第一話 神獣を待つ公爵家
グランヴァルト公爵家。
王国でもっとも古い魔法名門の一つ。かつて人々がまだ魔法を「奇跡」と呼んでいた時代、グランヴァルト家の始祖は大地に眠る魔力の流れを読み取り、魔法体系の基礎を築いたと伝えられている。
彼らは単に強大な魔力を持つ一族ではなく、魔力を理解し、操り、後世へと伝えてきた者たちであった。王立魔法学院の基礎となった魔法理論の多くも、グランヴァルト家の研究から生まれたと言われている。
炎、水、風、大地、雷、氷、治癒、結界——歴代の当主たちは、それぞれ異なる魔法の道を極め、ある者は戦場で千の兵を守る炎壁を築き、ある者は荒れ果てた土地を一夜にして蘇らせ、またある者は不治とされた病をも癒してみせた。その数々の功績から、国王ですらグランヴァルト家を「王国の魔法の礎」と称したほどである。
しかし、彼らには一つの共通した特徴があった。グランヴァルトの血を継ぐ者は、幼少の頃から並外れた魔力を持って生まれる。ただし、歴代の偉大な魔法使いたちは皆、その中の一つの属性を極めた者ばかりだった。
炎を選んだ者は炎に愛され、大地を選んだ者は大地に認められ、癒しを選んだ者は生命の祝福を受ける。
魔法とは、己の魂ともっとも近い一つの力と深く結びつけるものであり、それこそが、この一族が長い年月をかけて辿り着いた答えだった。
そして当代の前公爵には、魔法以外に人知れぬ情熱があった。それは、数百年前にグランヴァルト家から現れた英雄、アロイシャス・グランヴァルトの研究である。
アロイシャス
神獣に見出され、王国の危機を救った伝説の魔法使い。彼が神獣と共に歩んだ記録は、今なお英雄譚として語り継がれている。
前公爵は幼い頃からその物語に魅了されていた。偉大なる魔法使いとしての生き方、神獣と心を通わせた絆、己の力を人々のために使った姿——それらは彼にとって、ただの昔話ではなかった。
いつの日か、グランヴァルト家に再び神獣に選ばれる者が現れる。前公爵は、そう信じ続けていたのだ。
その情熱はやがて、屋敷の一角を埋め尽くすほどになっていった。東棟に造られた特別な施設には「アロイシャス・グランヴァルト記念室」と名付けられた展示室があり、彼が愛用した武具、魔法具、そして神獣にまつわる聖遺物が厳重に保管されていた。
来客たちはその部屋を見て感嘆すると同時に、少しばかり呆れもした。
偉大な前公爵が生涯をかけて作り上げた神獣博物館——それは一族の誇りであり、同時に彼の隠れた趣味でもあった。前公爵は、いつか再び訪れるであろう奇跡を待ち続けていた。
しかし、前公爵が、まだ知らないことがあった。
長い年月待ち続けた奇跡がすでに、自分の屋敷の中に生まれていたことを。
そして、その存在を、彼自身が「災い」と呼ぶことになることを。




