろす十数名のリストランテ兵がニヤニヤと愉悦混じりの笑みを浮かべていた。


「貴様ら一国の王女に対してこのような無礼な振る舞い、それでも武人か、恥を知れ‼」


 老人が声を張り上げて訴えかけるが周りの兵達はむしろそれを面白がっているようにすら見えた。


「悪いな、爺さん。そこの王女を連れてこいって上からの命令なのだわ


できれば生かして連れてこいとのことだが最悪死体かまわないと言われている。


だが俺たちも鬼じゃないからな、そこの姫様が命乞いをすれば命だけは助けてやる


その前に少しだけ楽しませてもらうけれどな、へっへっへ」


 リストランテ兵達は下卑た笑みを浮かべながら物色するように姫を見つめた。


「貴様らのような下賤の者達に汚されるくらいならば私はこの場で命を断ちます、決してあなたたちには屈しません‼」


 装飾の入った高級そうな短剣を片手に力強く言い返すと横の老人もそれに続いた。


「姫の身はこの爺が命に変えてもお守りいたします‼」


 二人の必死の言葉を聞いても兵士たちはヘラヘラとした態度を変えない


サディスティックな笑みを浮かべむしろ楽しそうである。


「おいおい姫様、死んでしまってはお楽しみも半減だろうが。


まあ爺さんはここで死ぬことになる、残念だったな。


その命を使っても数秒後には単なる死体だ、何もできないまま惨めに死んでしまいな」


 傷だらけの老人に向かって薄ら笑いを浮かべどうやっていたぶり殺してやろうかと舌なめずりしているリストランテ兵。


そして腰の刀に手を掛けスラリと引き抜くとその剣を頭上高くゆっくりと振り上げた。


その白銀の刃が今まさに老人の頭に振り下ろそうかとした時である。


ふと人の気配を感じチラリと後ろを見ると一人の少年がこちらに近づいていることに気がついた


特に急いでいる様子も慌てた様子もなくまるで何事もないように


淡々と近づいてくるアルフレッドを見てリストランテ兵は思わず眉をひそめた。


「ちっ、通行人のガキか。面倒臭せえ……」


 他の兵たちも気がついたようでアルフレッドの行く手を遮るように立ち塞がるとその周りをぐるりと取り囲んだ。


「おっと、ここは通行止めだ」


「こんな場面に出くわすとは運がなかったな、坊主」


「自分の運の無さをあの世で恨むのだな、クックック」


 十人以上の兵が一人の少年を取り囲み腰の剣をスラリと抜いた。


相手はたった一人の少年だというのに躊躇するどころかどの兵士も楽しんでいるように見える。


 だがそんな事でアルフレッドが動揺することはもちろん無かった、ジロリと兵達を見つめ静かに口を開く


「どういうつもりだ?」


 何故か冷静なアルフレッドの態度にリストランテ兵は少し苛立ちを見せる。


「どういうつもりもこういうつもりもないだろうが、お前はここで死ぬんだよ‼」


「お前ら、俺の事を知らないのか?」


「あ?テメエの事なんか知るか、このガキ‼」


 声を荒げ威嚇する兵とは対照的にアルフレッドは平静な表情のままため息をついた。


「ハア、そうか、お前らはそんなことも知らない下っ端という訳か、やれやれ……


今回は見逃してやるからさっさとどこかへ行け」


「ナメているのかこのクソガキ、もう謝っても許さないからな‼」


 あくまで冷静に対応するアルフレッドとは対照的に苛立ちを募らせるリストランテ兵


額に血管を浮かび上がらせ怒りに震えていた。


「やめなさい、その子は関係ないでしょう‼」


 自分の巻き添えで殺されそうになっている少年を見て王女が必死に訴えかけるが


リストランテ兵がそれに従うはずもなく、吐き捨てるように言い放った。


「うるせえ、どのみちこんな場面を見られたんだ


後から色々と噂を流されても面倒だしな、だからコイツはここで殺す‼」


 もはや説得は無理だと判断した王女はぐっと唇を噛み締めた後、アルフレッドに向かって叫んだ。


「早く逃げなさい、命が惜しいのならば……」


 そんな王女の言葉も虚しくリストランテ兵はアルフレッドの前で剣を振り上げた。


「もう遅い、死ねや、クソガキ‼」


 リストランテ兵の剣が唸りを上げて少年に振り下ろされると王女は思わず目を伏せた。


「なんて事を……」


 だが王女の耳に入ってきたのは驚きの声をあげるリストランテ兵達の声だった。


何が起きているのかわからず恐る恐る目を開けると剣を振り下ろしたはずの兵士の上半身がなくなっていて


下半身だけの不気味なオブジェと成り果てていた。


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