『冷徹なる査察と、深夜の余波(アフターケア)』
翌朝、神界中央創造局。
ソウゾウはいつも通り、太い眉をキリッと上げ、暑苦しいほどの爽やかさで出勤していた。しかし、オフィスの空気はどこか重く、不穏な噂がさざ波のように広がっていた。
「聞いたか? 昨夜、深夜のオフィスで神の断末魔のような謎のバグ音(あwせdtmrftgy……)が響いたらしい」
「監視グループが本格的な調査に動き出したそうだぞ」
(クッ……! カイゾウの奴に背後から突かれた時の声が、監視の網に引っかかったか……!)
ソウゾウはポーカーフェイスを維持しながらも、内心では劇画調の冷や汗を流していた。
その時である。
背後から、心臓が凍りつくような圧倒的な威圧感が近づいてきた。振り返ると、そこにはすべてを見透かすような冷徹な眼光を持つ、監視グループのベテラン査察官が立っていた。
査察官は、眉間に深い皺を刻み、ソウゾウの魂まで抉り取るようないかつく睨みつける顔で迫ってきた。数秒の息詰まる沈黙。オフィスの全神経が二人に集中する。ソウゾウの脳内では、自身の「おしゃべり植物世界」や「海底ドーム世界」がすべて暴かれ、即座に暗黒の奈落へ連行される最悪のビジョンが駆け巡る。
査察官は、ドスの利いた恐ろしい声で、重々しく口を開いた。
「ソウゾウ君。昨夜、君のデスク周辺から奇妙な叫び声が感知された。……君のような優秀な若者が。まさかな」
(バレた……! バレたのか……!? 私の完璧な偽装ホログラムを、この男は見破ったというのか……っ!)
最大限の緊張。ソウゾウが最期の覚悟を決めて拳を握りしめた。
しかし、査察官はその恐ろしい鬼の形相を1ミリも崩さないまま、じっとソウゾウを睨みつけながらこう続けた。
「若いからって、無理せずに。残業もほどほどにしないとダメだよ。ストレスで奇声をあげるほど追い詰められていたとは……。我が局はワークライフバランスを推進しているんだ。今日は早く帰りなさい」
「……は、はい。お気遣い、感謝します……」
ソウゾウは、相手の顔の怖さと内容の優しさの強烈なギャップに脳をバグらせながら、力なく返事をするのが精一杯だった。
* * *
昼休憩時。
ソウゾウは人気のない中央回廊の廊下で、周囲に誰もいないことを鋭い眼光で確認していた。壁の陰に隠れるようにして、彼は先ほどばったり出くわした「元凶の男」を呼び止める。
「おい、カイゾウ……っ!」
声を潜めつつも、劇画調のブチ切れ顔でソウゾウはカイゾウの胸ぐらに掴みかからんばかりに詰め寄った。
「貴様のせいで午前中、監視グループの査察官に目をつけられたぞ……! 奴の真実の眼が光った瞬間、私の至高の箱庭が消滅するかと……本当に肝を冷やしたぞ……!」
そんなソウゾウの限界寸前の剣幕に対して、カイゾウは悪びれる様子もなくニヤリと笑った。
「あはは、お前が社畜のストレスで狂ったってことになってたアレか? 廊下で噂聞いたわ」
「笑い事ではない……! 奴のあの、獲物を屠るような殺人鬼の眼光で『ワークライフバランスを推進している』と言われた私の恐怖が、貴様にわかるか……っ!」
「すまん、すまん。ちょっとやり過ぎたわ」
カイゾウはポンと手を合わせ、爽やかに、そして平和的に笑いかけた。
「悪かったって。今度、神界の旨い店で飯でも奢るからさ。それで手を打ってくれよ、相棒」
「……フン。神界の最高級エネルギー素粒子でなければ、私の傷ついたプライドは再生せんからな」
ソウゾウは眼鏡をクイと上げ、フイと顔を背けた。しかし、その表情からは先ほどの緊迫感は消え去り、いつもの悪友に対する信頼の眼差しに戻っていた。




