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勇者がヒモになったなら  作者: ひーらぎ
「エピローグ」
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「エピローグ」

今作品は、C90「よろづ屋本舗」にて販売した作品となります。


 ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ――。

 

 う、うるさい……。

 心地よい夢から引きずり起こされ、目覚ましを消そうと左手を伸ばした――のだが、

「ん……あ、あぁ……。そっか」

 びくりとさえしてくれない左腕は絶賛深雨の枕としての役目を全うしている最中だ。

 ギュッ、とTシャツの袖を握る姿は昨日までと何も変わらないのに、どこか安心しきった穏やかさが垣間見える。

 右手でアラームを消してから、ゴロンと深雨の横顔を見つめるように寝返りを打った。すぅすぅ聞こえる寝息が面白くて、意味もなく頬をつついてみる。

「安心しすぎ……無防備もいいとこだろ」

 チラリと覗く肌色のラインを隠すように毛布を持ち上げ直すと、

「ん……?」

「ごめん。起こした?」

「ううん。目覚まし聞こえた気がしたから……。もう朝かぁ……嫌だなぁ」

 まだ覚醒しきっていないのか、愚図るような声を漏らして布団へ潜った。深雨が横腹に顔を埋めるものだから、こそばゆさに身悶えしてしまう。

「ねぇ……?」

 ひょこっ、毛布から目元だけを覗かせた深雨が恥ずかしそうに頬を染めて言う。

「アルトはアルトだけど……アルベルトさんでもあるんだよね」

「ん、まぁ……そうだね」

「アルトはずっと本当のこと話してたんだね。信じてあげられなくて――えっ!?」

「ん?」

 急に素っ頓狂な声を上げた深雨が枕元へ投げられた目覚まし時計をひったくるように掴んだ。一気に目が覚めたような顔で、

「ね、寝坊!! 今日燃えるゴミの日なのに!!!」

 時計を掴んだまま布団を飛び出た深雨へ、アルトが毛布の中に散らばっていた布を何枚か掴み、

「み、深雨……そ、その。服……」

「えっ、ふ――いやぁぁ!!!」

 一糸まとわぬ姿の深雨が両腕で胸を抱きながら、その場にしゃがみ込んだ。手渡した下着をこそこそ着込んでいるのをぼんやり眺めていると、

「アルトのえっち!」

 目覚まし時計がアルベルトを襲った。そのまま布団へひっくり返り、すぐ脇へ転がった時計を拾い上げる。間もなく八時を指そうとしていた。

 今日も一日が始まる。

「空気読めよ……あと少しで深雨のエロシーンが見れたのにさ」

 勇者としての一日でも、何も知らず、何もできずただ深雨を眺めている一日でもない。 今日からは再び品田アルトとして、彼女の横へ立つ一日が。

 『元』勇者アルベルト・シュナイダーとして、ギブソンとコトハをアレボスへ帰す方法を考える一日が――。

                       

 〈勇者がヒモになったなら 完〉


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