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覚悟と決意

胴体の切断部から噴水のように血が噴き出し崩れ落ちるように前に倒れるリストランテ兵の死体


それはなんとも言い表せない不気味な光景であった。


「一体何が……」


 困惑する王女を尻目に向かってくる兵士達を次々と倒していくアルフレッド。


それはもう戦いと呼べるモノではなかった。


必死の形相で襲い掛かるリストランテ兵をまるで集ってくる蝿でも追い払うように退けていく


そのたびにリストランテ兵の手足や胴体、頭などが四方に吹き飛んでいった。


その様子はまるで爆発に巻き込まれた被害者のごとくはじけ飛ぶように血飛沫と肉片が無造作に撒き散らされた。


 目の前で何が起こっているのか理解できない王女と老人はただただその不思議な光景を呆然と見守っていた。


 時間にして一分ほどだったのだろうが王女達にしてみれば長い夢でも見ているような気分であった


。辺り一面に広がる血の海と肉片と成り果てたリストランテ兵達の死体


血と臓物の嫌な匂いが辺りを満たすという地獄絵図。


しかしそれを引き起こした張本人であるアルフレッドは何事もなかったかの様に服についた埃をはらっていた。


「ちっ、服に返り血が付いてしまったじゃねーか。これからは自分で洗濯しなきゃならねえってのに……ていうかこれ落ちるのか?」


 周りの光景に対してなんとも似つかわしくないセリフを口にしながら再び荷物を肩に担ぐと再び歩き始めたアルフレッド。


その瞬間、ハッと我に返った老人がアルフレッドの前に出てきて大きく頭を下げた。


「どこのどなたかは存じませんが、此度は我らの命を救っていただき本当にありがとうございました‼」


 目の前で深々と頭を下げる老人を見下ろしながらアルフレッドは面倒くさそうに返す。


「別にアンタらを助けた訳じゃない、降りかかる火の粉をはらっただけだ」


「いえ、貴方様に命を助けられたことは事実です、感謝の言葉もありません」


「そんな事どうでもいい、用が済んだのならば俺はいくぞ、じゃあな」


 そっけない態度で再び立ち去ろうとしたアルフレッドだったが、老人はすかさず身を伏せその足元に平伏した。


「どこのどなたかは存じませんが、かなりご高名の戦士の方とお見受けしました。


助けてもらっておいて厚かましいお願いだとは思いますが、ここにおられる姫様を何卒守っていただけないでしょうか‼」


 老人の懇願するような態度にアルフレッドは珍しく驚きの表情を浮かべた。


「何で俺がそんな事をしなくちゃならない、他を当たれ」


「そうおっしゃらずに、何卒お願いいたします。もう貴方様におすがりするしかないのです、何卒‼」


 額を地面にこすりつけ足元にひれ伏す老人を見てアルフレッドは思わず顔をしかめた。


「止めろ、このジジイ、殺されたいのか⁉︎」


「私を殺してもかまいませんから、どうか姫を、姫様を守ってください‼


私はベルドルア王国に使えるロネオラと申します。そしてここにおられるお方はベルドルア王国の第一王女、サーシャ・フォン・ベルドルア様にございます。


リストランテによって国は滅ぼされ国王陛下は囚われの身となりました、国の再建はこの姫様の身にかかっているのです‼」


 ロネオラは目に涙を浮かべながら訴えるように語りかけていた。


「今、我々は国王陛下と盟約を交わしたケルコフ共和国のバルダーク国王の元へ向かっている最中だったのですが


追いかけてきたリストランテの兵に追いつかれこの有様


もはや馬車も使えず次の追手も来るとなると砂漠を迂回していく余裕はありません。


しかし今の私は怪我を負い姫様の足手まといになってしまいます


広大なケトラ砂漠を姫様一人で横断するのはあまりに無謀。


そこで貴方様に姫様の護衛と付き添いを頼みたいのです


もしベルドルア王国復興の暁には望まれるだけの褒美をご用意することを約束いたしましょう


ですからどうか姫様を、何卒、お願い申します‼」


 頭を地面に擦り付けるように懇願するロネオラ、横にいるサーシャも顔に悔しさを滲ませていた。


「ベルドルア……そうか、アンタらベルドルアの人間だったのか。


だったら尚更俺に頼むのは間違っているな、お門違いも甚だしいと言ったところか」


 ロネオラの必死の願いをすげなく断り思わず目を閉じた。


「間違っているというのはどういう事ですかな?」


 アルフレッドの言っている意味がわからず不思議そうに問いかけた。


「簡単だ、俺の名前はアルフレッド・バーキュリー、名前ぐらい聞いたことがあるだろう?」


 アルフレッドの名前を聞いたロネオラは目を大きく見開き


驚きのあまり飛び跳ねるように立ち上がるとそのままヨロヨロとたじろぎながら後ろに尻餅をついた。


「アルフレッド・バーキュリー……我が国の誇る騎士団をたった一人で壊滅させ


ベルドルアを滅ぼした【リストランテの悪魔】だというのか⁉︎」


 口を大きく開けたままそれ以上言葉も出ないロネオラ、驚愕の表情を浮かべ体は小刻みに震えていた。


絶句して動けないでいるロネオラを尻目に小さくため息をついたアルフレッドは


くるりと背中を向けるとそのままこの場所を後にしようとした、その時である。


「待ちなさい‼」


 アルフレッドを呼び止める甲高い声に思わず振り向くとサーシャが怒りの表情で睨みつけていた。


「何だ、まだ俺に用があるのか?それとも恨み言でも言いたいのか?」


「我が国は貴方によって滅ぼされたのです、恨み言ならば掃いて捨てるほどあるわ


でもそんなことより貴方に聞きたいことがあります」


「何だ、俺に何が聞きたい?」


 サーシャは自分の心を落ち着かせるように小さく深呼吸をすると再び語り始めた。


「貴方が本当に【リストランテの悪魔】だとするならば、なぜ私をリストランテへ連れて行こうとしないのですか?


それに先ほどの兵達は仲間のはず、誤解があったとはいえどうして殺したのですか?」


 必死に感情を抑えながら何とか平常な口調で問いかける。


それに対しアルフレッドも特に感情的になることなく淡々と答えた。


「簡単だ、今の俺はリストランテの人間じゃない、旅の途中で偶然アンタらに出会った


それだけの話だ。だからアンタらをどうこうしようという意思は全くない。


さっきの戦闘も馬鹿どもが俺に戦いを挑んできたから対応した、それだけの話だ」


 まるでそれが当然とばかりに淡々と説明するがその話を聞いても全く理解できずに困惑するロネオラ、しかしサーシャは話を続けた。


「ならば今の貴方はどういう目的で旅をしているのですか?」


「特にこれといった目的がある訳じゃない、強いていうならば広い世界を見て色々な事を学びたい……というぐらいだな」


 アルフレッドがそう答えるとサーシャは唇を噛み締め、意を決するかのように語りかけた。


「ならば私と来なさい。世界の為、人類の為にその力を使いなさい」


 その言葉に一番驚いたのはロネオラだった。


「正気ですか姫⁉︎こやつは我が国を滅ぼした張本人ですぞ。そんな奴に助力を乞うなど」


「私は正気です、大義の前には過去の事にこだわっている場合ではありません。


彼が今リストランテの者ではないというのならば世界の為に協力を要請するのはごく自然な事です」


「しかし、姫……」


 どうしても納得のできないロネオラを尻目にサーシャはスッと右手を差し出した。


「私と来なさい。世界とは何か、人とは何か、この世の全て万物の理を教えてあげるわ、そして人類と世界を救うのです」


 自国の仇ともいえる相手に迷うことなく言い切り右手を差し出すサーシャ


その目には不安や動揺など微塵も感じられない。


だがそんな彼女の態度と言葉がアルフレッドを苛立たせた


今まで何があっても感情を表に出さなかったアルフレッドが急に声を荒げて怒りをあらわにする。


「ふざけるな‼何が世界の平和だ、人類の為だ。どうせお前も俺の力を利用したいだけだろうが‼」


 突然烈火の如く激怒したアルフレッドにロネオラは恐れおののき思わず息を呑む。


だがサーシャは少しも動揺することなく真っ直ぐ彼を見つめたまま差し出した右手を下ろすことはしなかった。


「どうしてそう思うのですか?」


「俺は世界の平和の為、人類の未来の為と聞かされて今まで戦ってきた。


だが本当は侵略戦争の道具として使われていた事を知った。


裏切られたんだよ‼だから俺はリストランテを離れた、もう利用されて戦うのはまっぴらごめんだからだ。


どうせお前もそうなのだろう?俺の力を利用したいだけなのだろうが‼」


 先ほどまでとは打って変わって興奮気味な口調で吐き捨てるように言い放つが


サーシャは興奮気味のアルフレッドに向かって静かに語りかける。


「その貴方の行動によって私の国は滅ぼされました、何人の人間が死にどれだけ多くの人たちが不幸になったと思うのですか?」


 痛いところを突かれたとばかりに思わず顔を背けるアルフレッド。


「アンタらには悪いと思っている、だが俺は知らなかったんだ……」


バツが悪そうに顔をしかめ視線を逸らすがサーシャは話を続けた。


「〈知らなかった〉で済む問題ですか?貴方が無知なせいで多くの人が不幸になってしまったのです


人間というのは自分の行動に対して責任をとらなければいけません


それが社会というモノであり人と人とのコミュニティを形成するということです。


貴方は自分が起こしてしまった過ちを自分の手で取り戻さなければいけないのです。


その責任を放棄し我感ぜずの態度で傍観者を気取るのはお止めなさい‼」


 完全に立場は逆転した、国家の軍隊より強力な力を持つ少年が何の力も持たない一人の少女に気圧されていた。


だがアルフレッドもその言葉に完全に納得したわけでは無い


サーシャの言い分は頭では理解できるが自分がまた利用されるのでは?という疑念がどうしても拭いきれなかったのだ。


「アンタの言いたいことはわかった、確かに筋は通っているし理解もできる。


だがアンタが俺の力を利用して今後良からぬ方向へ進んでいかないと言い切れるか?


リストランテだって最初は世界の為、人類の為という目的で戦いを始めた


でも力を手に入れた時その志は大きく歪み、民の為ではなく己のために独裁による恐怖政治へと変わってしまったのだ


アンタがそうならないとどうして言える?答えてみろ‼」


 アルフレッドの力強い問いかけにサーシャはすぐさま切り返した


「ならばその時は貴方が私を殺しなさい」


 その力強い言葉と決意を込めた目に流石のアルフレッドも息を呑むが、その言葉を確認するかのようにすかさず切り返す。


「俺が本当に殺さないとでも思ったのか?俺は女は殺さない主義だがそういうことならば本当にやるぜ」


「やりなさい、女とか男とか関係ありません。私は命をかけて世界と人類の為に立とうと決めたのです


貴方が少しでも私の事を疑わしいと思った時にはやりなさい、遠慮は入りません」


「本当に俺がそう思った時でいいのだな?アンタの指摘通り俺は世間知らずの男だ


そんな俺が勘違いしただけでアンタは死ぬ事になるんだぜ、それでもいいのか?」


 アルフレッドは確認というよりその覚悟を試すかのように再び問いかける。


「くどいですよ、私はこれから各国の王や世界の人たちに向かって協力と平和を訴えていかなければならないのです


貴方一人を理解させられなくて何が世界ですか?どのみち貴方に会う事がなければ私はここで死んでいたのです


貴方の勘違いで殺されるのならば私はそれだけの人間だったという事でしょう、だから私と共に来なさいアルフレッド・バーキュリー‼」


 サーシャは差し出した右手をずっと下げる事なくアルフレッドの目を見つめ語りかけてきていた。


アルフレッドは差し出されたその手をそっと握る、何かはわからない不思議な気持ちが胸の中に渦巻き


心に覆いかぶさっていたモヤが晴れ、光が差し込んできたような不思議な気持ちであった。


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